【ブランコ】
キィキィと軋む音。
空は抜けるような青さを見せ付ける。
するりと頬を撫でる風は、心地良い冷たさを伝えて通り過ぎて行った。
青い空を手繰り寄せるように、青い空へ飛び込むように、ぐんぐんと漕ぎ出す。
まるで船出のようだと、少し笑う。
「―――っ!」
童心に還って、海のように青い空へ漕ぎ出したブランコに乗って、前へ後ろへ、もっと高くと漕ぎ進んだ。
「めっちゃ楽しんでるなぁ。」
途中で声を掛けたら落ちてきそうで、遠巻きに眺めることにした。
「あ〜!」
勢い良く漕いでいる良い大人が、ブランコの上で童心に還ってしまっている。
「…体重制限、ないよな?」
気になってしまい、眺めるのを止めてブランコに近付いた。
「カズ、漕ぎすぎ。子供用だよ、それ。」
キィキィと小気味よく金属が軋む音を鳴らして、ブランコの上の大き過ぎる子どもは首を傾げた。
「かっちゃんも、やる〜?気持ち〜よぉ!」
聴こえていないだけか、と苦笑いして隣のブランコに腰掛けた。
「懐かしいな…。」
足が届く範囲で軽く漕ぎながら、見上げた空の青さに、目を細めた。
「…かっちゃん、漕がないの?」
ブランコに立っていた大きな子どもが、いつの間にか座っていて、足を地面に触れさせてブレーキを掛け始めた。
「着地しまっす!とぉっ!」
ざざざざざっと、ブレーキを掛けたままの勢いで着地を決めた大きな子どもは、胸を張って静止ポーズをしている。
「はい、10点満点。帰ろう。」
キィキィとブランコが軋む音を残して、2人の大人たちは、去っていった。
遠くで放課後を報せるチャイムが鳴った。
2/1/2024, 1:38:09 PM