たろ

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※閲覧注意※
IF歴史?
クロスオーバー?
色々ごちゃ混ぜ。


《1000年先も》

『あなたを知っています。あなたが天命を全うした、ずっとずっと後の世から、私は参りました。』
なんて空虚な言葉だろう。言わなきゃ良かったと、後悔しても遅い。
「…くだらん。お前が知っているのは、我が父の事であろう?」
釘を刺す様な指摘に、見透かされているのだと気が付き、冷や汗をかく。
『…仰る通りです。申し訳ございません。』
慌てて床に額を付けて、謝罪を示すべく上体を伏せる。
「まぁ、旦那様ったら!お父上様とご一緒とて、聴かぬ日はないほどのお声をほしいままにしておいて、そんな事を口にしてはいけませんわ。」
目前に座る男性の伴侶である女性の声が、頭上から降ってくる。
「知っておると言えば、父上と縁を結べはしまいかと考える輩の多き事。」
強い衣擦れの音が横を通り過ぎて、恐らくは男性の隣に座ったのだろう。
「もう!そんな輩と此の子を一緒にしないでくださいな。」
目の前で言い争う声に、驚いて尻込みしてしまう。
「お前も欲しいのだろう?我が父の威が。」
突然振られた問に、上体を起こして首を横に振った。
(そんな恐ろしいモノ、要らない!)
後が怖いに決まってる、そう思って必死に首を横に振った。
「旦那様、此の子は無欲よ。軒先をほんの少し借りられたら、ありがたいのだと言うのだもの。こんなに良い子は、滅多にないわ。」
どうしてか判らない全面肯定論の女性と、真っ当に怪しんでいる男性に挟まれて、身動きがとれない。
『言わなきゃ良かった、こんなこと…。』
追い出されてしまうだろうか。自分の愚かしさに、涙が出そうになる。
「いずれか先の世に、父の名が残るのであれば、この雑事も徒労とはなるまい、か。」
男性が喉を鳴らして笑った。
「あら、そんな素敵なお話を聴けたのですか?私も聴きたかったわ。」
女性がころころと笑う。
「ねぇ、あなたの郷里のお話、もっと聴かせてくださらない?」
女性の手が、自分の手を取るのを見て、そっと男性の顔色を伺う。
「聴かせろ。」
にやりと笑う男性を少し怖いと思いながら、何を話そうかとぐるぐると悩む。
「あら、困らせてしまったかしら。」
うふふ、と笑う女性とにやにやと笑っている男性に挟まれて、目を回して気を失ってしまった。

『1000年以上前に生きてる人に、話せる話なんてあるのかな…。』
自分を囲む全てが、歴史の教科書や資料集に掲載されていた物で溢れている。
夢であれば良いのに、と願いながらそっと目を閉じた。

2/3/2024, 1:40:02 PM