アサギリ

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5/27/2023, 11:51:21 AM

【天国と地獄】


かれこれ数千年前の時代。空には鉛雲が世界を覆い、大地は怒りを顕にした。

地震が起き、大地は割れ、海は荒れ狂う。

それは、何百年。何千年と続いた。

やがて世界は落ち着きを取り戻し、月が太陽が2つ同時に現れるようになったそんな時代の話。

この世界が二つに引き裂かれた時代の話である。



安寧と自由を。
【愛】を絶対的なものとし、敬い、尊重し、尊ぶ天界の国。紫雲国(しうんこく)


秩序と規律を。
【法】を絶対的なものとし、公平さや、正義を遵守し、心情とし、日々を切磋琢磨する地上の国。国家・開闢(かいびゃく)



紫雲国と開闢に住む彼等は、言わずもがな話だが、これまで交流という交流がなかった。
それは、それぞれの国で食べ物が文化が、生活が成り立っていたからに他ない。

紫雲国の人達は言う。
「開闢の奴らは、始まりの民だからとふんぞり返っている。」
「愛を知らないなんてなんと可哀想な人達」
民達は総じて彼らをこう言う。

【開闢の奴らは、愛と自由を知らない可哀想な民だと】


逆に開闢の人達は言う。
「秩序も法律もない。狂った国だ。」
「自分達を、大した理由もなく見下してお高くとまっている。」
民達は総じて彼らをこういう。

【紫雲国の奴らは、愛などと曖昧なものを崇めたつる信者だと】


さぁ、君にとってどちらが天国で、どちらが地獄だと思う?
同じ世界に生きてるのに、違う価値観を持ち、別の所で生まれた民達。
彼らの言葉は本当か。嘘か。盲信か。戯言か。

それを知るのは神次第。

5/26/2023, 12:19:02 PM

【月に願いを】


蒼月の月。水面に映るのは恐ろしいくらい綺麗な蒼い月。今日は入学式の日だ。年に一度の特別な日。


音が紡ぐ小さな世界。

問われれば答えよ。

ここは学び舎。

自分自身をみつけ、様々な事柄を学び成長する場。



不安も、心配もあるけど、何より楽しみだと思う心が僕を前へ進ませる。

鏡は聞いた。


「本当の心をみせよ。」

「さぁ。月の鏡に導かれしものよ。」

「知慮深く、慎重で、探究心の塊。」

「其方の寮はーーーー。」


ここは願いを叶える魔法の学び舎。ここは選ばれたものしか入学が許されない隠された場所。
僕は願う。年に一度の蒼月の夜に。

「どうかーーー。僕のーーーー。ますように。」

5/25/2023, 12:12:05 PM

【いつまでも降り止まない、雨】


「ねぇ、ねぇお姉さん!ふら〜っと、どこか2人で遊びに行かないかい!」



ある雨の日。気持ちが沈んでいた時。突然目の前に現れたのは、向日葵の様な笑みをうかべた可愛らしい男の子だった。



その男の子は突然私の目の前に現れた。

ポップでカラフル。心が踊る色彩のパレード!


見てるだけで心が踊るその人は笑顔が素敵な可愛い人。
FlingPosse【刹那の仲間】なんて、寂しいグループ名なのにそれに比例した光り輝く三原色のひとり。

光り輝く渋谷の街で、一等星の彼らは私とは真逆の存在。
そんな彼らのリーダーである彼は、何の因果か私に話しかけてくれた。
人好きする満面の笑み。見た目より大人で、努力家な彼。
実は、少し前から彼の存在は知っていたのだ。…有名人だからね。それに、街でも他の人に声をかけられてるのを見たことがあったから。


そんな彼は私にいっぱいのキラキラを注いでくれた。
まるで、花に水をやるように。
まるで、夜空に輝く星々が遥か彼方に流れるように。

私は知ってる。彼は沢山の人と繋がりがあって。
私は知らない顔があって。
出会ったのも全てが偶然。交わるはずのない視線がたまたまぶつかっただけ。全てが彼の気分次第。


それでもいいんだ。私が本当に辛かった時。彼は甘い甘い素敵な雨を降り注いでくれたから。しとしとと静かに降り続ける雨。止んで欲しいと思いつつ、まだこのままでいたいと思う心。
でも、これ以上は癖になって抜け出せなくなっちゃうから。だから、私は逃げたのだ。それぞれのチームが決戦に向けて、ピリピリし始めた時を狙って。


