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〝大切なことは目に見えないんだよ〟

フランスの作家。サン=テグジュペリが書いた星の王子さまという小説に出てくる一節。

赤信号になった。

おじいちゃんは助手席に座る私に問いかけた。

「目に見えない大切なものってなんだと思う。」

「…うーん…お金?とか?。。あ、お金は目に見えるか。いや仮想通貨もあるよな。。。友達とか?いや友達だって見えるよな。」

頭で考えていることを全てを口に出してしまう癖がある私は、頭を傾げながらぼそぼそと脳内で浮かんだ考えを口にしてゆく。
おじいちゃんの顔を覗くと、そんな私の目を、おじいちゃんは微笑んで見ていたので私も
「っふふ」と笑ってみた。

信号が青に変わり、アクセルをぎゅんと踏んだ。おじいちゃんに会話を続ける気配はなかった。二人共なにも話さなかった。目の前で沈む、これ以上オレンジ色になれないであろう太陽は、その沈黙した空間に気温では感じられない温かさを照らしている。この時間が一生続けばいいな。そう思ったが、何故かその言葉は口に出せなかった。

「おじいちゃんは目には見えない大切なものが分かるの?」

今度は私が問いかけた。
おじいちゃんはどこか遠くを眺めている気がした。

「いいや。正解は分からない。でも、私には目に見えない大切なものが。見えている気がする。」

独り言か私の問いに答えてるのか一瞬分からなかったから、返しをワンテンポ遅らせてしまう。

「何それ。全然意味分かんないよ。正解が分からないのに見えてるの?でもそれって見えなくて、でもおじいちゃんには見えてて、んん?」

私は頭が混乱した。それもまた全てぼそぼそと口に出す。その姿を見てまたおじいちゃんが微笑む。
また、会話が止まった。

私はその〝目には見えない大切なもの〟の正解を知りたかったが、おじいちゃんにその正解を聞くのをやめた。
聞かない方がいいというより、おじいちゃんとの緩く流れゆく時間が、喉元まで出てきていた「おじいちゃんの見えないものはなに?」という言葉を飲み込ませた。



9/24/2023, 3:46:37 PM