※1/1に書いた、自殺志願者の二人の男の話の続き。まだこれはBLではないと言い張りますが、ふんわりと香る程度でも苦手な方はご注意ください。
「あ〜〜〜〜〜もう! 疲れたーー!!」
「あはぁ〜、そうですねぇ〜」
「誰のせいだと思ってんだ!!」
「え〜〜? 誰のせいですかぁ〜?」
「お前だよ! お、ま、え!!」
「あははぁ〜〜〜」
「“あははぁ〜〜〜”じゃねぇんだよ、この酔っ払いが!!」
······あの後。
初日の出を見ながら二人で缶ビールを開け乾杯し、お互い一本ずつ飲み干したわけなのだが······今思いっきり俺の体に体重を掛けながら下山中のこいつ──雲河昇(うんがのぼる)は、ビックリするほど酒に弱かった。缶ビール一本飲み終えただけでご覧の有様だ。こんなに弱くてよくもまぁ死ぬ前用にと二本も用意出来たものだ。どの面下げて、案件である。一本飲んだらそのままその場で寝転んでスヤスヤし、目的を果たせずに終わるこいつの姿があまりにも鮮明に想像出来すぎる。······いや、そのままあそこで寝て凍死、説も無くは無いのかもしれないが。
「おら、全部降りたぞ!! 次どっちだ!?」
「え〜? 次〜??」
「お前の! 家!! どっちに歩けば着く!?」
「あ〜〜〜家、家ねぇ〜······多分あっち〜〜」
「あっち!? どっち!? せめて指させ!!」
「あはぁ〜〜〜あっち〜〜〜〜」
「だあーーーーーーもう!!! 道案内も出来ねぇのかお前は!!!」
成人男性一人分という大層重い荷物を引きずりながら、とりあえず雲河の見ている視線の方向へと進むことにする。どうやら正解を引き当てたらしく、「そ〜〜〜〜〜、そのままあっち〜〜〜〜〜」と、肩にのしかかる雲河は機嫌良さそうにニコニコしている。この野郎、後で覚えてろよ······と腸を煮えくりかえしながら、雲河曰く“あっち”へと歩を進めていく。
『あんたの名前、教えてよ』
······今になって思えば、どうしてあの時あんなことを口走ってしまったのか、自分でもよくわからない。ただ一つ、言えることは──。
『······雲河、昇』
うんがのぼる。運が上る。皮肉みたいな名前ですよね。
自虐的な言葉と共にそううっすら笑む雲河に、俺は。
『何で? いい名前じゃん。それに俺だって似たようなもんだ』
そう言い切り、これまで一ミリたりとも好きだなんて思えなかった自分の名を告げた。
『俺はね、久遠輝(くおんひかる)っつーの。こんな、芸能人かよ? みたいなキラキラした名前、俺には不釣り合い甚だしいっつうか?』
首を竦めて呆れたようにそう吐き捨て雲河を見遣れば、今まで覇気のない死んだ魚のような有り様だった奴の瞳は、変わらず俺らを照らし続けていた初日の出と同じぐらい、キラキラ、ピカピカと、輝きに溢れていて。
『〜っお、俺も! ······その名前、いいと思う。最初に見た時の君の印象にピッタリで······すごく、いいと思う······!』
······そんなふうに、半ば前のめりになりながらそう力説され。
正直、嫌じゃなかった自分が居た。今まであんなに嫌いだったのに。俺が「いい名前」だと認めたこいつに「いい名前」と言われたことが、素直に嬉しくて。出会い方、初コンタクトからこの状況に至るまで全てが奇妙で、奇抜で、奇縁で、それはつまり「運命」みたいな何かなのではないかと。ガラにもなく、そう思ってしまったんだ。
自殺志願者同士で傷の舐め合い。そんな色気もクソもロマンスもねえ運命だけど、それはそれで面白くていいんじゃねーの?