それから数ヶ月。


今日は彼らのプライドと想いをかけた勝負の日。
私は見守ることしか出来ないけど。
戦争がなくなっても、傷跡は消えない。
彼らは戦い続ける。それは終わりの無い迷路のように。

私は画面の向こうから彼らを見守る。

「……光り輝く3つの三原色。彼らのプライドと想いにどうか女神の祝福の雨が降り注ぎますように。」

今日もまた、雨が降る。しとしとと窓を濡らし、世界を閉じ込める雨。
彼らに降り注ぐのは勝利の女神の祝福か。

ーーそれともーー。

5/24/2023, 12:46:28 PM

【あの頃の不安だった私へ】


「行ってきます!」

その言葉が最後だったと母は言う。
その日。空は晴れ渡っていて、眩しいくらいに輝く太陽が真っ黒なアスファルトを熱していた。
外に出た瞬間から、茹だるような暑さでその年は、近年稀に見る猛暑日だったのだそうだ。

私の家は4人家族。

朗らかで、料理上手な母。

子煩悩で、でも仕事熱心な少し暑苦しい父。

私の双子の兄。ヨスガ。兄は活発で運動では賞なんかも取れちゃう才色兼備。文武両道な兄。

そして、私。ユイ。運動が苦手で人間関係も不得意。唯一の趣味は読書の、所詮陰キャと呼ばれる種族の1人だ。



小さい頃、母に聞いたことがある。それはなんて事ない宿題からだった。

【自分の名前の由来を聞こう】

ある日先生に出された宿題。周りの皆はワクワクしてる人もいれば、私のように頭にクエスチョンマークを浮べる人もいた。
だってそんなの知ってどうする。
頭のいい兄なら先生の言葉の意味が分かるかもだけど、正直私にはちんぷんかんぷん。

その日の夕方。私の兄は母に由来ってものを聞いたのだ。

「「私達の名前の由来って何??」」

母は本を読み聞かせるように、穏やかに教えてくれた。
兄の名前の漢字は【縁】えにしともいう。
私の名前の漢字は【結】むすぶともいう。

2人合わせて【縁を結ぶ】
何があっても、ふたりが一緒ならだいじょうぶ。
私と兄は顔を見合せた。ポカーンとしてる私の顔と何か決意したみたいな兄の顔。
そんな私達を見ながら母は今が一等幸せだというように微笑んだ。

きっとこれが私の一番幸せな記憶。

きっとこれが私の最後の思い出。




そう語るのは、小さい時の私だった。
カーテンがゆらゆら揺れる教室で。
日差しがゆっくり差し込む後ろの席で。
私は眩しいものを見るかのように微笑んでいた。


……これは夢?夏のブレザーを着た私の姿に、私は驚いた。
だって私はまだ中学生だ。制服なんてセーラー服だし、こんなのは可笑しい。
だって私は、中学に入ってすぐ、クラスに馴染めなくて、虐められて。学校に行けなくなったのだから。
言われのない罵詈雑言。
心無い言葉が私を傷付けた。兄と比べられ。卑下され続けた。母の笑顔はなくなっていき、父は丁度転勤で、1人で単身赴任へと向かった。
私は毎日、部屋に引きこもり、生きる事。人と向き合う事。全てを否定し拒絶していた。


…それに私は。…私はあの時。
あの夏。あの茹だるような憎たらしい夏の日に、兄に連れられ図書館に行って………。
行って……。それから。……それから。


……あ。…あぁっ。あぁアアア゛ア゛ア゛ア゛ア!!!!!!!!


私は膝から崩れ落ちた。そうだ。思い出したのだ。私達双子は迫ってきたトラックに跳ねられた。

目の前をまう真っ赤な血飛沫。
鮮明に広がる白と黒の道路。
耳鳴りがするくらい五月蝿い車のクラッシュ音。

思い...出した。
全て思い出した。真っ黒な部屋の中。死にそうになってた私を元気付けるために、大好きな兄は私を外に連れていってくれたのだ。
【大丈夫だ】【二人一緒ならなんとかなる】【俺が守ってあげるからな】
……そんな言葉を言ってくれた大切な兄。


