かたいなか

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4/7/2023, 11:55:32 AM

「ちょっ、マジか!」
今日の某所在住物書きは、19時の題目通知到着早々珍しく抱腹していた。
「いや、そういう名前の曲有りそうとは、思ってたが、思ってたがな!ヒットしたのコレかよ!」
沈む夕日。スマホ内に保存してあるフリーBGMやサウンドトラック等に、同名の曲が存在するかもしれない。閃いて検索して、「沈む夕陽」、「日」の字違いが一曲だけヒット。再生1秒で物書きは崩れ落ちた。

「どうするよ、持ちネタの先輩後輩シリーズの職場に、メガネに青ジャケットと蝶ネクタイのガキでも出すか?グレー企業殺人事件?」
書こうと思えば判例コピペのクソシナリオは書けるぜ、立花書房と東京法規なら数冊持ってるからな!
腹筋の痛みに耐えつつ、物書きは曲の再生を止めた。

――――――

今週の水曜日。今月から新しくウチの部署の係長になった、名字どおりの「ゴマスリ」オヤジ、後増利係長から、先輩が大量の仕事を押し付けられた。
当初2週間で終わらせろって指示だったそれは、いつの間にか期間が詰まって、来週末期限のお達し。
私もちょっと手伝ってるけど、先輩は昨日から職場での残業をやめて、定時ちょい過ぎで上がって、自宅で仕事をするようになった。
ここでやるより何倍も進むからって。
まぁそうなるよね。クソ上司の邪魔が無いもん。

今日も先輩は定時ちょい過ぎ上がり。
沈む夕日と一緒に、荷物まとめて「お先します」。
せっかくだから、私も今日は早めに帰ることにした。

「どうした。体調不良か?」
ロッカーで先輩に追いついて、靴を履き替えると、私の帰宅に驚いた先輩が、心配そうな声をかけてきた。
「だって定時だもん」
定時ってのは、定時に帰るために、存在するものだと思うんですよ。
どこかのA=Aな政治家構文モドキを付け加えると、先輩は少し首を傾けながら、それでも、数度頷いた。

「先輩ゴマスリの仕事どうなってる?」
「係長殿のご要望に沿えるよう、誠意対応中だ」
「ゴマスリのせいで体壊したりとかしないでよ?」
「それまでに8割は終わらせる。後は頼、」
「だから。クソオヤジのせいで体壊さないでよって」

「労災。傷病手当。楽して収入。ざまあみろ後増利」
「やーめーて、って。先輩のアパート押しかけるよ」

私がほっぺた膨らませるのを、ちょっと楽しそうに見て笑う先輩。自分が大変な筈なのに、なんかそれが他人事のような印象だ。
「安心しろ。まだ問題無い。まだな」
自嘲自虐な笑顔で、先輩は出ていった。
「……ガチで部屋押しかけよっかな」
沈む夕日のオレンジ色が眩しいロッカールームでポツリ呟いたけど、多分先輩には、届いてないと思う。

4/6/2023, 1:35:29 PM

「先月、『見つめられると』があったな……」
己の投稿記事をさかのぼり、該当する題目を見つけた某所在住物書き。スマホに届いた通知9文字に、少々の既視感があった。
「これ、毎日お題来るじゃん、ひとつ投稿して、予備でもうひとつ用意しておくじゃん、いつか似たお題が来たら予備使ってゼロ秒投稿目指せるんじゃね?」
良いこと閃いちまった!物書きは早速今日の題目から、投稿用と予備用の2作品同時執筆を思い立つが、

「……でも俺そんな執筆スキル無くね?」
頭の固い物書きでは、そもそも投稿用自体……

――――――

都内某所、某アパート。人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者がぼっちで住む部屋に、不思議な不思議な、リアリティーガン無視の童話的子狐が、お餅を売りにやって来ました。
「あのね、これがね、ニリンソウ」
今日はなにやらコンコン子狐、いつもお餅を買ってくれる捻くれ者に、見せたいものがいっぱいの様子。
「これは早く咲いちゃったヤマツツジ」
お餅を入れている葛のカゴから、ポンポンお花を次々と。捻くれ者の目の前で、お店を広げ始めました。
「で、これが、お星さまの木のお花」
花びらが5枚だったり、花の先がとんがっていたり。星を思わせる形の花が、3・4・5、計6種。
「おとくいさん、いっつもお餅買ってくれるから、特別に1個あげる」
コンコンコン。子狐はおめめをキラキラさせて、捻くれ者を見つめました。

