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5/26/2024, 4:18:10 PM

月に願いを


今日は綺麗な満月と言っていたな。
朝、家を出る瞬間に一瞥したテレビを思い出す。
空を見上げるとその空は雲に覆われていて、ただ、暗く。湿っぽい雲が厚く、俺に秘密を知られたくないような。意味深な空があった。

別に隠さなくても俺は他の奴らとは違う。固定されたお前の姿でお前を見たりはしない。だからお前も何でもない俺を受け入れてくれないか。

水は決して止まることなく、忙しく流れ、それは今まで刻んできた俺の時間とフェアであった。時は、だれにでも平等な速さで流れていった。

下を見ると、隠されていて、あるはずのなかった。人々から満月と呼ばれているお前が、川の水に反射して俺を見上げていた。


「次は互いに堂々と存在しような。」






橋の上に立っている君はそう呟いて、足の力を抜き川へと落ちていった。僕は空から君の隠せない瞬間を見てたよ。少し薄くなった雲達は君の最期を少しだけ見せて、また、君を覆い隠した。

3/27/2024, 1:36:38 PM

マイハーツ今、一瞬だけ動いてればいい。

明日も未来も無視して

9/24/2023, 3:46:37 PM

〝大切なことは目に見えないんだよ〟

フランスの作家。サン=テグジュペリが書いた星の王子さまという小説に出てくる一節。

赤信号になった。

おじいちゃんは助手席に座る私に問いかけた。

「目に見えない大切なものってなんだと思う。」

「…うーん…お金?とか?。。あ、お金は目に見えるか。いや仮想通貨もあるよな。。。友達とか?いや友達だって見えるよな。」

頭で考えていることを全てを口に出してしまう癖がある私は、頭を傾げながらぼそぼそと脳内で浮かんだ考えを口にしてゆく。
おじいちゃんの顔を覗くと、そんな私の目を、おじいちゃんは微笑んで見ていたので私も
「っふふ」と笑ってみた。

信号が青に変わり、アクセルをぎゅんと踏んだ。おじいちゃんに会話を続ける気配はなかった。二人共なにも話さなかった。目の前で沈む、これ以上オレンジ色になれないであろう太陽は、その沈黙した空間に気温では感じられない温かさを照らしている。この時間が一生続けばいいな。そう思ったが、何故かその言葉は口に出せなかった。

「おじいちゃんは目には見えない大切なものが分かるの?」

今度は私が問いかけた。
おじいちゃんはどこか遠くを眺めている気がした。

「いいや。正解は分からない。でも、私には目に見えない大切なものが。見えている気がする。」

独り言か私の問いに答えてるのか一瞬分からなかったから、返しをワンテンポ遅らせてしまう。

「何それ。全然意味分かんないよ。正解が分からないのに見えてるの?でもそれって見えなくて、でもおじいちゃんには見えてて、んん?」

私は頭が混乱した。それもまた全てぼそぼそと口に出す。その姿を見てまたおじいちゃんが微笑む。
また、会話が止まった。

私はその〝目には見えない大切なもの〟の正解を知りたかったが、おじいちゃんにその正解を聞くのをやめた。
聞かない方がいいというより、おじいちゃんとの緩く流れゆく時間が、喉元まで出てきていた「おじいちゃんの見えないものはなに?」という言葉を飲み込ませた。



9/10/2023, 10:25:13 AM

大きな塔を見上げた。

「上に行くと、いつもは見えない景色があるのよ」

おばあちゃんは私にそう言って大きな塔の地下に繋がる階段へと消えていった。

「おばあちゃん待って。」

私の呼び止めた声だけが大きな塔の中でこだました。何処かも分からない場所に、とりのこされる。私はどこへ迎えばいいの?
地下へと繋がる階段は真っ暗で塔のてっぺんにある、たったひとつだけの窓から漏れ出ている光は届かない。
おばあちゃんについて行く前に、私が見えない景色を見てみたい。

私は階段を登り始めた。ああ疲れた。私はここまで歩けた。やっとてっぺんだ!私は窓から暮らしている街を見下ろしていた。なんだ、こんな景色いつも見てるよ。私の期待していた景色じゃない。
私はおばあちゃんについて行くことにした。後ろを振り向くと、そこに階段はなかった。



お母さんが私の肩を揺さぶる。

「紀子!紀子!起きて!起きなさい!」

「……どうしたの?お母さん今日は学校はお休みだよ。ゆっくり寝たいよ」

「おばあちゃんが病院で亡くなったのよ。準備があるから手伝って。」

「うん」


多分おばあちゃんは、塔のてっぺんには登れなかったんだ。

8/10/2023, 3:58:50 PM

次の駅だ。今日から高校生生活が始まる。もう中学生の頃のズボラな自分とはもうおさらばだ!“ルール”!課題の期限は守る!授業中は寝ない!忘れ物をしない!あとは、、、遅刻をしない!みんなにとっては当たり前で簡単なことかもしれないけれど、私にとっては難しいことなのだ。
電車の窓を流れる景色を眺めながら、“ルール”を頭の中で何度も何度も唱えて自分の脳みそに言い聞かせる。この“ルール”を破ったら一週間テレビ禁止の刑だ。自分になにかしらの刑罰を与えないと中々ズボラ脱却はできないのではと思い自分の中の一番嫌な罰を考えた。
テレビが一週間見れなくなると結構困る。大好きな俳優が出演している月曜日の連ドラを逃すことになるし、朝七時からの情報番組の占いも見れない、景品が当たるじゃんけんも参加出来なくなる。そんな仕打ちは絶対にごめんだ!至福の時間は絶対に死守する!もう一度自分の心の中でけじめをつける。
どうせ“ルール”を破ったとしても、ズボラだからテレビも見ちゃうんじゃないかって思ってる?そんなことが出来ないように、
「私がこの“ルール”を破ったらテレビの線は一週間抜いていいから」
とパパとママに一週間耳にタコができるくらいに宣言している。
元々私の家にはテレビがなかった。私が中学生になる頃にパパとママに私がおねだりして入学祝いで買ってもらったのだ。うちは新聞をとってるからテレビなんて高級品はいらないのに。なんてママ最後までブツブツ言っていたけど。
私の生活からテレビが消えることなんて考えられないのだ。私は今日から新しい自分に生まれ変わる。ずっと頭の中で“ルール”を唱えてるうちに目を閉じた。









「次は、終点██駅██駅です。お忘れ物のないようにお降り下さい。」
車内アナウンスで目を覚ました。すぐに時間を確認する。腕時計の針は九時を指していた。そして始業式は九時からだ。





私は一週間どう生きていこう。

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