不整脈

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誰にも見つからないように
私は今日を一口ずつ食べていく。

まるで、古い果実。
甘さも酸っぱさも すこしだけ萎びていて、
それでも口に運ぶたび、
歯の奥でぴくりと痺れる。

あの頃はきっと
もっと美味しかったはずなのに──
なんてことを、
冷蔵庫の灯りの下で考えているような。

時計の針が進む音は、
耳ではなく、胸の裏で聞こえる。

私は「今」に掴まれている。
未来は届かないほど遠く、
過去はあまりにも形がぼやけていているから。
ならばせめて、この一秒の痛みに、
優しく触れてやらなくちゃ。

どこにも行けない。
だけど、ここにいる。
これは呪いじゃない、たぶんそういう運命。
静かに息をして、
心臓が奏でる不格好なリズムを、
今夜もひとり聴きつづける。

それが、
今を生きるってことだと思う。

7/20/2025, 2:55:24 PM