「『お星さまの木』?」
「この、お星さまみたいな花が、いっぱいいっぱい咲くの。だから、お星さまの木なの」
「ガマズミか、その仲間だな。花が小さいから多分」
「ちがうよ」
「えっ?」
「ととさんも間違うの。でもお星さま、墨でも、炭でもないもん。だから、これはお星さまの花なんだよ」
「ん、んん……」

ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、花に詳しい捻くれ者。小狐が言う「お星さまの木の花」を、春の低木にこんもり咲くガマズミと推理しますが、
小狐コンコン、白いから炭じゃない、と聞きません。
「あの、」
あのな子狐。ガマズミの「ズミ」は、勿論諸説あるが、それでも多分「炭」でも「墨」のことでもないと、私は思うぞ。
言ってやりたい捻くれ者ですが、コンコン純粋な子狐の、キラキラまっすぐな目を見つめてしまうと、
「……その、」
どうしても、小狐の美しい勘違いを壊す気になれず、
「お星さまの花を、頂こうかな」
自分の言葉を沈め倒して、黙っていてやることにしたのでした……

4/6/2023, 3:28:09 AM

東京は、ザ・星空って星空が珍しい。コウガイ、またはヒカリガイの影響だ、って職場の先輩は言う。
光の害、と書いて光害。地上の光が強いと、天上の星が観測しづらくなるから、それをひとつの理由として田舎の星空は星が多く、都会の星空は星が少なく見える、場合が多い、とか。
他にも空気の層云々ゆらぎ云々、皆既月食云々言ってた気がするけど忘れた。
要するに今空が曇ってるから全然星が無いって話。

今夜は職場のイライラやモヤモヤの毒抜き。
低糖質バイキングの屋外席で、美味いもん食わなきゃやってらんねーよパーティーだ。先輩による私のメンタル保全工事とも言う。毎度ご迷惑おかけします。

「残念だったな。せっかくのテラス席に星無しで」
田舎出身という、職場の先輩。私が「晴れてたら星見れたのに」と呟いたら、昔月食の日に撮ったっていう故郷の、メッチャ綺麗な夜空の写真を見せてくれた。
「星空の下で。温かい料理に冷えたドリンク。映えるエディブルフラワーのサラダ。丁度良かったものを」
こんにゃくパスタを、フォークでくるくるくる。パスタソースをひとさじ追加して、イタズラに笑った。

「残念だったのは、先輩じゃない?」
私はガッツリ肉にくニク。大豆ミートも見つけたけど、なかなか、おいしい。でもやっぱり肉が良い。
「私、美味しいもの食べられればそれでいいし。先輩よく花とか景色とか撮ってるし」
ニラみたいな山菜の肉巻きはおいしかった。北海道出身だっていう男性スタッフさんが、近い味ならニラと豚バラとお好みの味付けでできますよ、だって。
なんか雪国あるあるで先輩と意気投合してた。
別にうらやましくない。
「何かアカウントとかあるの?」

「SNSは何もやっていない」
「誰にも見せないのに写真撮ってるの?」
「だれ、……そうだな。今は」
「初恋のひと宛てだった?酷い失恋したっていう?」
「まだその話を引っ張るか。否定はしないがそのネタほどほどにしてくれ。一応傷のたぐい」

「じゃあこれから私に見せれば良いね」
「は?」
「私もメッッッチャ昔黒歴史書いてたから、ちょっと分かるもん。見せて、イイネくれる人居たほうが、絶対楽しいよ。これから私に見せなよ」
「は、……はぁ……」

私なんかの写真など見て、何が楽しいんだ。
首を傾けて、また反対方向にカクンする先輩は、私の提案が相当に不思議だったらしいけど、夜のせいかテラス席の照明だけじゃ、表情が少し分かりづらい。
ただただ、こんにゃくパスタをくるくるして、大きなパスタ団子にしてた。

4/5/2023, 3:49:45 AM

新年度の仕事が始まって、3日経った。
昨年度新卒で入ってきて早々、当時のオツボネな係長に新人いびりされた新人ちゃん。今朝は珍しく自分から、私に初めての仕事のやり方を聞きに来た。
昨日の晩の、先輩からのグルチャのリークで、新人ちゃんが当時の――今はもう別部署に左遷させられた係長に、トラウマ持ってるって情報は見た。
よーしゃしゃしゃ。怖かったでしょう。
この、センパイの、怖くない私が、優しくサポートしてあげるからね。大船に乗って云々。
……職場の上司ってなんでこんなに下っ端使い潰すことしか考えないんだろう(虚ろ目)
と、思っていたら。

