まだ見ぬ世界へ!
テスト勉強をしようとシャーペンを握ろうと考えていたはずの右手にはスマホ用のタッチペンが1本
勉強をする予定ならばTwitterとPinterestは開かない方が良いなとは思うけれど、
早々やめられるものではないので諦めている。
お絵描きアプリを開いて絵を描く
世界で一番誰より楽しんでいる瞬間だと思う
これまでもこれからもきっと変わらない
評価されるためでもなんでもなく絵を描く
楽しいからってただそれだけで
でもやっぱり褒めて貰えた方が嬉しいからかけたらネットにはあげちゃう
人間だもの
こういう時は必ずテスト勉強をほり投げて描いたことをアピールする文と共に投稿する
必要以上にハッシュタグをつけて
自分が作ったこの子はどんな人にどんな風に褒めて貰えるのかなあなんて考えながら
まだ見ぬ世界へ
届かないのに
最初にあったのは入学式の時だったな。
通ってたの人数多い小学校だったから色んなやつがいたし、そうそう中学で驚くような人間に会うこともないはずだったんだけど、入学式の入場の時にすっ転んで人間ドミノするやつはあの時初めて会ったんだぞ。あと人の名前叫んで呼んでくるやつも。
それから勉強しないくせに無駄に持って帰った教科書忘れてくるし、筆箱は持ってこないし、帰り道自転車で階段降りようとして転んで救急車で運ばれるしで、挙げ始めたらキリが無い程馬鹿だお前は本当に。
お前がそんなだったからわたしは、おまえがどんな気持ちで教科書とか筆箱とか忘れて借りに来てたのかとか、どんな気持ちで家に帰ってたのかだとか、みんなが親や兄弟の不平不満を語っている時にお前の表情が暗かったのはなんでかとか、何も分からなかった。
気づけなかったんだ。お前は助けを求めるのが下手くそだったんだ。辛いだのしにたいだの家に帰りたくないだの、助けを乞えば良かったんだ。それはわたしでも良かったし誰でもよかった。なのにお前は何も言わなかった。悟らせようともしなかった。
おまえが少しでも何か起こしてくれていれば、周りの大人が、わたしが、どうにかできたかもしれなかったというのに。なんで何もしなかった?なんで、なんで、なんでなんでなんで……
ああでも考えれば当然だったのかもしれないな。お前は無駄にプライドも高かったから、人に同情されたくないやつだったから。そんなもの捨ててしまっていれば良かったんだ。全部かなぐり捨てて、
助かることだけを考えて動けばよかったんだ。
そうだ、お前が悪かったんだ!お前が!
一言、たった一言、助けて欲しいっていえばそれで良かったはずだったのに!
全部、全部全部、お前が!
いや違う、違うんだ。
わたしはこんなことを言いたいんじゃない。
あの時、初めて会った時からずっと、ずっと一緒にいたんだ。誰よりお前の近くで、お前を見ていたはずなのに、気づかなかった。
いや見ようとしなかったんだ。お前はプライドが高いし、人に、特にわたしになんて同情されて助けてやるなんて言われたくないだろうと言い訳をし続けたんだ。
ごめん
お前がどんな気持ちで生きてたかなんて知ってた
気づいてた
でも何もしなかった
ごめん、ごめん、ごめん。
謝っても何も戻らないことだ
ごめんなさい。
きっとこれ、お前が見たら笑うんだろうな。これまでのも。
届かないのに、分かってるのに、お前を思い出してこんな意味の無い、既読のつかないメッセージを送り続けてる。
届かないのに。
記憶の海
深々と降りゆく雪のような知識を、想いを、
積み重ねていく記憶の海。
海面に近いものほど新しく、よく汲み取られる。
海底に沈んだ古くぼやけたもの、
忘れ去られたものは、滅多に海から出なくなる。
それでも、
全てさっぱり忘れ去ったのだと思っていても、
本当の意味で海から抜け落ちることは絶対にない。
何かの拍子に海の底から引き上げられることもあるだろう。
何年、何十年と積み重なっていこうが、
決して溢れることのない世界一深い海。
私たちはこの一分一秒、またそこに知識を、
想いを、積もらせていく。
記憶の海
ひとひら
通勤中、吐いた息が空気に出て白くなった時。
寝ようと布団に潜り込んで、足元が寒かった時。
湯船に浸かって、じわーっとした感覚を覚えた時。
冷たい風の通る音と、枯葉が走る音が聞こえた時。
朝起きるのがつらくて、二度寝してしまった時。
家族とリビングを片付けて、こたつを出した時。
仕事終わり、きらきら光るオブジェが目に入る時。
部活帰り、暗く薄い青と橙色の空が綺麗な時。
起きた時、外は静まり返って心地いい時。
今まで色々な冬を感じる瞬間があったけれど
君と出会ってからは私は、
君の赤くなった耳にひとひらの雪が当たって、
びっくりして、小さく悲鳴を上げた後
耳を抑えながら冷たいと笑う時、一等冬が来たと感じるようになった。
ひとひら。
君と僕
手入れされて艶々した黒の綺麗なロングの髪の毛
ブリーチのしすぎでぼさぼさのショートの髪の毛
リボンをつけボタンを留めて綺麗に正された襟元
リボンも失くしてしまいボタンも外れかけの襟元
日常的に使っている様子のある綺麗な付箋とメモ帳
一度も使わず机の中ボロボロの肥やしとなった付箋
学業成就のお守りが一つで綺麗に整えられた鞄
ストラップ類がじゃらじゃらで中身の荒れた鞄
丁寧に綺麗にまとめられているわかりやすいノート
時々白紙の何が書かれているのか分からないノート
自転車の鍵に付けられた黄色のイルカと
水色のイルカ
無造作に切られた黒い髪の毛
どこにいったのかリボンとボタンのない襟元
ぐちゃぐちゃになった筆箱の中で破られた付箋
びちゃびちゃになった鞄
油性ペンで殴り書きの字が書かれたノート
川の底に沈んだ一匹のイルカ
君と僕。