「本当にこっちで合ってんだろうな?」
「ん〜〜〜〜〜多分だいじょぶ〜〜〜〜」
「多分て······おい、雲河」
一度足を止め、未だに頭を左右にフラフラとさせ締まりのない顔で口元を緩めている雲河の両肩を掴み、真正面から射抜くように見つめる。
「俺はな、一刻も早くお前の家行って何か水分補給して泥のように眠りこけてぇんだわ。な? わかるだろ?」
「え、えっ、と······うん······」
「だったら」
俺の真剣な顔を見たことで若干でも酔いが冷めたのか、とろんとしていた雲河の瞳は元の形へとほんの少し形状を整え、さっきまでのふにゃふにゃ具合も何処へやら。酔っ払う前のおどおどとしたこいつ本来のものであろう振る舞いに近付き、必死に俺の放った言葉を追いその意味を理解しようと努めている様子。
そんな雲河に、俺はニッコリと一つ微笑んでみせて。
「道案内、しっかり頼むわ。昇」
あえて初めて下の名前を呼び捨てで呼んでやれば、その呼ばれ方に耐性がないのだろう。白を通り越して青みがかってすらいた肌、その全ての血が顔面に集合したみたいに、昇は耳や首までを真っ赤に染め、羞恥なのか感動なのか知らないが、その場でフルフルと小刻みに震えていた。
なぁんか、さっきまで見ていた初日の出みたいだ、なんて思ってしまったのは秘密にしておこうと心に誓った。
真面目に今年の抱負を書こうと思います。
仕事に遅刻をしない。
これ、今の派遣の職に就いてから割と真剣に悩んでいることなのですが、通勤中のバスや電車の中で、酷いと立ってる状態でも寝入ってしまうことが多々頻発してしまっておりまして、職場の方々にはご迷惑をお掛けしまくった上に、恐らく私への社会的信用はほぼ無いに等しいのだろうと思う場面も多々ございまして。
以前十五年勤めた食品レジでのシフトは、学生アルバイト時代を含めてほぼラストまでのシフトで生活をしておりました。大学を中退しパートになってからは勤務時間が増え、うつ病で療養に入る前は十四時頃〜二十三時頃のシフトで長い期間働いておりました。つまり、完全に昼夜逆転現象を起こしてしまっていたのですよね。朝方に寝始め、昼過ぎに起き、準備だけちゃちゃっと済ませて徒歩圏内の職場へ出勤する、という流れでした。
更に厄介なのが、いつ頃からかもう覚えてはおりませんが、不眠症のような症状にずっと悩まされていたことです。先程朝方に寝始めると書きましたが、寝始めるといっても「眠いから寝る」のではなく「寝ないといけないから寝る」といった感じで、夜に眠気が訪れない・寝ようとしても全然意識がなくならない、といった症状が、メンタルクリニックに通院し眠剤を頂くようになるまでずっと続いておりました。
そんな生活リズムぶっ壊れ人間がそうそう簡単に朝型人間になれるわけもなく。それでも、眠剤によって以前より格段に入眠しやすくなりましたし、目覚ましをかけていれば朝にだってちゃんと起きれるは起きれるのです。そうして準備をし、バス→電車と乗り継いで今の職場へ向かうわけなのですが······時々バスでも電車でも、やらかしてしまっていたという。
バスはまだマシなのです。何故なら降車駅が終点であるため、ガチ寝してしまっていても運転手さんに起こして頂けるので(大の大人がされるにはあんまりにあんまりな失態ではある)。問題は電車の方で、乗車して十分ちょいほどで降車駅に着くのですが、いちばん酷い時は終点までガチ寝してました。その時点で出勤時間とっくに過ぎてました。そこから逆行きのホームに向かい、結局30分以上の遅刻で出勤することになりました。
このような話をメンタルクリニックの主治医にしたところ、眠剤が効きすぎている可能性を指摘されまして。そこから何度も調整を繰り返し、仕事納めまでの数週間ほどは何とか遅刻せずに出勤出来ていたかと思います。
自分で考えた対策としては、それまでは車内でイヤホン越しに音楽を聴いていたので、それを動画に変更してみることにしたのですが、音楽だけの時よりは効果がありましたが結局途中から猛烈な眠気が襲ってくる、といった感じでした。ソシャゲも同様でした。