「すまない。ひとつだけ、助けてくれないか」
大量のバインダーを抱えた先輩が、書類保管庫兼務な金庫から自分の席に戻ってきて、ちょっと疲れたような、あきれたような顔を向けてきた。
「新年度早々やられた。2週間で仕上げろだそうだ」
ゴマスリ係長直々のお達しさ。先輩がそれとなく、係長の席でふんぞり返ってスマホいじってるオッサンを視線で示した。
「さすがゴマスリ」
「『若いからこういうの詳しいだろう』、だとさ」

ゴマスリ。後増利係長。新人いびりがバレて別部署に飛ばされた、尾壺根係長のかわりに来た中年オヤジ。
その名のとおり、上にゴマすることしか頭に無くて、面倒な仕事は全部部下に丸投げしてくるって評判。
ウチの部署に来て最初のターゲットは先輩らしい。
ホントに職場の上司ってなんで下っ端使い潰すことしか考えないんだろうう(チベットスナギツネ感)

「私の力量を、よくご理解なさっての激励だろうさ」
なんといっても、係長殿はごますり業務が非常にお忙しくていらっしゃるから。私達がお支えしないと。
小さな声で、それはそれは、しれぇ〜っと心にも無いことを言う先輩。
「ゴマスリにコレ任せたら絶対データ飛んで大惨事だから、ってのもアリ?」
バインダーをひとつ手繰って、中を見て仕事内容をちょっと把握して、ポツリ感想を呟くと、
「……データ飛ぶだけで済めば良いがな」
ちょっと声デカいぞ。先輩が人差し指を唇に立てて、しっ、とあきれ顔を少しだけ崩した。

「ゴマスリもデータとパソコン勉強してほしい」
「スキル習得より大事な仕事が山ほどなんだろう」
「勉強、して、ほしい」
「毒抜きはいつもの低糖質バイキングで良いか?」
「それでいい……」

4/4/2023, 3:55:23 AM

今日も今日とて元物書き乙女、解釈論争に疲れて筆を折った現概念アクセサリー職人は、イメージカプ非公開の概念小物製作に余念がない。
丁度1週間前呟きアプリに投稿した作品、黒白の巻物風チャームは、予想に反して久々の、ハートアイコン2桁間近。上々であった。
万バズどころか50バズすら縁遠く、一度も反応の無い投稿もチラホラな乙女には、十分な称賛である。
解釈不一致、公式云々の集中爆撃から逃れて、悠々乙女は表現と創作を謳歌する。
それは物書き乙女がようやく辿り着いた、ただ1つの疎開先であり、安住の隠れ家であった。

「青要素足りないかな」
今日の概念小物は普段使い用。プチプライスショップで購入した歯車風パーツを土台に、ソロバンビーズと花形平ビーズで高さを盛り、その上に大きめの青ビーズ、それから王冠のデザインヒートン。
チェスの駒風チャームである。
「いや、青は、金に挟まってるくらいで良いや」
ヒートンに丸カンとカニカンを通してできあがり。
世界にただ1つだけ、とは言えないものの、物書き乙女の満足いく仕上がりであった。
「できた。金青金、リバ概念……!」

これで材料費実質200円程度だもんね。ごめんね金さん青さん安上がりで。
うふふのふ。完成したチャームをスマホで撮り、今回は呟きアプリには投稿せず、かつての二次創作仲間のグループチャットへ。
『金青金作ったったwwwww絶対普段使いできる』
メッセージはすぐ既読アイコンが付き、少しして返信された文章には、
『絶対気付かない(確信)
絶対金青金ってバレない(超確信)』
爆笑の絵文字が複数個、一緒に添えられていた。
『なお軸固定勢からは批判が相次いでおり』
『「解釈違いです」→「なら見なければ良いと思います」→「そもそも公式発表は金黒です。青ではありません」→「いいえ金の夫は赤です」までテンプレ』
『それなwww』

馬鹿笑いして、ひと息ついて、ため息に変わって。
ふと、寂しげに視線を下げる元物書き乙女。
「皆、同じ作品の同じひとが好きなだけなのにね」
なんで好き同士で殴り合うんだろうね。
キークリップのチャームを巻物風のそれからチェス風に交換して、再度、小さなため息をついた。

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