目で見て、頭や手を使って、体で覚えろと、師匠は言った。
その技術をマニュアル化してくれず、形にして残すのは、その作り上げた結果のみしか許してくれなかった。周りのほとんどは、ちゃんと師匠と呼ぶ人から何かしらの書物やら、言語化したものを受け取っていたのに。
でも、俺はこの人の創り出すその魔法に惚れたんだ。
だから、俺は形の無いそれを、自分の中に叩き込む。この美しい技術を、師匠から受け継いでみせる。
最近の師匠は体を崩しがちだ。
もう永くないかもしれないと、いつもより弱々しい声で呟き出す。
師匠にもっと長生きしてほしい。
それでも、もし、本当に師匠の命が失われてしまったとしても。貴方の生み出したものは、俺が未来永劫に渡ってこの体で伝えていくから。これからも紡ぎ続ける。
形が無くても、いつまでも失われない。
『形の無いもの』
9/24/2023, 8:23:56 PM