たとえばのはなし、誰とも話さない日があったとして、確かな焦りを握って夜から逃げようとして
沈む夕日の気持ちになってみれば、我々は残酷かもしれないよね
逆光がカメラを射抜いて、あなたの輪郭がぼやけた写真
それから下手くそな波の写真とおかしな色彩の花達
寂寥を抱いたどこかの路地裏やアパートの風景
己の写真は一枚もないカメラロールをなぞる
もう既読がつかないトーク画面には、あなたの言葉
小説を読まないあなたの小説
夕焼けを見過ごしておきながらなんの罪悪も持たず純真無垢にカメラを向けた夜の街と月
たとえばのはなし、誰かと話した日があったとして、確かな喜びを握って朝を待っていて
沈む夕日の気持ちになってみれば、我々は残酷かもしれないよね
いやぁどうも都会は光が多くて、星なんて見えなくてね。君、こんな星空の下に生まれ育ったのかい。いいなぁ。
君は田舎だと卑下していたけれど、ここが故郷だなんて羨ましい。すごく美しい場所だ。
僕の生まれた街はここよりもっとゴタゴタしているし、治安も悪いし……君は僕を羨ましがるけど、実際そんなに良いところじゃないんだよ。
都会の鼠、田舎の鼠……それぞれにそれぞれの良さがある。比べちゃいけないね。それに今はこうやって、君は都会に、僕は田舎に行ける。素晴らしい時代だ。
しかし星なんてゆっくり見るのは何年ぶりだろう……。
僕もね、小さい頃は両親と天体観測をした。あの頃の父は天文学者だったから、よく星の話をされたさ。申し訳無いけど今ではほとんど覚えてないよ。
あの星のどこかにさ、僕達みたいに生命がいて、地球を見て「あの青い星はなんだろう」って思ってる。僕はそう考えるのが好きだよ。別の星では、この星はなんて呼ばれているんだろうね。
別に今の仕事にやりがいを感じていないわけじゃない、というのを念頭に聞いて欲しいんだけど。
僕は小さい頃は宇宙に行きたかったんだよ。父は飽くまでも地球から宇宙を見てた。でも僕は宇宙から宇宙を見てみたかった。単純に興味があった。神秘的なことが好きな年頃だったんだよ。
小学5年生ぐらいかな、授業参観で将来の夢の発表があってね、学活の時間とかで原稿を書いてた。色々あったよ、消防士とか警察官とか、弁護士に教師、それから……レーサーとかも居たかな。
宇宙に行くなんて突飛なことを言うのは僕だけでね、ほら、宇宙って手が届かないでしょう?今は行けるなんて思わないけれど、あの頃は本気で行きたかったんだ。
大人になるってのは、無理なことを無理だと諦められるようになることなのかもしれない。担任の先生に見せたら、「そんなのできるわけない」って笑われたんだ。そりゃそうだよね。で、クラスのみんなも同調して笑ってさ。僕はそのときから夢なんて持たなくなった。別にその先もやりたいことなんて特に見つからなかったしね。
結局将来の夢は何を書いたのか?なんだっけ。忘れた。多分学校の先生とかじゃないかな。
なんかさぁ、君を初めて見たとき、目がすごくキラキラしてるなって思ったんだ。なんていうか……いい意味で、子供っぽいなって。それは決して仕事を舐めているとかじゃなくて、真剣に人間に向き合っている証だった。
僕の人生は思うようにいかないことの連続だった。本当は心のどこかで今も、雲の向こうまで行きたいと思ってるかもしれない。自分でもわからないよ、目指す気力ももう無いから。
僕の人生を語りだすと星が見えなくなるよ。それに面白い話でもない。僕は夢を持って生きて仕事をしているわけじゃないからね。君とは違うんだよ。
僕は……自分が死んだあと、どうやって処理されるのかなって、それが気になったから特殊清掃の仕事を始めた。給料も良かったし、所謂グロいものへの耐性もあった。普通の会社勤めはできないし、消去法でもあった。
片付けが終わったあとに手をあわせるのは、今まで辛かったよねって労いでもあるし、勝手に同情してごめんなさいって意味でもある。他にもたくさんの想いを込めているつもりだよ。きっと地獄みたいな人生を生きてきたひともたくさん居るし、今だって誰かがどこかでひとりで死んでる。引き留めるひともものも思い出も無く、孤独に首を吊るんだ。
