不整脈

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7/3/2025, 11:41:21 AM

名前もない風景が
胸の奥で地図のように広がって
私を誘う

行ったこともないのに
そこにずっと、誰かが待っている気がする
声はしないけれど
目を閉じれば、手を伸ばしてくれるような

うまく笑えないとき
まっすぐ歩けないとき
世界がきしんでうるさくて
息が詰まるとき

朝焼けに包まれた坂道とか
子供が落書きした橋の裏とか
誰かが落としたハンカチの匂いのする空とか
そういう、くだらないけど
あたたかい場所を歩いてみたい

なにも証明しなくていい場所
なにも演じなくていい場所
ただの「わたし」でいていい
そんな場所を、遠くで探したい

だから今日も、地図を開けずに
心だけポケットに入れて
そっと、歩き出す

私がわたしに
ただ「よかったね」って
言ってあげられるように

7/2/2025, 11:23:03 AM

わたしはクリスタル。
透明でできていて、中身はからっぽ。
けれど誰かがのぞき込むと、
その瞳に、わたしの中のものが映る。

汚れてなんかいないって、みんな言う。
でもそれは光が当たっている間だけ。
夜になれば、ただの硬い石っころ。
割れそうで割れない、無音の器。

わたしはクリスタル。
誰もが欲しがる装飾品。
友達たちが胸元に下げてくれたときは、
ほんのすこし、嬉しかった。

でも熱で曇っていった。
呼気で曇っていった。
指のあとがついて、爪の先で傷つけられて、
それでもみんなは「きれい」と言ってくれた。

本当は、
最初から欠けていたのかもしれない。
でも誰も気づかないから、
わたしも気づかないふりをした。

わたしはクリスタル。
冷たくて、きれいで、
どうしようもなく、
みんなに触れられたい。

7/1/2025, 12:19:38 PM

夜の熱気に、皮膚がうすく焼かれている。
鼻の奥に刺さる、
湿った土と熱せられたアスファルトの匂い。
それは遠い過去の感情を呼び覚まし、
まだ言葉にならなかった頃の、飢えと怒りを起こしてくる。

夏の匂いがするたび、
私は思い出す。
あの夜、声を出せずに泣いたあとの
あの匂い。
血のついたシャツを脱いだときの
あの汗と錆の混じった匂い。
それを知っているのは、私だけ。

どこまで逃げても、
この季節は必ず追いかけてくる。
吐き出すたびに、息のなかに残ってる。
でも焼けた世界の匂いは、
心の最奥を焼き切ることができない。

私は生きている。
誰にも気づかれない場所で、
手を火傷しながらもこの現実を撫でている。

夏の匂いを嗅げるのは、私が生きている証。

私はそれを信じている。

6/30/2025, 11:35:46 AM

薄く揺れる布は誰かの気配を知っている

朝の気配に、私はまだ気づかない。
部屋の隅で、カーテンが静かに揺れていた。
風が言葉を持たぬまま差し入れてくる。

ふとした拍子に、私は目覚めてしまった。

差し込む光。閉じたまぶたに染みる。
その白はどこまでも無垢で
けれど、裂け目から滲む影は、残酷で
私の知らないわたしの形をしている。

衝動的に視線を外す。
誰もいないはずの背後で、
カーテンが、誰かの気配を孕んで、膨らんで、また萎んだ。
それが風だと、わかっていても。
見てしまった、という不安が心を染めていく。

カーテン。
あれは、ただの布。
なのに、向こう側がある。
私の知らない、わたしの裏側が。

ときどき私は、あの向こうに行きたくなる。
あるいは、あちらから来る「わたし」に
憧れてしまう。
たった一枚の壁。
布が震える。
心が、
揺れる。

朝は来たのにまだ、カーテンを閉じたまま。
開けてしまえば、すべて壊れる気がするから。
開けてしまえば、この静けさは幻になるから。

光と影の揺れる布に、
私はずっと囚われている。

6/30/2025, 7:36:36 AM

私は落ちていく
方向を掴み上を見つけ、水面から顔を出した
足元は見えない。手のひらはしわくちゃ。
片手にじめじめした金属壁を感じる。

私は深いところに沈んでいる
気づいた時にはもう下にいた
指の先で押す水は、
固く、冷たく、柔らかい。

私は名前を呼ばれた気がする。
ただそれはわたしであって私でない。
上がろうとするわたしを私は見つめている
きっとそれが最善だから。

私は完璧な自分を追い求める。
深く沈み、わたしは上がる
自分は私を押し殺した
全ては自分のため、喜びのため

私って一体誰なんだろうか

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