夜の熱気に、皮膚がうすく焼かれている。
鼻の奥に刺さる、
湿った土と熱せられたアスファルトの匂い。
それは遠い過去の感情を呼び覚まし、
まだ言葉にならなかった頃の、飢えと怒りを起こしてくる。
夏の匂いがするたび、
私は思い出す。
あの夜、声を出せずに泣いたあとの
あの匂い。
血のついたシャツを脱いだときの
あの汗と錆の混じった匂い。
それを知っているのは、私だけ。
どこまで逃げても、
この季節は必ず追いかけてくる。
吐き出すたびに、息のなかに残ってる。
でも焼けた世界の匂いは、
心の最奥を焼き切ることができない。
私は生きている。
誰にも気づかれない場所で、
手を火傷しながらもこの現実を撫でている。
夏の匂いを嗅げるのは、私が生きている証。
私はそれを信じている。
7/1/2025, 12:19:38 PM