「兄さんは何処だ?!生きてるよね!!ねぇ!!!お兄ちゃんは無事なんだよね!!!なんとか言ってよ!!!」

私は私に向かって叫ぶ。兄は何処だ。兄は無事なのか。兄は。兄は…!!!
そんな私を、私の姿をした何かは楽しげに見つめてる。

「なにが、楽しいの?!ねぇ!偽物!!私の偽物は何か知ってるんでしょ!!!ねぇ!お兄ちゃんは生きてるの!!!お兄ちゃんに会わせてよ!!!!!」

ゼィゼィ。ハァハァ。
私は生きが切れるまで喚き散らした。
それでも私の偽物は、笑ったまま。

それから数分。数十分。時は進み、静まり返る。
その中で偽物は問いかけていた。

「……ねぇ。本当に忘れちゃった?本当に?」

「…何が言いたいの」

「……あなたは誰で私が誰か。本当に忘れちゃったの?」

なんだ。なんなのだ。コイツは。嬉しそうにニヤニヤして。……ニヤニヤ?それはアイツが…妹がイタズラが成功した時にしてた笑い方で…。
…なんでコイツが妹みたいに…ユイみたいに笑うんだよ…!!なんで、私がユイでしょ?!…あれ??


(俺)
【私って誰だっけ?】


その瞬間。目を開けられないほどの突風が吹き、視界はごちゃ混ぜになり、私の世界は真っ暗闇に落ちていった。そして最後に見た偽物だと思ってたアイツは、最後まで楽しそうに笑ってた。

「…っ。……が。……だい………ねぇ!」

なに。

「…すが。………ってば。」

五月蝿いな。

「ヨスガ!!!!!」

っは。俺はパチクリと目を覚ました。
目の前には見覚えの無い天井と涙目の母親。
どこか萎れてる父親とどこかに繋がれてる点滴。


………俺は全てを思い出した。
俺達双子は、中学最後の夏。二人で図書館に出掛けだ。
そこへ向かう途中に、俺と妹は事故に会い妹の方だけ死んでしまった。
俺はそれがショックとなり、錯乱し、2週間部屋に引きこもり荒れてたらしい。飲まず、食わずで心配した母親と父親が何とかして部屋から引きずり出すと、そこにはユイと名乗るようになった俺がいたのだと言う。

俺は自分をユイ。見えない空間を見ては兄であるヨスガが存在するみたいに、振舞っていたらしい。
母親は心労が溜まり笑顔が消え、父親はタイミング悪く単身赴任中。
家庭内は冷めきっていた。

それから数年。社会人として働くようになった俺はまたしても事故にあったのだと言う。

そして気を失い。今に至る……。



「…あぁ!良かった!!!貴方も失ったら私はもう生きていけないわ…!!」
感極まって俺に抱きつきなく母親。

「お前も失わなくて良かった。ありがとうユイ。ヨスガを助けてくれて……ありがとう。」
もう亡くなってしまった妹ユイに感謝する父親。

俺は……。俺はずっと……。

「……ユイ。笑ってたよ。」

「「?!」」

「俺、会ったんだ。ユイに。アイツニヤニヤして笑ってた。……昔、悪戯が…ッ、成功した時に良くッ……してた笑い方で……。笑ってたよ。母さん。父さん。」

俺は2人を見つめながらユイと会ったことを話した。

「…元気そうだったよ。笑ってた。…昔みたいに……あの頃のように…。」

「……そう。ユイ。笑えるようになってたのね。」
母親は嬉しそうな涙を流しながら言う。

「…良かった。ヨスガもユイも母さんも……。これで皆幸せだな!」
母さんの肩を抱き締めながら、俺の頭を撫でる父親。


ユイ。……ユイ。ありがとう。俺を助けてくれて。…あの時。すぐに助けてやれなくてごめんな。さっきユイを「偽物」とかいって本当にごめん。
【愛してる】
俺の大切な片割れ。俺の大切な妹。
俺。夢を見つけたよ。叶うか分からないけど…。
いっぱい待たせるかもしれないけど、沢山土産話出来るように、精一杯生きるから。
だから、もう少しだけそっちで待っててくれ。