なので、とにかくもっと早い時間に就寝出来るように帰宅後はパッパとやること・遊ぶことを済ませ、充分な睡眠時間を確保する生活に慣れていくことが今年の目標です。
一度失った信頼は取り戻せないと理解はしておりますが、これ以上職場の皆様にご迷惑をお掛けしないよう、仕事が始まったら誠心誠意日々を過ごしていきたいところです。
元旦の早朝。新しい一年が始まってまだ間もない、体の芯から冷えるような凍てつく空気の中、俺は所謂“自殺の名所”とやらに来ていた。ネットで色々調べた末、ここが見つかりにくく誰にも迷惑をかけず、且つ、確実性のある場所だろうと判断してのことだった。何を隠そう、俺は年末に命を絶つことに乗り遅れた自殺志願者だ。
もうずっと昔から、こんな人生には飽き飽きしていた。友人は数こそ少なかれど居るには居る。ゲームだとかネットサーフィンだとか、趣味と言えなくもない趣味も一応は、ある。だけどそれが何だって言うんだ。そんなもの、何の未練にもならない。俺を現世に留める楔になどなりえはしない。人間に揉まれて生きていくことに疲れた。日毎起こる凄惨な事件、政治家の汚職報道、芸能人のゴシップなどという悪意に塗れたものを摂取することに疲れた。将来のことを考え、この先に明るい未来など待っていないという現実に直面し続けることに疲れた。もう何もかもから解放されたかった。
もう終わらせよう。全てのしがらみから解き放たれよう。そう決意し、早朝とも言えない深夜の時間帯に車を走らせ、一歩一歩確実に、寒さと疲れでヒィヒィと白い息を吐きながら進み続け、漸く辿り着いたこの山頂。
「あーーーーーっ!!! クソッタレーーーーーッ!!!!」
腰辺りまでしか高さのない、人の命を守る気なんてなさそうな安全柵もどきに手を置き、ぐっと前のめりになりながら大声で叫んでやる。
登頂した俺の目に最初に飛び込んできたもの。それは、煌々と輝きながらゆっくりと上昇していく美しい初日の出だった。神々しいとすら思えてならないそれを見て、不覚にも感動してしまったなんて馬鹿みたいじゃないか。今更こんな感情なんて要らないだろう。だって俺は死にに来たんだぞ。
「バッッッッカやろーーーーーーー!!!!!!」
輝かしい光が歪んで見えなくなる。頬を伝う涙は、俺の心を一層惨め一色に染め上げた。何でかなぁ。どうしてこうも上手くいかないんだろう。
一人鼻を啜っていると、背後の茂みがガサガサと音を立てる。風によるものではない。何事かと後ろを振り向けば、俺と同じぐらいの年代に見える一人の男が、何処か恐縮そうな面持ちでそこに立っていた。手にはコンビニのビニール袋。それ以外の荷物は何一つ見当たらない、あまりにも身軽すぎる出で立ち。
事態を飲み込めず凝視するしかない俺へ向け、男は一言。
「えぇっと······俺、何かしちゃいました?」
まるで何処かの異世界転生主人公が言いそうな台詞を、こんな状況で、こんな場所で、実際に耳にすることになるとは思いもしていなかった。
「その······バカヤローーー! って、聞こえたので······」
俺が何かしちゃったのかな、と。
だんだん尻すぼみになっていく声量と、居たたまれなさそうに視線を右往左往させる男の様子を見ていたら、この状況のあまりの奇天烈さに思わず腹の底から笑いが込み上げてくる。
「クッ······ふふ、ハハッ!」
突然笑いだした俺を見て男はポカンとしていたが、その様もまた滑稽で尚更笑いが止まらない。
ひとしきり笑い終え······俺は目元に滲んだ涙を指で拭いながら、男に尋ねる。
「あんた、こんな時間にこんな場所で何してんの?」
「あ、その······えっと······」
「あ、もしかして? 自殺しに来た?」
言い淀む男に向かって冗談交じりにそう問えば、男は一瞬押し黙り······コクリと一つ、首を縦に動かした。
「······アハッ。マジで?」
「······マジ、です」
「そっかぁーマジかぁー。実は俺もなんだよね」
「えっ!?」
驚いたように声を上げる男に向け苦笑し、俺はクルリと身を翻す。さっきよりも高度と明度を増した初日の出が、爛々と空に輝いている。
