安心と不安
君はいつも、ほんとうは私は君を愛していないんじゃないかなんて言う。
心外だなぁと思う。
私はこんなに君を愛しているというのに。
たしかに少し言葉に出すことは苦手だけれど。
…………。
でもしょうがないじゃないか。恥ずかしいものは恥ずかしい。
いつも言葉に、態度に、私への思いを滲ませてくれる君を愛おしく思う。
そのおかげで私は不安なんて感じたこともなく、毎分毎秒君に愛されていることを自覚して安心している。
だけどきっと君は違うのだろう。
言葉にも、態度にも、あまり出さない私を見る度不安になってしまうのかもしれない。
でも、私だって何もしてないわけでもない。
私が買う本は大抵スピンが着いているけれど、君から貰ったからしおりを使っている。
私はネクタイをつけてはいなかったけれど、君から貰ったタイピンをつけるために付け始めた。
今まで辛口だったカレーは、君が甘口が好きだと言っているのを聞いてからずっと甘口で作ってる。
好きでも嫌いでもないけれど、いつ来てもいいように君が好きだと言っていたから同じアイスを常備するようにしてる。
私の趣味じゃない置物も、アクセサリーも、ストラップも、料理も、何もかも。
私の生活が、少しずつ君に傾いていて。
必要ではないのに無駄なことだってしてしまう。
君に合わない日も、毎日私のどこかに君がいる。
でもやっぱりそれで満足してくれとは言えないから、君をちゃんと安心させられるよう、君にちゃんと言えるよう、練習しておくよ。
安心と不安。
美しい
綺麗だと、思った。
美しいと、そう思った。
それはきらきらひかる宝石でもなく、
色とりどりの花が咲く花畑でもなく、病室のベッドの横に座り歌う君の横顔。
自分は耳が聞こえなくなってしまったから分からないけれど、本人や共通の友人から聞いたところによるととんでもなく音痴らしい。
だけどきっと、私はその音痴な歌声が聞こえていても同じことを思った。
こんな部屋なのに、どんなに一生懸命歌ったって、たったひとり隣に横たわっている人間にその声は聞こえないのに。
何よりも楽しそうに、一生懸命、全力で歌って聞かせようとしてくれる。
ああ、君はどんな声で、どんなふうに音を外してるんだろうね。
見えるだけでいいと思っていたけれど、どんなに下手くそだろうと、君の声を聞いてみたくなった。
もうじきその声はもってのほか、唯一見られる君の横顔すら見えなくなってしまうのだろう。
その美しい顔で、君はどんな声で歌うんだろう。
もう二度と、私の耳に音は帰ってこないけれど。
どうか、君はずっとその美しい横顔のまま、歌い続けて欲しい。
来世はきっと、美しい君の声を。
美しい
星に包まれて
幼稚園とか小学校で書かされるプリントの将来の夢の欄には、いつも迷わず同じものをいれました。
それ以外になるつもりなんてなかったし、なれない可能性があるなんて考えなかったからね。
ここまで聞いたら大多数の人は察しがつくと思うんですけど僕、その先、その夢に向かい始めたらまあー上手くいかなくて。
結局、夢見たことを本当に未来にできる人なんてたったひと握りの超新星。
その光に当てられて、眩しくて耐えられなくて逃げていくやつなんてその星の中には居られないわけです。
でも星にならない水素やヘリウムガスも、ちゃんとどこかで星以外の役割が与えらますけどね。
あ、もう時間ないや。
えーと結局何が言いたかったかっていうと、
一旦目塞いでみてもNDフィルターのメガネかけてもいいから、とりあえず眩しさに負けるな諦めんな頑張れってことです。
いやここだけ聞くと薄っぺら!って思うかもしれないんですけど。
元からの才能なんてなくていい。
技術や知識なんてやる気があればどうにかなる。
自分には敵わないような星に包まれたって、それでも眩しさに負けなかったらどうにかなる。本当に結局諦めなきゃどうにかなるよってことです。
次の試験がえー、3年後くらいかな。
もし今眩しくてだめだって思ってたら、とにかく目瞑っててもいいから進んでみてください。
もう打ち上げの時間だから行かないとなんでね。
以上、宇宙飛行士のおじさんでした!
星に包まれても
tiny love
長い生涯の中で、一度だけ好きな人が出来たことがあった。叶わぬ恋ってやつなんだろうなと思いながらだったけれど。
叶わないってことは最初から分かりきっていたから、抱いてから少しも大きさの変わらなかった、
手のひらくらいの小さなそれ。
変わらなかった。
手のひらより大きくなることはなかった。
でも、手のひらより小さくなることもなかった。
本当に叶わないと諦めていれば、
本当に要らないと思っていれば、
小さくして消してしまうことは容易だったろうに、それをしなかったってことはきっと、小さなそれはわたしの中ではその大きさ以上に大切に抱いていたものだったのだろう。
時が経って、わたしも歳をとってしまった。
手のひらとおんなじ大きさだったそれは、
相変わらず手のひらとおなじ。
あの頃は、わたしがそれを大きさ以上に大切にしていたこと。ただそれだけしか分からなかった。
誰かの恋話を聞いていても共感できなかったし、あの人にも本当に自分のことが好きなのかって泣かれたくらいだったけれど、きっと大切に、、
今自分の手元にある小さなそれは、あの頃と変わらず手のひらと同じで、しかし確かな重みがあった。
小さい理由は分からないけど、
どんなに小さくても確かに存在していたから、今はそれでいいと思った。
朝起きて、朝食を作って、あの人を起こして、
一緒に食べて、食べるのが遅いあの人より先に着替えて、あの人に声をかけて家を出る。
あの頃より手が大きくなってしまって入らなくなった指輪を通したネックレスを首にかけて。
tiny love。
一輪のコスモス
花を貰った。
一輪の赤いコスモス。
植物詳しくないし、花言葉とかもわかんないけど、
ただ何となく、綺麗だなと思った。
いや花だし当たり前なんだけど、学校の玄関に並んでるのとかそういうのとはなんか、違う感じで綺麗だと思った。
明日誰かになんで違うのかとか聞いてみようかと思ったけど、きっと好きな人に貰ったからじゃないかとか恋愛脳の馬鹿なこと言い出すから絶対ダメだ。
何となく気恥ずかしいけど、花瓶に突っ込むだけ突っ込んで枯れていくよりかはましだと思って、押し花にしようと思った。
「押し花 やり方 簡単」って、二度と調べなさそうなことを検索してみる。
ダンボールとかキッチンペーパーとか、
道具は家にあるもので揃いそうだったから、スマホを置いて取りに行く。
...。
いや別に、なんでくれたのかとか気にならないし。
花言葉とか調べなくていいし。
...。
そう思いながら置いたスマホを再び手に取ってしまうんだから、とんでもない恋愛脳の馬鹿だ僕は。
「コスモス 赤 一輪 意味 」って、二度と調べなさそうなことを検索してみる。
これから僕が何度もそれを調べるようになるのはまた今度のお話。
一輪のコスモス。