やわらかな香りを纏い
ぬくもりを振りまくその隣で
私はあなたと淡い空間にさまよう。
昼間の陽射しの帯を絡め
絹をひらひらと風にすかす。
きゅうきゅうと肩を合わせ
震えて笑うこの嫋やかな一時を
私は忘れはしない。
/ 狭い部屋
例えるならばそれは豆電球のような。闇夜をぽやりと曖昧に照らし出す。ほんのすこしのわたあめが、私を甘く蕩かすのだ。あなたは知らない、私はわずかな水で溶けてしまうことを。たまにでいいから、とびきり甘い砂糖を溶かしてくれたら、それでいい。
あなたとわたしの同じところは
どこかの誰かの批判に呑まれ。
濁流に押し流された想いの先。
ありきたりで小説みたいな悲恋はいらない。
私は笑ってあなたに告げるのだ。
「またね」、なんて祈りをこめて。
再び会う時には捨てるから。
どうかそれまで、あたしを見えないところに。
鏡の照らしで貴女を見ゆる。
/ 失恋
好きにさせてくれたらいいのに。心にあなたを留めることを、見えない何かが遮るのだ。なぜ、どうして、ひどい。そこらの無象より、よっぽど純朴な温もりを紡ぐのに。
つよい感情の発露。
こどもが玩具を投げ捨てる癇癪に似た
いたくて、力ずくで、それでいて愛おしく。
はあっと幸せを逃がす貴方の背中
可哀想で、可愛くて。
貴方の心の鳩尾に私はいる。
私と貴方、繋げばふたつ。
こぼした本音で撚った糸を
歪なすきまに通した。
正せるように、直していく。
/正直
私は、あなたの好きなものを知っている。あなたは私をどれだけ知っているだろうか。柔らかな夜の波みたいな、霧雲に覆われたまろい月の明かりのもと、あなたのやさしいぬくもりに包まれた日。そんな日を取り戻すために今日、私は素直になってみようとおもう。
迷子は私の影である。
曇天のもとに眩いぴかぴかの太陽など無く。
ただ足もとには澱んだ波間の鏡面のみ。
ひたひたと染みたつま先。
跳ねうねる髪の毛。
曇り空に飛ぶ姿もなく
ただただ汚れたキャンバスが広がるだけ。
雲間に差す陽の光は狐の嫁入りか。
/ 梅雨
やけに雨の多いこの頃、私の気分は上々である。ざらついた心を酸性雨がまるく溶かすから。流れ落ちた煩わしい思考は排水溝を通って、綺麗になって光を浴びる。汚いものから、綺麗なものへのロンダリング。
穢れのない無垢の瞳を覗いたとき
私ははっとした。
澄んだ眼差し、己の底まで見透かされている。
こわくて、ぞわぞわ、ひりひりする。
しまい込んだ宝箱まで捧げてしまいそうな
そんなあなたの横暴なまでの無垢が
私は嫌いで、それでも目を逸らせなかった。
/ 無垢
貴方にちからがあるならば、どこまでも向こうへ駆けゆく羽と藍色の瞳。真白に身を包んだ姿はぴったり。ぽかぽかと世を照らす光と冴え渡る感覚の刃。貴方に追い詰められたのは、私もおなじ。