「そのはずだったんだけどさぁー。······これ見たら、やる気なくした」
「あ······初日の出······」
男はゆっくりと歩を進め、俺の真横に立つと、同じように初日の出に見入る。男の横顔は、俺の気持ちを代弁しているかのようだった。こんなにも美しいものがこの世界にはまだあるのか、と。
「どーする? やる? やめる? やるなら止めないし、俺はもう行くけど」
俺の問い掛けに、男は穏やかな顔で首を左右に振った。そしてその場にドカリと腰を下ろし、ビニール袋の中身を出していく。
「本当は、死ぬ前に飲もうと思ってたんですけど」
そこには、二つ並べられた缶ビール。その一本を手に取り、男は俺に向けてそれを差し出す。
「······乾杯、しませんか? その、よければ······ですけど······」
またもや自信なさげに声のボリュームを落としていく男の手から、奪うようにして缶ビールを手中に収める。
そうして俺もその場に座り込み、プルタブに手をかけて······その前に、と。
「あんた、家ここの近く?」
「え? あ、はい······一応、徒歩圏内ですけど······」
「オッケ。俺車で来ちゃったからさぁ、この後あんたん家お邪魔していい?」
「えっ!? べ、別に、構いませんけど······」
「あと」
俺は一つ息を吸い。冷たい空気が肺に満ちる感覚に“生”を実感して。
「あんたの名前、教えてよ」
······かくして、自殺志願者だった俺達は。初日の出の美しさと、奇妙な二人の出会いに「乾杯」と声を重ねるのだった。
※昔書いた創作百合の子達の話
「今年ももう終わりかぁ〜。早いねぇ〜」
暖房の効いたリビング。二人で使うには少しばかり大きめのソファ、その中央に二人で腰掛け、適当なテレビ番組の音声をBGMにそんな年の瀬らしい会話を振る。
「············今年もさっちゃん、殺してくれなかった······」
私の腰回りに両腕を回し半ば横たわるような姿勢になっている彼女──明楽(あきら)さんは、恨みがましそうに上目で此方を睨みつけてくるが、元々表情筋が柔軟な方ではない明楽さんがいくら睨みつけてきたところで迫力も威圧感もなく、むしろ美人が可愛らしく拗ねているようにしか映らない。あー、眼福眼福。
「だぁってぇ〜、私明楽さんにはまだまだ幸せになってほしいもーん。幸せメーターまだ全然溜まってないっしょ?」
そう言いながら彼女の額を人差し指でツン、と突っついてやれば、「あぅ」と幼女のような呻き声を上げた後、「だって······」と視線を床の方へと落とし、彼女は続ける。
「この時期はね、ダメなの。普段もいつだって死にたいけど、この時期······年末はね? 特にダメなの。ここをゴールにしたくてたまらなくなるの。また新しい一年がやってくることが嫌なの。また一からスタートを切り直さなきゃいけないのが······辛くて辛くて、どうしようもないの」
腰に回された両の腕が、縋るようにキュッと弱々しく力を強めた。朝方のニュースを思い出す。人身事故のため○○線のダイヤが乱れております──この時期、頻繁に聞く内容だ。彼らもまた、明楽さんと同じような心境だったのだろうか。新しいスタートを切りたくなくて、ここをゴールにしたくて、もう全てを終わりにしたくて。なりふり構わず、飛び込んだのだろうか。その先に幸せがあると信じて。
「そっかぁ〜······ね、明楽さん? 先に楽になっていった人達のこと、羨ましい?」
此方を見上げ、一瞬きょとん、とした表情を顕にした明楽さんは、少し言葉を選ぶような素振りを見せながらたどたどしく答える。
「ん、と······。羨ましい······は、羨ましい······ん、だと、思う。だけど、さっちゃんも知ってるでしょ? 私には、あの人達みたいな勇気なんてないの。だから多分、これは羨ましいんじゃなくて、隣の芝生は青く見える······みたいな、多分そっちの気持ちに近いんじゃないのかなって。それに······」
「それに?」
「私には、“さっちゃん”っていう専属の殺人鬼さんが居るから。なかなか殺してくれないけど······でも、絶対に最高の最期をプレゼントしてくれるって、私、信じてるから」
