耳が遠くの足音を捉えた。
靴の底を擦り付けるような歩き方。
それは、僕の飼い主の無意識の癖のひとつ。
ベッドから飛び降りて玄関に座る。
疲労困憊で帰宅する飼い主を癒やすのが、
僕に課せられた任務。
重く固い鉄の扉が開き、大好きな声がする。
白くて細い指で優しく、僕を撫で抱き上げる。
甘く芳しい匂いで満ちている腕の中は、
1日の虚無感をそっと消し去ってくれた。
「ふふ……甘えん坊ね」
僕は、甘えたように鳴きゴロゴロと喉を鳴らす。
僕の首元を撫でながら、彼女は優しく微笑んだ。
#遠い足音
※お題 雨と君で登場した飼い猫(プリュイ)視点の話。
10/2/2025, 10:49:50 AM