不整脈

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わたしはクリスタル。
透明でできていて、中身はからっぽ。
けれど誰かがのぞき込むと、
その瞳に、わたしの中のものが映る。

汚れてなんかいないって、みんな言う。
でもそれは光が当たっている間だけ。
夜になれば、ただの硬い石っころ。
割れそうで割れない、無音の器。

わたしはクリスタル。
誰もが欲しがる装飾品。
友達たちが胸元に下げてくれたときは、
ほんのすこし、嬉しかった。

でも熱で曇っていった。
呼気で曇っていった。
指のあとがついて、爪の先で傷つけられて、
それでもみんなは「きれい」と言ってくれた。

本当は、
最初から欠けていたのかもしれない。
でも誰も気づかないから、
わたしも気づかないふりをした。

わたしはクリスタル。
冷たくて、きれいで、
どうしようもなく、
みんなに触れられたい。

7/2/2025, 11:23:03 AM