たろ

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2/3/2024, 1:40:02 PM


※閲覧注意※
IF歴史?
クロスオーバー?
色々ごちゃ混ぜ。


《1000年先も》

『あなたを知っています。あなたが天命を全うした、ずっとずっと後の世から、私は参りました。』
なんて空虚な言葉だろう。言わなきゃ良かったと、後悔しても遅い。
「…くだらん。お前が知っているのは、我が父の事であろう?」
釘を刺す様な指摘に、見透かされているのだと気が付き、冷や汗をかく。
『…仰る通りです。申し訳ございません。』
慌てて床に額を付けて、謝罪を示すべく上体を伏せる。
「まぁ、旦那様ったら!お父上様とご一緒とて、聴かぬ日はないほどのお声をほしいままにしておいて、そんな事を口にしてはいけませんわ。」
目前に座る男性の伴侶である女性の声が、頭上から降ってくる。
「知っておると言えば、父上と縁を結べはしまいかと考える輩の多き事。」
強い衣擦れの音が横を通り過ぎて、恐らくは男性の隣に座ったのだろう。
「もう!そんな輩と此の子を一緒にしないでくださいな。」
目の前で言い争う声に、驚いて尻込みしてしまう。
「お前も欲しいのだろう?我が父の威が。」
突然振られた問に、上体を起こして首を横に振った。
(そんな恐ろしいモノ、要らない!)
後が怖いに決まってる、そう思って必死に首を横に振った。
「旦那様、此の子は無欲よ。軒先をほんの少し借りられたら、ありがたいのだと言うのだもの。こんなに良い子は、滅多にないわ。」
どうしてか判らない全面肯定論の女性と、真っ当に怪しんでいる男性に挟まれて、身動きがとれない。
『言わなきゃ良かった、こんなこと…。』
追い出されてしまうだろうか。自分の愚かしさに、涙が出そうになる。
「いずれか先の世に、父の名が残るのであれば、この雑事も徒労とはなるまい、か。」
男性が喉を鳴らして笑った。
「あら、そんな素敵なお話を聴けたのですか?私も聴きたかったわ。」
女性がころころと笑う。
「ねぇ、あなたの郷里のお話、もっと聴かせてくださらない?」
女性の手が、自分の手を取るのを見て、そっと男性の顔色を伺う。
「聴かせろ。」
にやりと笑う男性を少し怖いと思いながら、何を話そうかとぐるぐると悩む。
「あら、困らせてしまったかしら。」
うふふ、と笑う女性とにやにやと笑っている男性に挟まれて、目を回して気を失ってしまった。

『1000年以上前に生きてる人に、話せる話なんてあるのかな…。』
自分を囲む全てが、歴史の教科書や資料集に掲載されていた物で溢れている。
夢であれば良いのに、と願いながらそっと目を閉じた。

2/2/2024, 10:08:20 AM

【勿忘草(わすれなぐさ)】

名前の通り、書いてあるそのままに読むと、なんだか悲しいような気持ちになるなぁ、なんて最初は思ったものだ。
「思いの外、逞しいなぁ、君は。」
優しい青みを誇示するでも無く、可憐に健気そうに咲く姿が、きっと古の人々の心を打ってきたのだろう。
「君を見てると、思い出すなんて言ったら、きっと怒られるなぁ。」
偶然の出会いで持ち帰った可憐な花の名前を見て、複雑そうな少し困ったような顔をされてしまった。
「忘れないよ。だから、お迎えしたのにさ。」
台所に引っ込んでしまった人を背にして、花に内緒話をする。
「むしろ、オレの事こそ、忘れないでほしいのに。」
ちょっとだけ涙が出そうになって、ダイニングテーブルに突っ伏した。
「気を引きたい人間のエゴを託された君は、偉いなぁ。…ツラくない?」
花は、応えない。

「大丈夫?」
頬をテーブルにくっつけていたら、その視界の端にマグカップが置かれた。
「意外と丈夫で、良く咲くんだな。」
花に似た淡い青色の液体が、マグカップを満たしていた。
「色、変えたかったら、絞って。」
爽やかなレモンの香りが漂う。
「あ、喉に良いヤツ?」
テーブルの斜め向こう側に座って、マグカップを傾けている姿が絵になっていて、見惚れてしまう。
「うん、マロウ。」
赤く染めてしまうのは、少し勿体ない気がして、そのままマグカップに口を付けた。
「ありがとう。大好き、かっちゃん。忘れないでね、オレの事。」
花に影を作らない為に、対面に座らない優しさも、そっと傍に寄り添ってくれる暖かさも、全部君が教えてくれた。
「忘れようがないな。これだけ一緒だと。」
忘れなくちゃいけない時、大変なんだとひとつ苦笑いを零してから、君は笑った。

勿忘草も、笑ったような気がした。

2/1/2024, 1:38:09 PM

【ブランコ】

キィキィと軋む音。
空は抜けるような青さを見せ付ける。
するりと頬を撫でる風は、心地良い冷たさを伝えて通り過ぎて行った。
青い空を手繰り寄せるように、青い空へ飛び込むように、ぐんぐんと漕ぎ出す。
まるで船出のようだと、少し笑う。
「―――っ!」
童心に還って、海のように青い空へ漕ぎ出したブランコに乗って、前へ後ろへ、もっと高くと漕ぎ進んだ。

