かたいなか

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「個人的に、いつのタイミングで誰と出逢ったか、ここ意外と重要だと思うんだ」
ぼっち用鍋と出逢ってから、私はメシの幅が広がりました。小さなグリルパンで肉を焼いていた某所在住物書き。行儀悪くもスマホで見るのは、某防災アプリの地震発生タイムラインである。

「そこがひとつズレるだけで、人生なんざ簡単に崩れるしその逆も然り、じゃないかな、ってさ」
皆様、思い当たる節あるんじゃない?ふとした弾みの人生転落劇とか成功譚とか?物書きはニヤリ笑って、
「……ただそれを傑作に物語化できる頭が俺に無い」
設定構築、物語組立の面倒を避け、ひとまず前回投稿分の話を引き伸ばして、少々楽をすることに決めた。

――――――

昨日も昨日の都内でしたが、今日も今日な都内です。
すなわち最高28℃、最低だって19℃。ほぼ1日中夏日な土曜日です。
そんな都内某所、某アパートに、住んでいますは雪国の、田舎出身の独りぼっち。暑いのが大の苦手です。
職場のたったひとりの友人や、一緒に仕事をする後輩に、暑さ耐性マイナスがガッツリバレており、
今朝も、「仕事はバリバリ優秀なのに、炎天下ではデロンデロン」のギャップ見たさに、
友人の宇曽野が、アイスの手土産片手に、ぼっちの部屋を訪ねておりました。

「今年の冬は、帰省、」
「お前は連れて行かない」
「まだ何も言ってないだろう。俺はただ」
「どうせ、『またあの大量に積もった雪の上にダイブしたい』だろう。連れて行かない。せめて春にしろ」

「変わったな」
「頑固でケチになった?何を今更」
「違う。少し氷が溶けた」
「は?」

「『せめて春』。昔は駄目なら『駄目』一択だった」
ぱらり、ぱらり。バニラ味のミニカップアイスに一味を振りながら、友人が言いました。
「それが、『こっちなら許す』だろう。変わったよ」
きっかけは初恋からの、「あの」クソな失恋だな。友人はそう続けて、朱とクリーム色をかき混ぜました。

「恋して他人とのすり合わせを覚えて。その恋人に心ズタズタにされて。今まで順調に溶けてた氷が逆に分厚くなった頃、お前のとこの、あの後輩と出逢った」
「宇曽野、」
「あいつの教育係で面倒見て。振り回されて。助けて助けられて。たまにメシにも行ってるんだろう?」
「宇曽野。……何が言いたい?」
「あいつを大事にしてやれ。って話だ」

あの後輩は、きっとお前の「傷」をもう少し治せる。
手放すなよ。友人はそう結んで、アイスをひとくち。
辛さが足りなかったらしく、再度一味を振りました。
「私は、」
人間なんて皆自己中、優しさなんて物語の中だけの絵空事、が信条だった筈のぼっちですが、
「わたしは……、彼女と、出逢ってから、」
友人に言われた言葉が心の隅に引っかかり、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、具合が良くありません。
「かわった、のか?」
ただ即座に反論できないのが悶々で、黙々、友人が持ってきた手土産を、ミニカップアイスを、突っついてすくって、その過程で少し周囲が融けて、
黙々。なめらかな甘さを舌にのせ、喉に通しておりました。

5/6/2023, 3:24:57 AM