夜兎

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10/16/2025, 10:40:49 AM


星から人の運命を読み解く一族がいた。
星図から読まれる運命は、時には幸運を招き、時は悲劇を呼んだ。
だが、新月の闇がすべてを覆い尽くした夜。
星々の輝きは忽然と失われてしまった。

代々守られてきた秘術は効力を失い、星図に描かれていた星々の名も一つ残らず消え失せた。
それは、世界の終焉の始まりを告げる鐘だった。

堕落する事を選択し、自ら思考を放棄した人類への遅すぎた報い。
緩やかなに動き出した破滅は、誰にも止められなかった。

星読の一族の娘は、事態を嘆き涙を流した。

「人は選択を誤った。……また一から創り直さなくては……」

____世界の滅亡を回避する為に作られた最期の箱庭。
それが、この世界の真実であることを誰も知らない。


#消えた星図

10/15/2025, 10:45:30 AM

あんなに愛していたのに一度冷めた気持ちは、
元には戻らない。

「ねぇ、これで何度目?」

「……えっと、2度目?」

「5度目よ!」

居住まいを正す彼氏と友人を見下ろす。
彼氏の浮気発覚で修羅場の真っ最中。しかも浮気相手が私の友人。笑い事ではない。

それなのに当の彼氏はヘラヘラ笑ってばかりで反省の色ゼロ。私の中で、堪忍袋の緒が切れた。

「……私たち別れましょう」

「え!? 嫌だっ!別れたくない!」

「もうこりごりなのよ。あなたのような浮気男なんて」

わざと低い声を出し睨みつければ、彼は押し黙った。

もう彼への気持ちは"恋"ですらなかった。
ただの執着、あるいは情。
それを手放せないままズルズルとここまできた。

そしてたどり着いた結末が別れ。
後味の悪い終わり方に、私は静かに瞼を伏せた。




#愛−恋=?

10/14/2025, 12:26:15 PM


小麦色に焼きあげられたタルト生地に艷やかな梨のコンポート。目線の先にある好物に気分が高まる。

早く食べたい。
そう彼女に目で訴えてみれば、苦笑が返ってきた。

「食いしん坊ですね」

「好物を前に待てをさせる方が、意地が悪くないか?」

「ふふっ…すぐに準備するからもう少し待っていて」

むくれる俺を見ながら、彼女は肩を震わせ笑った。


#梨

10/9/2025, 11:43:00 AM

「……好きだよ。付き合ってくれる?」

秋晴れの空の下、僕は想いを告げた。
リンゴのように赤く染まった彼女の頬にそっと触れた。

彼女との出会いは、桜咲き乱れる春。
友人の従妹として紹介され、一目で恋に落ちた。

栗色のふわりとした髪に、くりっとした大きな瞳。
聞いていると思わず笑みが浮かぶほどの可愛い声。
彼女の全てに心を奪われた。

それからは下心を隠し友人として距離を縮めていった。
彼女の周囲にいる男には、さりげなく牽制を忘れず、
少しずつ、確実に友人として信頼関係を築いてきた。

それなのに、全てを壊すような突然の告白。
彼女はどう思ったのだろうか。

「……ずるいよ。そんな態度見せてこなかったのに、急にそんな……」

「ごめん。……ただ、返事は急かす気はないんだ。ただ伝えておきたかったからさ」

「……うん」

不意に彼女の顔がそっと近づき、唇に温かな感触が触れる。
そのまま悪戯が成功したかのように微笑んだ。

「これが、私からの返事ね」



#秋恋

10/7/2025, 1:01:02 PM

空から落ちてくる粉雪は街を白く染めていく。
吐き出す息は白く、寒さで手がかじかんでいた。

色とりどりのイルミネーション。
行き交う人々は足を止めず、足早に家路を急ぐ。
喧騒が聞こえず、世界から音が消えたような
錯覚に囚われた。

そんな、静寂の中心で、来ぬ人を待っている。

手の中には、着信を告げないスマホ。
確認するけれど、やはり連絡は来ていない。

信じたい。
いや、信じていたかった。

彼の心は、ここにあると思い込みたかっただけ。

(____帰ろう。無意味だ。)

雪で視界が悪い中、歩き出す。
そのさみしげな後ろ姿は、人混みの中に静かに紛れていった。



#静寂の中心で

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