空を見たら世界ってなんて素敵で、綺麗なんだろうと思うよね。でも陸を歩いて、なにかの穴を覗いたとき、そこは必ずしも素敵ではない。僕は目を逸らさない決意をした……と言ったら自信過剰だね。
僕はね、傷付いたひとほど美しいと思う。痛みを知っている人間は強い。誰かに同じ痛みを望まない人は偉いよ。傷は決して弱みではないんだよ。傷付かないことだけが強さではないんだよ。
こちらは前々作、前作と繋がる三部作です。
終始暗い内容が続きますので、ご注意ください。
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世界に1つだけのものは大切にしないといけないと思う。
俺が幼稚園児の頃描いた絵とか手紙とか、恥ずかしいから捨ててって言ってもいつまでもとっておいてる親とか見てると余計そう思う。
まぁ最悪絵は今でも描けるし、正直無くなっても誰も困らないし、取り返しのつかないものではない。
なんていうか、そういうのって命と比べたら圧倒的に無価値で薄っぺらいと思う。
俺は嫌がらせをされるのは普通に嫌だし怒るけど、誰も死ななければそれでいいと思っていた。座右の銘なんて“死ぬこと以外はかすり傷”だし、部活やらなんやらで色々骨折したり熱中症になったりとか色々あったけど別にそんなのどうでもよかった。生きてさえいれば良いと思っていた。生や死に何か意義があるとか考えたことなかった。
爺ちゃんとか婆ちゃんとかはもう寿命で亡くなったし、俺も葬式に参列したりして、色々俺の中でも思い出とかがあって、悲しいとかも思った。でもしょうがないって割り切った。死んだ人間は戻らないし、そもそも寿命はしょうがないし、悔いとかはなかった。今までありがとうって言ってお墓に花束を供えて手を合わせて、ちょっとすれば俺はいつも通りバカなことで友達と笑い合ってた。俺だって年食ったらいつか死ぬんだし、考えてもしょうがない。
昨日の10時のことが蘇る。
駅の改札で待ち合わせの約束だった。俺は気合い入れて15分前から待ってた。前日は9時には寝てたし、いつもしない癖に無駄に髪とか綺麗にしたし、姉にデートかってしつこく聞かれるぐらいには服も頑張って選んだ。俺が友達だって言うといつも自信なさそうにするから、どうにかして友達だと思ってもらいたかった。
それなのに何分待ってもあいつは来なかった。LINEとか電話とかしまくったけど一向に反応が無かった。いつも既読は速いほうだから、まさか今日に限ってってことはないと思ったし、寝てるんだとしたら起こしてやろうと躍起になって、俺は根気強く電話しまくった。
30分ぐらい経っても繋がらなくて、しょうがないから駅前のドーナツ屋のイートインで時間を潰すことにして、あいつが焦ってLINEしてくるのを待っていた。
11時をすぎて、俺はもしかしたら騙されたんじゃないかと思った。まさかあいつは本当はめちゃくちゃ腹黒で、俺がまだかまだかと待っているのを楽しんでいるのか。なんかもう、そういうことにしようと思った。せっかくこんな気合い入れたのにすぐ帰ってきたら姉に笑われると思ったから、期間限定を追加でまた頼んだ。
ドーナツ屋を出て、古着でも見ようかと歩き出そうとした瞬間、軽快な着信音が鳴った。あいつからだった。やっぱり寝てたのかな、ちょっと怒ってやろうとか思って電話に出たら、酷く焦った女性の声だった。多分母親だ。
変な気分だった。聞きたくなかったけど、手が動かなかった。声も涙も出なかった。ただただ、向こうで女の人が拙く話すのを聞いていた。
電話が切れたことに気付けなくて路上で長らく放心状態だった俺を心配したらしい。ドーナツ屋の店員が店の外に出てきて声をかけてきた。ここで泣きつきでもしたらなんか変わってたかもしれないけど、俺は大丈夫ですと繰り返した。うまく笑えていたかは知らない。
