整脈と不整脈と

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7/24/2025, 11:27:15 AM

もしも過去へと行けるとしても、
わたしは行かない。
だって怖いから。
だって今よりマシだった時代に触れたら、
戻ってこれなくなる気がするから。

それにあのときの私は、
わたしのこと知らない。
きっと目も合わせてくれない。
人見知りだったし、声もちっちゃかったし、
髪も変なところで跳ねてた。

でもちょっとだけなら、
行ってもいいかもしれない。
ほんのちょっとだけなら。
あの頃の机の中に手紙を入れてみたり、
ランドセルの奥に
キャンディをこっそりしのばせたり。

声はかけない。怖いから。
私にわたしってバレたら、
今のわたしの居場所がなくなる気がするから。

でもほんとは、ほんとのほんとは、
すごくすごく言いたいんだよ。
「私は大丈夫になるよ」とか、
「全部ちゃんと好きになれる日がくるよ」
とか。
そういうやつ。ちょっとウソ混じりでも。

それで、泣かせてしまうかもしれない。
でも泣くのはあの頃の私だけじゃない。
たぶん、こっちも泣いてる。
未来でわたしが泣いてる。
過去の私を見ながら。

だから、もしも過去へと行けるなら、
やっぱり少しだけ、行ってみたい。
でもちゃんと帰ってくる。絶対。
帰ってこないと、わたしが誰だったか、
またわからなくなるから。

7/23/2025, 10:51:58 AM

それは 灯の下で始まった
私が  影であることを忘れた瞬間
きみは わたしに触れた
ひどく 無邪気に

私の輪郭は 最初から脆かった
それでもきみは 手を離さなかった
痛みの中で見せた笑顔が
一番 あたたかかったなんて
いまでも少し 悔しい

優しさと、欲望と、
どちらかだけを選べるほど
愛はきれいなものじゃなかった
それでも選びたかった
きみといることを

何度も壊れかけて
何度も疑って
それでも、
それでもまだここにいる理由を
私は知っている

それは
息を呑むほど優しい嘘より
爪痕残る真実だった

真実の愛とは、
きみに出会ってから
私が変わったということ
そして、
変わったわたしを 
きみが見ていてくれたということ

ただ、それだけ。

7/23/2025, 6:01:33 AM

「じゃあね」と言ったとき、
本当はまだ「またね」と言いたかった。
手を振った瞬間、
指先に何かが滲んでいくのを、感じていた。

沈む夕陽は、
この胸のどこかを焼きつけていった。
あの駅の改札、背中ごしの微笑み。
あの瞬間、わたしは
もう会えないかもしれないことを、
ちゃんと理解してしまっていた。

それでも、言葉にはしない。
だって、きっと、
いつかまた出会える気がしていたから。

時間は、いつだって無慈悲だった。
でも、記憶はやさしい。
あの日笑ったあなたの横顔だけは
何度だって、思い出せる。

またいつか、
あの坂道を
肩を並べて歩けたらいいな。

またいつか、
あなたの名前を
小さな声で呼べたらいいな。

またいつか。

7/21/2025, 11:17:17 AM

星を見つけたのは、
ひとりで歩いていた夜だった。
誰にも話しかけられず、
風の音だけが耳の奥でふるえていた。

それでも空を見上げた。
まるで自分をあざ笑うみたいに
あの光は、平然と輝いていた。

私は歩く。
眠らない夜道。
濡れたアスファルトに、
誰かの夢の残骸みたいな水たまり。

星に手を伸ばすなんて、笑っちゃう。
届かないと知っているからこそ、
私は星を追いかけるのだ。

誰にも見えない場所で。
誰にも聞こえない声で。
あの光を、ずっと目でなぞっていた。

ふと、星がこちらを振り返った気がして、
胸が痛くなる。
それはきっと、
届くはずのなかった気持ちが
すこしだけ動いた証だったのかもしれない。

星を追いかけて、
今日もまた、歩きつづける。
誰のためでもなく、
自分が信じた光のために。

7/20/2025, 2:55:24 PM

誰にも見つからないように
私は今日を一口ずつ食べていく。

まるで、古い果実。
甘さも酸っぱさも すこしだけ萎びていて、
それでも口に運ぶたび、
歯の奥でぴくりと痺れる。

あの頃はきっと
もっと美味しかったはずなのに──
なんてことを、
冷蔵庫の灯りの下で考えているような。

時計の針が進む音は、
耳ではなく、胸の裏で聞こえる。

私は「今」に掴まれている。
未来は届かないほど遠く、
過去はあまりにも形がぼやけていているから。
ならばせめて、この一秒の痛みに、
優しく触れてやらなくちゃ。

どこにも行けない。
だけど、ここにいる。
これは呪いじゃない、たぶんそういう運命。
静かに息をして、
心臓が奏でる不格好なリズムを、
今夜もひとり聴きつづける。

それが、
今を生きるってことだと思う。

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