「めっちゃ楽しんでるなぁ。」
途中で声を掛けたら落ちてきそうで、遠巻きに眺めることにした。
「あ〜!」
勢い良く漕いでいる良い大人が、ブランコの上で童心に還ってしまっている。
「…体重制限、ないよな?」
気になってしまい、眺めるのを止めてブランコに近付いた。
「カズ、漕ぎすぎ。子供用だよ、それ。」
キィキィと小気味よく金属が軋む音を鳴らして、ブランコの上の大き過ぎる子どもは首を傾げた。
「かっちゃんも、やる〜?気持ち〜よぉ!」
聴こえていないだけか、と苦笑いして隣のブランコに腰掛けた。
「懐かしいな…。」
足が届く範囲で軽く漕ぎながら、見上げた空の青さに、目を細めた。
「…かっちゃん、漕がないの?」
ブランコに立っていた大きな子どもが、いつの間にか座っていて、足を地面に触れさせてブレーキを掛け始めた。
「着地しまっす!とぉっ!」
ざざざざざっと、ブレーキを掛けたままの勢いで着地を決めた大きな子どもは、胸を張って静止ポーズをしている。
「はい、10点満点。帰ろう。」
キィキィとブランコが軋む音を残して、2人の大人たちは、去っていった。


遠くで放課後を報せるチャイムが鳴った。

1/31/2024, 10:05:56 AM


※ご注意※
ぼんやりIF歴史?
ぼんやり二次創作?
ぼんやりクロスオーバー?
出てくるのは、オリジナルのモブ。
混ざり物ごった混ぜにしてます。


〈旅路の果てに〉


ふと気が付くと、見たこともない景色に囲まれていた。
(まともに帰れる訳もない、ですよね。)
そこは不思議な檻か、座敷牢のような場所だった。
「気が付いたか。―――へ、参じよ。」
音声だけが聴こえてきて、カチャリカチリと金属音が響いた。
「案内する故、申した通り、―――へ、参じよ。」
先導する音声の言う通りに、潜り戸を通り抜け、通路を渡り、右へ左へ。
「その扉を開け、中へ入るが良い。」
重たげな大きな扉をそっと押し開けて、中へと足を踏み入れる。
(…ひ、広いし、寒い?)
ひんやりとした空気は、少し淀んでいるような気がした。
「前へ。階に立ち、尋問に応えよ。」
音声だけが高い天井に木霊し、天井の奥は闇に閉ざされて、何も見えない。
言われた通り、前方に紋様が書かれた桟橋の先に似た造りの場所へ、足を踏み入れる。
「汝、何故に時を渡り、我欲の赴くままに、時を掻き乱したのだ。」
音声だけが滔々と流れて行く。
『龍神様との約束を果たし、穏便にお還しする方法を探していたら、偶然そうなってしまって…。想定外の事だったんです!』
口元を動かしても、はくはくと息が抜けて、声にならない。
「応えよ!何故、何も申さぬ!」
苛立つ声が、大きな雷のように落ちて来る。
ひゅっと喉元が鳴って、恐怖に身体が竦み上がる。
「待て!応えようとしているのを聴かぬのは、どういった了見だ?委員会とやらが、聴いて呆れる。」
若い男の声が後ろから聴こえてくる。
「悪意なし、と見受ける。何かに、巻き込まれたのだろう?同族ともとれる。こちらで預かりたい。」
顔の前に白い布を垂らした長身の男が隣に立ち、闇を見上げていた。
「時を渡り、時を歪めたること甚だし。歪めし時を、正しき時へと還せ。」
厳かに告げる声が響いて、気配が消える。
「さて、君の行き先を考えよう。」
隣に立つ長身の男が手を取って、来た道を引き返す。


気まぐれな神様による大抜擢の代償は、簡単には帰り路に辿り着けないということらしく、たくさんの時代を彷徨って、終わりがない様だった。
『…諦めたほうが、早いのかな。』
心が折れそうになるのをぐっと堪えて、新たな旅路を辿ることにした。

1/30/2024, 11:28:25 AM

【あなたに届けたい】


あぁ、急がなくては。
家路を辿るその時間がもどかしい。
焦りに灼け付く喉の奥が、乾いて仕方がない。
「待ってて!美味しく料理するからね!」
車のハンドルを強く握り締めて、アクセルを踏んだ。


『いやぁ、今年は凄くてなぁ。思わぬ量だったんで、良かったら食べてくれ。』
と厚手のビニル袋いっぱいに、野菜を渡してくれた職場の先輩を思い出す。


家で待ってるあなたに、美味しいものを食べてもらいたくて、何が作れそうか考える。
「あ!何が良いかな…。相談しよ。」
ハンズフリーの通話を起動させて、今日の貰い物を報告する。
「かっちゃん、今日ね。お野菜いっぱい貰ったんだ。何食べたいかな?」
煮物、お浸し、卵焼き、鍋、うどん、そば、ラーメン、味噌汁。それから、それから…。
キッシュ、ソテー、グラタン、シチュー、パスタ、サラダ、スープもいいなぁ。ホイル焼きも捨て難い…。

―――今夜は、何を作ろう。


翌日、鍋いっぱいに作った具沢山スープを先輩にはお裾分けした。

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