「アッハハッ! 当ったり前じゃん! ぜ〜〜〜〜ったいに、幸せで幸せでこれ以上の幸せなんてない! って瞬間になったら、必ず殺してあげるから」
だから心配しないで、と続けるつもりだったのだが、テレビ画面に映し出されている時計へ何気無く視線を向け慌てる。時刻は「23:59」と表示されている。
「ちょ、ちょ、明楽さん! もう年越し! 年越す! 越しちゃうって!」
「え······?」
「え······? じゃないってばぁ! ほら、時報聞こ!」
私は急いでスマホの通話画面で117、と数字をダイヤルする。スピーカーモードにすると、部屋の中に「午後、二十三時、五十九分、三十秒を、お知らせ致します」という機械音声の後に「ポーン」と甲高い電子音が響き渡る。
何となく居住まいを正し、静かに時報を聞き続ける。チラリと横の明楽さんへ視線を遣る。年越しの瞬間を、一体彼女がどんな顔で受け入れるのか気になったから。
······明楽さんの瞳には、生気が宿っていなかった。心ここに在らず、といった様子で、出会ったあの頃みたいな、死に想いを寄せ焦がれる横顔は、まるで人形のようだった。
──四十秒をお知らせ致します。
──五十秒をお知らせ致します。
ピッ、ピッ、ピッ、と鳴る時報のカウントと、テレビの雑音だけが聞こえる部屋の中。私は明楽さんの体を強引に此方へと向かせる。
──午前、零時を、お知らせ致します。
目をまん丸くする彼女へと一気に顔を寄せ、ほんの少しだけ開かれた薄く形の良い唇に己の唇を重ねる。瞬間、「ポーン」と、零時を告げる時報が鳴らされた。
そっと唇を離し、明楽さんのおでこに自分のおでこをくっつける。
「今のはね、マラソンでいうところの給水所」
「······給、すい、じょ······?」
「だって今の瞬間さ、明楽さん」
──息、止まってたでしょ?
そう問えば、明楽さんは暫しの間固まり、その瞬間のことを思い返しているのだろう······うろうろと視線を彷徨わせた後。突如として林檎みたいにほっぺたを真っ赤に色付かせ、曇りけなくキラキラと輝く美しい瞳で、恍惚に満たされたかのような蕩けた声音でもって私に告げた。
「······っ、息······止まってたぁ······!」
「でしょ? 頑張ってる明楽さんへのご褒美だよ」
片手で彼女の肩を抱き寄せ、額にもう一つ、キスを落とす。
「今はまだ、こういう“殺し方”しか出来ないけど······いつかちゃんとその時が来たら、明楽さんのこと、私がこの手で救ってあげるから」
だから、今はこれで我慢してね。
そう伝えれば、明楽さんは首をブンブンと横に振り、未だに赤く染めた頬と、ほんの少し水分で潤んだ黒曜石のような瞳で、さも幸せそうに微笑んだ。
「来年もご褒美ちょうだいね? さっちゃん」
極上の笑顔と共に珍しく彼女の方から唇を重ねられ、私の息の根も止められた。
◇◇◇◇◇
昔pixivに上げた死で繋がる百合シリーズの二人に出演して頂きました。
もしもこの二人についてもっと知りたいよ、という稀有な方がいらっしゃいましたら→死が二人を繋ぐまで | https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=14902463
何の捻りもなく、シンプルに、この一年を振り返ってみようと思います。記憶力がないのでスケジュールアプリを見返したりしつつ。
【一月】
私の趣味は麻雀でして。とんでもなく暇でやることがなかった時期に某麻雀アプリを突然インストールしたことがきっかけであり、全ての始まり。役も何もわからないまま何となく手を出したはいいものの、割とすぐに離れる。残当。その後数ヶ月ほどしてからまた始めてみる。にじさんじ麻雀杯をお正月頃に見ていた影響で以前よりも何となく打ち方とか役とかがわかるようになっていて、そこからは気が向いた時にちょこちょこと打つようになりました。
