不整脈

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もしも過去へと行けるとしても、
わたしは行かない。
だって怖いから。
だって今よりマシだった時代に触れたら、
戻ってこれなくなる気がするから。

それにあのときの私は、
わたしのこと知らない。
きっと目も合わせてくれない。
人見知りだったし、声もちっちゃかったし、
髪も変なところで跳ねてた。

でもちょっとだけなら、
行ってもいいかもしれない。
ほんのちょっとだけなら。
あの頃の机の中に手紙を入れてみたり、
ランドセルの奥に
キャンディをこっそりしのばせたり。

声はかけない。怖いから。
私にわたしってバレたら、
今のわたしの居場所がなくなる気がするから。

でもほんとは、ほんとのほんとは、
すごくすごく言いたいんだよ。
「私は大丈夫になるよ」とか、
「全部ちゃんと好きになれる日がくるよ」
とか。
そういうやつ。ちょっとウソ混じりでも。

それで、泣かせてしまうかもしれない。
でも泣くのはあの頃の私だけじゃない。
たぶん、こっちも泣いてる。
未来でわたしが泣いてる。
過去の私を見ながら。

だから、もしも過去へと行けるなら、
やっぱり少しだけ、行ってみたい。
でもちゃんと帰ってくる。絶対。
帰ってこないと、わたしが誰だったか、
またわからなくなるから。

7/24/2025, 11:27:15 AM