星から人の運命を読み解く一族がいた。
星図から読まれる運命は、時には幸運を招き、時は悲劇を呼んだ。
だが、新月の闇がすべてを覆い尽くした夜。
星々の輝きは忽然と失われてしまった。
代々守られてきた秘術は効力を失い、星図に描かれていた星々の名も一つ残らず消え失せた。
それは、世界の終焉の始まりを告げる鐘だった。
堕落する事を選択し、自ら思考を放棄した人類への遅すぎた報い。
緩やかなに動き出した破滅は、誰にも止められなかった。
星読の一族の娘は、事態を嘆き涙を流した。
「人は選択を誤った。……また一から創り直さなくては……」
____世界の滅亡を回避する為に作られた最期の箱庭。
それが、この世界の真実であることを誰も知らない。
#消えた星図
あんなに愛していたのに一度冷めた気持ちは、
元には戻らない。
「ねぇ、これで何度目?」
「……えっと、2度目?」
「5度目よ!」
居住まいを正す彼氏と友人を見下ろす。
彼氏の浮気発覚で修羅場の真っ最中。しかも浮気相手が私の友人。笑い事ではない。
それなのに当の彼氏はヘラヘラ笑ってばかりで反省の色ゼロ。私の中で、堪忍袋の緒が切れた。
「……私たち別れましょう」
「え!? 嫌だっ!別れたくない!」
「もうこりごりなのよ。あなたのような浮気男なんて」
わざと低い声を出し睨みつければ、彼は押し黙った。
もう彼への気持ちは"恋"ですらなかった。
ただの執着、あるいは情。
それを手放せないままズルズルとここまできた。
そしてたどり着いた結末が別れ。
後味の悪い終わり方に、私は静かに瞼を伏せた。
#愛−恋=?
小麦色に焼きあげられたタルト生地に艷やかな梨のコンポート。目線の先にある好物に気分が高まる。
早く食べたい。
そう彼女に目で訴えてみれば、苦笑が返ってきた。
「食いしん坊ですね」
「好物を前に待てをさせる方が、意地が悪くないか?」
「ふふっ…すぐに準備するからもう少し待っていて」
むくれる俺を見ながら、彼女は肩を震わせ笑った。
#梨
「……好きだよ。付き合ってくれる?」
秋晴れの空の下、僕は想いを告げた。
リンゴのように赤く染まった彼女の頬にそっと触れた。
彼女との出会いは、桜咲き乱れる春。
友人の従妹として紹介され、一目で恋に落ちた。
栗色のふわりとした髪に、くりっとした大きな瞳。
聞いていると思わず笑みが浮かぶほどの可愛い声。
彼女の全てに心を奪われた。
それからは下心を隠し友人として距離を縮めていった。
彼女の周囲にいる男には、さりげなく牽制を忘れず、
少しずつ、確実に友人として信頼関係を築いてきた。
それなのに、全てを壊すような突然の告白。
彼女はどう思ったのだろうか。
「……ずるいよ。そんな態度見せてこなかったのに、急にそんな……」
「ごめん。……ただ、返事は急かす気はないんだ。ただ伝えておきたかったからさ」
「……うん」
不意に彼女の顔がそっと近づき、唇に温かな感触が触れる。
そのまま悪戯が成功したかのように微笑んだ。
「これが、私からの返事ね」
#秋恋
空から落ちてくる粉雪は街を白く染めていく。
吐き出す息は白く、寒さで手がかじかんでいた。
色とりどりのイルミネーション。
行き交う人々は足を止めず、足早に家路を急ぐ。
喧騒が聞こえず、世界から音が消えたような
錯覚に囚われた。
そんな、静寂の中心で、来ぬ人を待っている。
手の中には、着信を告げないスマホ。
確認するけれど、やはり連絡は来ていない。
信じたい。
いや、信じていたかった。
彼の心は、ここにあると思い込みたかっただけ。
(____帰ろう。無意味だ。)
雪で視界が悪い中、歩き出す。
そのさみしげな後ろ姿は、人混みの中に静かに紛れていった。
#静寂の中心で