そのあと色々あって、あいつの父親と会った。母親はもう塞ぎ込んでしまったようで、表に出てこなかった。それでも、父親のほうもだいぶ参っているようだった。無理につくったであろう笑みで注いだ茶がコップのふちから溢れ出していくので、俺は流石に休んでくれと頼んだ。もう疲れてるんだ。俺だって疲れてるけど、きっと親の立ち場になったらもっと疲れるだろうな。なんでこんな気持ちにならないといけないんだろう。俺が悪いんだろうか。いや、きっとそうだ。俺が悪い。俺のことが嫌いだったんだ。悪かったな、余計なお世話ばかりして。本当に、本当に、俺のせいなら、俺のこと殺してくれればよかったのに。
帰る間際に父親に引き留められた。あいつが俺に書いた手紙らしい。読まなくても良いから持っていてくれと言われて、断る気力もなかったし受け取った。
手紙は好きじゃなかった。手書きの文字とかは響かない。きちんと面と向かって声で伝えてくれなければ、何も伝えていないのと同じだと思う。それでも読まないわけにはいかないから、俺は自分の部屋でそれを開封した。したって言ってもただ真っ白な紙3枚を、中身が見えないように2つ折りしただけだったけれど。
綺麗な字だった。いつもプリントに書いてる名前は丁寧だけど、これは崩れていた。それでも綺麗だった。
5行ほど読んで、3行また読み直すみたいな読み方をして、何十分もかけてそれを読んだ。こんなに読み終わりたくない文章は初めてだった。
たかだか何週間か話したぐらいの奴にこんなに感情を乱されるなんて笑ってしまう。俺は人生をこんな風に終わりたくなかった。でもここでやらなければ一生後悔する。
死ぬこと以外はかすり傷。でも俺は、かすり傷では自分を許せなかった。
本当に再会できるかは分からないけど、せめてあいつの誕生日が来る前には会いたい。年をとらない俺達なら、きっと誕生日を特別な日にできる気がする。
最近、隣の席の奴とよく話すようになった。まぁはたから見たら俺が一方的に喋りかけてるだけなんだけど。でも喋れば喋るほど笑うようになったし、だんだん声も聞き取りやすくなってって、なんか今流行ってるアイドルの育成ゲーみたいな感覚で面白かったからよく喋りかけた。俺ほどじゃないけど顔整ってるし、声もよく聞いたらラジオとか向いてそうなぐらい聞き心地良かった。とにかく俺はそいつと友達になろうとどうにか立ち回っていた。
猫が好きだと言っていたから、ショッピングモールのゲーセンの近くに最近できたガチャコーナーで猫のキーホルダーを手に入れた。ショッピングモールは普段姉の荷物持ちで行かされるぐらいだから、自由に見て回れるのは友達と行く時ぐらいだった。誰から切り出したか忘れたけど、ゲーセンに行こうという話になって、それなりに散財しかけてからのガチャコーナーだった。
ガチャガチャってのはそれなりに高くて、それは一回400円だった。俺の分も欲しいなと思ったから800円が財布から消えた。カプセルを開けてみたら、1回目は灰色で、2回目は赤色だった。よく見たらそんなに可愛くなかった。一緒にいた奴らから散々言われたけど、俺は可愛いとひたすら主張した。そうじゃないとこの猫もあいつも可哀想だ。
翌日学校にその猫2匹を連れて行った。俺は毎朝隣の席のそいつに挨拶するのが日課だった。そいつは絶対俺よりはやく学校に来てた。今日もそうだった。
ちょっと悩んだけど、灰色の方を渡した。困惑したような目をしてたから色々説明すると、そいつは笑顔になって「ありがとう」って言った。でもすぐに照れたのか机に顔を伏せて、それから昼まで何も喋ってくれなかった。
帰る前も、俺はいつも声をかけた。
「大切にしてよ、それ。俺だと思って」
赤猫を揺らしながら、俺は冗談半分に言った。
「大切にする、絶対」
また気まずくなったのか、あいつは早足で教室を出て行った。俺は急かす友達の声を無視して、赤猫を見つめた。
最低400円でまた手に入るような小さな無機質な猫。あいつの大切なものになるにしては安っぽすぎる。
誕生日とかにはもっと良いのをあげたい。もっとあいつが喜ぶようなことがしたい。何が欲しいかよく知らないから、一度ショッピングモールに誘ってみようか。