川柳えむ

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9/27/2023, 10:26:10 PM

 うとうとしながら通り雨について考えていた。
 まどろみ、夢の中で、雨が「やぁ」とこちらに声を掛けながら横を通り過ぎていった。


『通り雨』

9/26/2023, 8:26:13 PM

 子供の頃、『アキ』という名の友達がいた。
 小柄で、特にこれくらいの時期になると、童謡の『ちいさい秋みつけた』になぞらえて、「小さいアキ見つけた(笑)」とよくからかわれていたものだった。本人はとても嫌がっていたけど。
 小柄で、素直で、かわいくて。私はそんなアキが大好きだった。

 そんな、子供の頃の友情なんて、今でも残っている方が珍しい。
 そういえば、最近は「四季じゃなくて二季だ」と言われるくらい、夏の暑さが終わればすぐに寒い冬がやってくる。
 季節の秋も、そしてアキも、もう見つけることなんてないのかな。
 アキの家だって知っている。実家に帰れば会いに行けなくはない。
 それなのに、大人になるにつれ、そんな簡単なことができなくなっていくんだ。

 職場からの帰り道、足元に1枚の何かが舞い落ちてきた。
 拾い上げれば、それは真っ赤なもみじの葉。
 顔を上げると、目の前には赤く染まった大きなもみじの木が何本も並んでいた。
「秋だ……」
 秋を見つけた。
 昔一緒に綺麗に色付いた落ち葉を拾い集めて笑った、あのアキの顔が思い浮かんだ。


『秋🍁』

9/25/2023, 7:08:34 PM

 乗り込んだ夜汽車の窓から外の世界を覗く。
 暗闇の中に、街の明かりが点々と、一人一人が持っている命の灯火のように見えた。
 それはとても美しくて、この汽車に乗り込んだのは私自身の意思なのに、涙で景色が滲んだ。

 走り出した汽車はもう止まらない。
 それは、街を走り抜けて、世界を走り抜けて、宙へと浮かび、天を翔ける。
 この世界を忘れないようにと、最期にしっかりと両目に焼き付ける。
 窓の外の景色は移り変わって、街の明かりから星の光へ。
 どちらもキラキラと輝いていて、目を見張るほど美しい。
 あぁ、もっと見ていたいのに。この先は何が待ち受けているんだろう。

 そして汽車は知らない世界へ。
 全くの新しい景色が、窓の外に広がり出した。


『窓から見える景色』

9/24/2023, 8:23:56 PM

 目で見て、頭や手を使って、体で覚えろと、師匠は言った。
 その技術をマニュアル化してくれず、形にして残すのは、その作り上げた結果のみしか許してくれなかった。周りのほとんどは、ちゃんと師匠と呼ぶ人から何かしらの書物やら、言語化したものを受け取っていたのに。
 でも、俺はこの人の創り出すその魔法に惚れたんだ。
 だから、俺は形の無いそれを、自分の中に叩き込む。この美しい技術を、師匠から受け継いでみせる。

 最近の師匠は体を崩しがちだ。
 もう永くないかもしれないと、いつもより弱々しい声で呟き出す。
 師匠にもっと長生きしてほしい。
 それでも、もし、本当に師匠の命が失われてしまったとしても。貴方の生み出したものは、俺が未来永劫に渡ってこの体で伝えていくから。これからも紡ぎ続ける。
 形が無くても、いつまでも失われない。


『形の無いもの』

9/23/2023, 9:16:35 PM

 三軒隣の家に住んでいる女の子。
 僕は彼女のことが好きだった。
 毎日一緒に遊んでいた。日が暮れるまでずっと。

 少し離れた広めの公園にあるジャングルジム。
 二人で登って遊んでいた。
「ぃったぁ!」
 彼女が叫び声を上げる。
 慌てて下の方にいる彼女を見ると、どうやら手を伸ばした彼女の指を、僕が踏んでしまっていたらしい。
 彼女の手を取り、引っ張り上げる。彼女は涙目で僕を睨み付けてきた。
「ごめん!」
 必死に謝るも、彼女は何も言わない。
 許してもらえないかもしれない。僕も不安で涙目になる。

 言葉のないまま、ジャングルジムのてっぺんで二人腰掛け、夕陽を眺めていた。
 綺麗な光が涙で滲む。
 守らなきゃいけない女の子を、僕が傷付けてしまった。パパやママと同じくらい大切なのに。
 踏んでしまった手を取り、尋ねる。
「まだ痛い?」
 彼女は頷く。
 その指に、優しく口を付けた。
 好きな子には、ここに嵌める指輪を贈るんでしょ?
 傷を付けるんじゃなく、いつかそれを着けてもらえるように。絶対にもうこれ以上悲しませないと、笑顔にさせてみせると誓う。

 夕陽に照らされて、二人の顔が赤く染まった。


『ジャングルジム』

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