「まってるよ。ありがとう、お兄ちゃん。大好き」


窓の隙間から涼しい風が流れてきた。
カーテンはふわりと揺れ、心做しか踊って見える。一瞬だけだけど。そこには愛おしくて。
大切な片割れがいた気がしたのだった。

「…ヨスガ?あなた本当に、大丈夫?」

「ハッ。………。俺…今。」

俺は母親と父親の方を振り返った。そこにはまだ心配そうに、俺を見るふたりがいて。

「大丈夫だよ。母さん。父さん。」

今の俺に出来る精一杯の笑みを浮かべる。
大丈夫だ。大丈夫なんだよ。あの頃。片割れを無くして、どうしようも無く不安だった俺はもういない。…俺は、前を向いて歩いていくと決めたから。


「俺はもう、だいじょうぶだよ。」

5/23/2023, 11:04:17 AM

【逃れなれない呪縛】



「酷い顔だ」

目を覚まして、鏡を見るたび思う。私は醜い。

昔はそうじゃなかった。可愛いものに囲まれて。可愛いものが好きで。愛おしくて。
大好きで。本当に好きで、好きでたまらなくて。いつか私もそんな大好きなものになりたくてしょうがなかった。

私は大好きな言葉がある


What Are Little Boys Made Of?
(男の子って何で出来てる?) What are little boys made of?
(男の子って、何でできてるの?) What are little boys made of?
(男の子って、何でできてるの?) Frogs and snails
(カエルとカタツムリ) And puppy-dogs' tails,
(それと、小イヌのしっぽ) That's what little boys made of.
(そういうものでできてるよ)
What are little girls made of?
(女の子って、何でできてるの?) What are little girls made of?
(女の子って、何でできてるの?) Sugar and spice
(砂糖とスパイス) And all that's nice,
(それと、素敵な何か) That's what little girls are made of.
(そういうものでできてるよ)


昔読んでもらった詩集。
お砂糖とスパイス。それと素敵な何かで出来てる女の子。私にはキラキラ輝く宝石のように素敵に思えた。いつか、そうなりたいと思って。



でも現実は上手くいかない。



いつも通り学校へ行くと靴箱になにか入っていた。
差出人は…知らない名前。別のクラスの知らない人。
こうゆう事は、たまにある。毎日、知らない人に話しかけられ、沢山の話をする毎日。
その中で奇妙な視線を送ってくるタイプは大概何かしらの行為があるんだと思う。
嬉しくない訳では無いけど、素直に喜べない私がいるのは確かだ。……だって、そうゆう子が見てるのは私じゃないから。

放課後。指定された教室に向かう。そこには可愛らしい女の子がいた。
サラサラのストレート。
ぷっくりしてる唇に。
キラキラ輝く瞳。

どれをとっても私には無いものだ。……あぁ、羨ましい。私は醜いカエルだ。かたつむりだ。

「悪い。またせたな。」

私の言葉に女の子は顔を赤らめながら首を左右にふる。

「わ、私の方こそ突然、よ、呼び出してごめんね!」

顔を真っ赤にさせて、指を組んだり緩めたりしてる。きっと緊張してるんだろう。
可哀想に。答えなんて決まってるのに。

「私ね、あの………」

モジモジしながら、言葉を含んだり、閉まったり。こんな可愛い子が私の為なんかに、一生懸命になってくれてる。
…あぁ。なんで私なんだ。なんで私はここにいるんだ。
私の立場が逆だったら。私が私でなかったらどれほど良かったか。

「𓏸𓏸の事が好き。……好きなの!どうか私と付き合ってください!!」

勢い良く下げられた頭と差し出される右手。
女の子はふるふる震えてて、顔は見えないが、耳が赤くなってた。


体感にしてどれ程経っただろう。1時間?2時間??
いやきっとそれ以上かもしれない。
実際は5分と立たない短い時間なのに、時間の感覚とは恐ろしいものだ。

「悪い。俺、今勉強が忙しくて彼女欲しくねぇんだ。折角勇気出してくれたのに悪い。……でも」

なんで。私なんだ。なんで犬のしっぽなんてついた私なんだ。……私は。……俺は。

「…でも、嬉しかった。ありがとな。」


出来るだけ、傷付けないように。
こんな出来損ないの俺を、直ぐにでも忘れられる様に。
心がお砂糖とスパイスで出来てても、体にはしっぽがあり、カエルでかたつむりな俺。
こんなどうしようもない、苦しい現実。変えることなんて出来やしない。…だから俺は言うんだ。



(私)
こんな俺を好きになってくれて。ありがとう

(俺)(女) (世界)
私は男として生まれてきてしまったこの人生が
大っ嫌いだ




その頬には一筋の涙が零れた。

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