不整脈

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薄く揺れる布は誰かの気配を知っている

朝の気配に、私はまだ気づかない。
部屋の隅で、カーテンが静かに揺れていた。
風が言葉を持たぬまま差し入れてくる。

ふとした拍子に、私は目覚めてしまった。

差し込む光。閉じたまぶたに染みる。
その白はどこまでも無垢で
けれど、裂け目から滲む影は、残酷で
私の知らないわたしの形をしている。

衝動的に視線を外す。
誰もいないはずの背後で、
カーテンが、誰かの気配を孕んで、膨らんで、また萎んだ。
それが風だと、わかっていても。
見てしまった、という不安が心を染めていく。

カーテン。
あれは、ただの布。
なのに、向こう側がある。
私の知らない、わたしの裏側が。

ときどき私は、あの向こうに行きたくなる。
あるいは、あちらから来る「わたし」に
憧れてしまう。
たった一枚の壁。
布が震える。
心が、
揺れる。

朝は来たのにまだ、カーテンを閉じたまま。
開けてしまえば、すべて壊れる気がするから。
開けてしまえば、この静けさは幻になるから。

光と影の揺れる布に、
私はずっと囚われている。

6/30/2025, 11:35:46 AM