アサギリ

Open App

【逃れなれない呪縛】



「酷い顔だ」

目を覚まして、鏡を見るたび思う。私は醜い。

昔はそうじゃなかった。可愛いものに囲まれて。可愛いものが好きで。愛おしくて。
大好きで。本当に好きで、好きでたまらなくて。いつか私もそんな大好きなものになりたくてしょうがなかった。

私は大好きな言葉がある


What Are Little Boys Made Of?
(男の子って何で出来てる?) What are little boys made of?
(男の子って、何でできてるの?) What are little boys made of?
(男の子って、何でできてるの?) Frogs and snails
(カエルとカタツムリ) And puppy-dogs' tails,
(それと、小イヌのしっぽ) That's what little boys made of.
(そういうものでできてるよ)
What are little girls made of?
(女の子って、何でできてるの?) What are little girls made of?
(女の子って、何でできてるの?) Sugar and spice
(砂糖とスパイス) And all that's nice,
(それと、素敵な何か) That's what little girls are made of.
(そういうものでできてるよ)


昔読んでもらった詩集。
お砂糖とスパイス。それと素敵な何かで出来てる女の子。私にはキラキラ輝く宝石のように素敵に思えた。いつか、そうなりたいと思って。



でも現実は上手くいかない。



いつも通り学校へ行くと靴箱になにか入っていた。
差出人は…知らない名前。別のクラスの知らない人。
こうゆう事は、たまにある。毎日、知らない人に話しかけられ、沢山の話をする毎日。
その中で奇妙な視線を送ってくるタイプは大概何かしらの行為があるんだと思う。
嬉しくない訳では無いけど、素直に喜べない私がいるのは確かだ。……だって、そうゆう子が見てるのは私じゃないから。

放課後。指定された教室に向かう。そこには可愛らしい女の子がいた。
サラサラのストレート。
ぷっくりしてる唇に。
キラキラ輝く瞳。

どれをとっても私には無いものだ。……あぁ、羨ましい。私は醜いカエルだ。かたつむりだ。

「悪い。またせたな。」

私の言葉に女の子は顔を赤らめながら首を左右にふる。

「わ、私の方こそ突然、よ、呼び出してごめんね!」

顔を真っ赤にさせて、指を組んだり緩めたりしてる。きっと緊張してるんだろう。
可哀想に。答えなんて決まってるのに。

「私ね、あの………」

モジモジしながら、言葉を含んだり、閉まったり。こんな可愛い子が私の為なんかに、一生懸命になってくれてる。
…あぁ。なんで私なんだ。なんで私はここにいるんだ。
私の立場が逆だったら。私が私でなかったらどれほど良かったか。

「𓏸𓏸の事が好き。……好きなの!どうか私と付き合ってください!!」

勢い良く下げられた頭と差し出される右手。
女の子はふるふる震えてて、顔は見えないが、耳が赤くなってた。


体感にしてどれ程経っただろう。1時間?2時間??
いやきっとそれ以上かもしれない。
実際は5分と立たない短い時間なのに、時間の感覚とは恐ろしいものだ。

「悪い。俺、今勉強が忙しくて彼女欲しくねぇんだ。折角勇気出してくれたのに悪い。……でも」

なんで。私なんだ。なんで犬のしっぽなんてついた私なんだ。……私は。……俺は。

「…でも、嬉しかった。ありがとな。」


出来るだけ、傷付けないように。
こんな出来損ないの俺を、直ぐにでも忘れられる様に。
心がお砂糖とスパイスで出来てても、体にはしっぽがあり、カエルでかたつむりな俺。
こんなどうしようもない、苦しい現実。変えることなんて出来やしない。…だから俺は言うんだ。



(私)
こんな俺を好きになってくれて。ありがとう

(俺)(女) (世界)
私は男として生まれてきてしまったこの人生が
大っ嫌いだ




その頬には一筋の涙が零れた。

5/23/2023, 11:04:17 AM