そんな完全エンジョイ勢オンライン麻雀打ちだった私が本格的に麻雀にのめり込むようになったのは、去年の四月。当時勤めて十四年半経過していた職場でのストレスが爆発し、どうしようもなくなってメンタルクリニックを受診した結果、中程度のうつ病と診断をされ、出来れば今すぐ療養に入った方がいいとのことで、思いがけず結果的に三ヶ月ほどの療養期間を頂くことに。せっかく時間があるんだし何かに打ち込みたいな、と考えた結果、その矛先が何故か麻雀に向かいまして。目標をひとまず雀豪への昇段と定め(当時の段位はまだ雀士2〜3辺り)、ひたすらオンライン麻雀を打ち続ける日々。
そしてある日、趣味程度に麻雀を嗜んでいるネットの友人から、Mリーグを一緒に観戦しないか? とのお誘いを受けました。それまでは私、リアルの麻雀は全く見たことがなかったんですね。正確には、ほんの少しだけ放送対局を覗いたこととか、動画サイトに上がっている切り抜きを見たりだとかはあったのですが、正直、ネット麻雀しかやっていない身の上で観戦するには敷居が高すぎたと言いますか。実況・解説の方がいらっしゃった所で、状況が全くもってわからない、みたいな。そんなだったので、友人からのその誘いも最初はあまり乗り気ではなかったのですが、一緒に観てみれば一人で観た時よりも楽しめるかも? との思いでそのMリーグとやらを観戦してみたんですね。そうしたらね、ドハマりしちゃったんですね。しかも推しプロ雀士まで生えてきてしまったんですね。私はあの時誘ってくれた友人に感謝しかないのですが、その友人はというと、私のあまりのドハマりっぷりに「自分が沼落ちさせてしまった······」というよくわからない罪悪感が未だにあるらしく、複雑な感情を抱いているらしいです。
前置きが長くなりすぎましたね? ええ、なんとここまで書いてきたこと全てまだ前置き段階なんですね? こんなに長く書くつもりなかったのに······本当にシンプルにサラッと書いて終わらせるつもりだったのに······。早口オタク怖いですね。
はい、それでは本題。一月を振り返りまして。なんと、推しプロ雀士さんがゲストでいらっしゃるコラボイベントに参加をしてきました。何のコラボかというと、マインドスポーツコラボ。麻雀の他に将棋や囲碁、チェスなどもマインドスポーツに分類されるそうです。要するに、卓上での勝負・対局をするこれらの競技をマインドスポーツというそうなんですね。各ジャンルから何名か講師役としてプロの方をお招きし、本当に基礎の基礎から各競技の遊び方、ルールなどを教えて頂けるという素晴らしいイベントでして。そちらのイベント、私が在住している地方都市の方で行われたのですが、麻雀の講師役に私の推し・瀬戸熊直樹プロがおられまして。瀬戸熊プロから直々に手積み麻雀のやり方を懇切丁寧に一からご教授頂きまして······本当に······恐悦至極の限りでして······。
何を隠そう私、これが初めてのリアル麻雀だったのです。たった一度しかない初めてのリアル麻雀。嗜んでいらっしゃる方は友人同士でやり始めたとか、もしかしたら会社の付き合いで、とかいう方もいらっしゃるのかもしれません。それを私は、推しのプロから直接、直々に、ご指導賜ることが出来まして。これはもう、考えうる限り最高の“初めて”でしょう、と。
正直、このイベントに参加しなかったらリアル麻雀を打つ機会を永遠になくしかねないと思っておりまして、参加した理由はその要因が二番目に大きかったです。やはり麻雀プロの方は雀荘でファンの方達とリアル麻雀をするイベントが多いわけなので、リアル麻雀に一歩足を踏み出すきっかけがどうしても欲しかったのです。え? 参加を決意した一番大きな要因ですか? そこに推しが居るからです。遥か昔にバンドの追っかけをしていた女なので行ける範囲なら何処までも推しを追いかける習性があるんですね。こわいですね。
【二月】
ここからはサクサクいきたいところ······! 初っ端から初見バイバイ全開で読みに来て下さった方々をふるいにかけるのやめようぜ? 一体何人の方が二月まで辿り着けたというのか。
