パチパチと音を立て木の葉が燃える。
焚き火の熱がじわじわと体を包み、額から汗が滲む。
すべては、ただの思いつきだった。
旬のさつまいもを見かけて、ふと食べたくなった。
_____そう、焼き芋を。
食い意地が張っていると笑われるかもしれないが、
火のついた食欲には逆らえなかった。
「んー!美味しー!」
ホクホクした身を一口齧れば口の中に甘さが広がった。
秋空を見上げながら、無言で、ただひたすら食べ進めた。
#燃える葉
月の光が絶えた、荒廃した街を歩く。
時が止まった月の都は、今は廃墟が広がるばかり。
かつて一人の女王がこの地を治めていた。
純血主義を掲げ、狭間なもの達を容赦なく迫害した。
その惨状を、女王は嗤いながらながら見ていたという。
女王の掲げる純血主義によって、多くの同胞の命が奪われ次第に月の都には深い憎しみと怒りが満ちた。
やがて、政変が発生する。
混乱に乗じ、反旗を翻した民の大軍は王宮を制圧し、
女王は捕らえられ、断頭台の露と消えた。
後世に名を残す悪辣非道な女王の最期は
見るも無残だった。
過去を思い返し、ふっと息を吐いた。
手に持つ花束は、かの亡き女王への手向け。
_______月光と名付けられた純白の薔薇が、あなたの魂の慰めになりますように。
#Moonlight
耳が遠くの足音を捉えた。
靴の底を擦り付けるような歩き方。
それは、僕の飼い主の無意識の癖のひとつ。
ベッドから飛び降りて玄関に座る。
疲労困憊で帰宅する飼い主を癒やすのが、
僕に課せられた任務。
重く固い鉄の扉が開き、大好きな声がする。
白くて細い指で優しく、僕を撫で抱き上げる。
甘く芳しい匂いで満ちている腕の中は、
1日の虚無感をそっと消し去ってくれた。
「ふふ……甘えん坊ね」
僕は、甘えたように鳴きゴロゴロと喉を鳴らす。
僕の首元を撫でながら、彼女は優しく微笑んだ。
#遠い足音
※お題 雨と君で登場した飼い猫(プリュイ)視点の話。
季節は秋めいて、風が冷たく感じるようになった。
金木犀の芳醇な香りが風に乗って漂い、夜は鈴虫の大合唱が響く。
季節の移ろいを五感で実感する。
そんな事を考えながら遊歩道をゆっくり歩く。
人々が行き交う喧騒の中、ふとした瞬間胸に孤独が灯る。
「(………一人って、寂しいな)」
不意に湧き出た本音。
それを誤魔化すように深く息を吐き、空を仰いだ。
暮れゆく空には一番星が輝き、
それはまるで、寂しさにそっと寄り添ってくれているようのようだった。
#秋の訪れ
あなたがいた時は鮮やかだった世界。
けれど、あなたが消えたあの日すべては姿を変えた。
モノクロの闇が迫り、全てを飲み込んでいく。
「________助けてっ……!」
声にならない声を上げ彼方の光に手を伸ばす。
その瞬間、意識が引き戻される。
悪夢に魘され、目覚めるのは何度目だろう。
彼は、もう居ないのに。
あなたの最後の笑顔が瞼の裏に焼き付き
あの日の記憶が忘れさせてはくれない。
それなのに、変わらず朝は来る
いたましい記憶は風化せず
絶望が精神を苛み、心が擦り切れていく。
_____もう、疲れた。
生きている事も、あなたが居ない現実も。
「清孝_____あなたのもとに行ってもいい?」
掠れた声が、暗い部屋にポツリと落ちた。
#モノクロ