二月はですね、まず幼稚園の頃からの付き合いの幼馴染的な地元の友人と初めてご飯に行きました。去年うつ病で療養していたと書きましたが、その勤め先のスーパーにその子は昔からよく買い物に来ては挨拶してくれてまして、地元の友人が少ない陰キャの私なのに学生時代からいつも優しくしてくれていたとんでもなくいい子でですね。でも中学卒業以降の進路は別々で、成人式の時にも特に話し込んだりしなかったので、ずーーーーーっと個人的な連絡先をお互い知らなかったんですね。で、今更すぎますが一月頃に漸くLINEで繋がることが出来まして、そこから自然な流れでご飯へ。パスタがめっちゃ美味しいオシャなお店でした。お互い離れてる間にあった出来事だとか、近況だとか、たくさんお話し出来ていい気分転換になりました。
あとは私、滅多に映画館に映画を観に行くということをしない人間なのですが、珍しく映画を観に行きました。しかも一人で。何を観に行ったかって? ゴールデンカムイです。友人にゴリゴリ布教され続け、まだアマプラのパーティー機能が生きていた頃に一緒にアニメをイッキ見し、見事にハマりました。SNSに流れてきた実写映画の画像も役者の皆さん本当にクオリティーが高くてビックリしまして、これは是非見に行きたい······! とその当時から考えていたので、きちんと有言実行出来てよかったです。ちなみに私は鶴見中尉と二階堂くんが好きです。ところで、玉木宏が鶴見中尉の役をやるような年代になっていたことに驚きを隠せないし未だに信じられないのは私だけでしょうか?
【三月】
ええ······まだ三月なの······書くの疲れてきちゃったよ······。
はい、この頃仕事のストレスが二度目のピークに達しておりました。毎月メンタルクリニックへの通院は続けてましたし、毎日服用する薬とは別に仕事中の不安を和らげるような頓服薬も処方して頂きそれを服用しつつ誤魔化し誤魔化し短時間勤務を続けておりましたが、二月の終わり頃に「流石にそろそろ限界すぎてぶっ壊れる」と自覚し、とにかくストレス源から今すぐ離れないと死ぬ!! という思いに駆られ、マネージャー(女性)・課長(男性)の上司二名に囲まれて大の大人がマジ泣きしながら今月度で退職させて頂きたいですと直談判。次の仕事は見つかってるのか、週に二回とかでもいいからまだ頑張れないか、等、私に声を掛けて下さる上司はどちらも私の親世代ぐらいで、傍から見たら家族会議で両親に何か諭されてる子供みたいな有り様だったんだろうなと思うと滑稽です。もうとにかく心を鬼にして「もう無理です」と訴え続け、三月二十日の月度末(少し特殊な月度制の会社だった)での退職が決定。最後の出勤日はもうね、あれでした。気分は勇退セレモニーでした。なんせ何だかんだと15年半居座り続けた職場及び売り場でしたのでね。誇張なく、辞めてから肩の荷が降りたような感覚を味わいましたし、息苦しさ、生き苦しさも大分緩和されたので、辞める決意をしてよかったと、何の後悔もなく自分の選択の正しさを褒めてあげられます。
今、もしもこの頃の私のような状態になっている方がいらっしゃったら、お伝えしたいです。耐え忍んで耐え忍んで耐え忍んで、それでどうにかなることも勿論あります。逆に、どれだけ耐え忍べどもどうにもならないことも勿論あるのです。あなたが我慢をしなければならない理由なんてないです。自分の体と心、両方ともの健康が第一です。いのちだいじに、じぶんだいじに。
【四月】
遂に無職へ。単発バイトを三回ほどしつつ、ひたすら職探しの日々。
【五月】
五月末までの単発派遣として働くことに。データ入力系のお仕事でした。元々淡々と黙々コツコツ出来る作業のようなことは好きだし得意な方で、このお仕事はめちゃくちゃ性に合ってました。同期として他にも数人同じ仕事をしていて、上司の方含めて皆さんとても良い方達でしたし、一番年齢が近い方が私と同じく喫煙者で初日のお昼に向こうから話し掛けてくださって、お昼の時間は一緒に煙草を吸いご飯を食べ少し談笑する、という毎日のルーティンが出来まして、コミュ障の私からしたら本当に本当に有り難い存在でした。五月末までという期限がなければずっとあそこで働いていたかった、という同期含めた共通認識。結局私はどこまでもコミュ障なので誰とも連絡先の交換はしませんでしたし、あの仕事が終わったあとの同期の皆さんのその後はわかりませんが、いい職場と巡り会えていればいいなぁと思います。
【六月】
ひたすら職探し。面接までいって落とされること数多。これが就活生の気持ちか······となりながらどんどん心が折れていく。お金もないので心の余裕もどんどんなくなる。しんどい一ヶ月でした。
【七月】
遂に長期派遣のお仕事が決まる。今の派遣先ですね。面接の時に派遣会社の担当のお兄さんが一緒についてきてくれたんですけど、面接前に物凄く入念に面接の打ち合わせをして下さって目から鱗でした。言うべきことと言わない方がいいこと、ここはこっちの言い方に変えましょうかー、などなど。めっちゃ助かりました、マジで。お兄さん曰く、タイピングテストの私の成績がめっちゃよかったとのことで、とにかくそこを軸にしてアピールしていきますので! というその言葉通り、私のタイピング速度について面接で凄い勢いで猛アピールしてくださってました。そのせいなのか何なのか、初出勤時には「めっちゃタイピング速くてコミュ強の派遣さんが来る」という噂が既に蔓延していて、どうしてこうなった??? といういたたまれない気持ちになりました。
【八月】
コロナ禍以降、ライブハウスに足を運ぶという行為がとんでもなく億劫になってしまっていた私が、なんとコロナ禍になってから初めてライブハウスに行ってきました。元々はV系の追っかけをしていた身ですが、この時のお目当ては東方サークルの石鹸屋。ワンマンで地元に来てくれるということで、以前から一度でいいから生で浴びたい!! とずっと思っていたこともあり、バンギャとしてのノリ方しかわかんないけど大丈夫か? まぁ空いてたら逆最前とかで大人しく見ていよう······と考えながらチケットを購入し行って参りました。結論、めっちゃ楽しかったです。途中からテンション上がりまくってジャンプしたり折り畳みしたり拳振り上げたり、めっちゃふっつーーーーーに楽しんできてしまいました。大人しくとは何だったのか。
石鹸屋も好きですがゼッケン屋もめちゃんこ好きなので、秀三おじちゃんはどうかチビにも見やすい箱でゼッケン屋ワンマン回ってきて下さいお願いします。
【九月】
特に特筆すべきこと、なし。仕事してMリーグを観る日々。
【十月】
仕事してM。
【十一月】
仕事してM。
······の間に、久しぶりにヒトカラに行ってきました。私、自分で自分のストレス発散方法がイマイチわからなくてですね。麻雀が趣味だと書きましたが、麻雀って毒にも薬にもなるといいますか、自分でネット麻雀やるにしろMを観るにしろ、自分や推しが負けたらメンタルぐしゃぐしゃのボコボコになるんですね? あれ、逆にストレスかかってない? って気が付きまして。それでも推しの対局は観るんですけど、麻雀だけじゃストレス発散には程遠いと自覚をしたので、長らくご無沙汰だったヒトカラに白羽の矢が立ったわけです。いやぁ、楽しかったですね! だんだん喉が開いてきてから全力で歌う「神様は死んだ、って」が最高に気持ちいい。一人だからって何も気にせず大声出して高音チャレンジして音外しても歌い続けて、いや、ほんと楽しかったです。また来年もちょこちょこ行きたいですね。
【十二月】
遂にやってきたーーーーラスト十二月!
はい、仕事してM。代わり映えの無い日々よ。
趣味でTRPG(主にCoC)を仲間内でやっているのですが、人生で三番目に作り二十以上のシナリオを通過しリアルタイム八年共に駆け抜けてきた古株探索者が永遠の狂気・犯罪性精神異常を患いロストしたりしましたが、私的には納得のいく死に場所で、納得のいくRPをやり切れたのでむしろ心晴れやかな感じです。憧れのSAN値直葬食らって大興奮でしたし。周りの方が親の私よりずっと悲しんでくれてる、有り難いことです。
ははは、はははは。まさかこんなに長くなるなんて思いませんでしたね。一体どれほどの数の方がリタイアせずここまで辿り着けたのか。もしいらっしゃいましたら本当にお疲れ様でした。こんな面白みも何も無い一個人の振り返りにお付き合い下さいまして、誠に有難うございました。