『とりとめのない話』
「今日ねー、会社の人に怒られたんだ〜」
「そうなんですね。」
「それでね、今からもしないとやばいんだ〜」
「それは大変ですね。」
「でもね、私頑張るよー。
来世の私たちのためにね!
…………あはは、なんちゃって。」
「残り残量は5%です。
充電をしてください。」
「私たちの子どもの名前どうしよっかぁ。
サエとか?あ、男の子だったらどうしよう。」
「残り残量は5%です。
充電をしてください。」
「ねー、そんな冷たいこと言わないでよ〜
あ、そういえば朝作っていったご飯食べた?
……って、もう冷めてるじゃん……。」
「残り残量は3%です。
充電をしてください。」
「もう、なんで食べてくれないの?
ほんとに、死んじゃうよ?」
「充電をしてください。残り残量わずか3%です。」
「はぁ…………。
なんでだろう。
あ、そうだ、前見た映画怖かったね〜
だからね、今回は感動系借りてきた!見よ!」
「シャットダウンを開始します。」
「……あれ、寝ちゃった?
もー、しょうがないんだから。
…………おやすみ。
……さーて、仕事しちゃいますかァ……。」
『風邪』
暗い部屋の中咳き込む人が1人。
父親は単身赴任。母親は直ぐにこちらには来れなく、兄妹たちは自分のことでいっぱいだ。
“苦しい”
彼は誰にも看病して貰えず、ただただ咳をする。
何とか熱を冷まし、咳止めを飲みフラフラになりながら買いに行った食料たちも、もう時期底を突く。
体の中に入ったウイルスと免疫が戦っている。
彼は、たとえ薬などを飲んで対抗したとしても、ただそれらを傍観することしかできない。
彼は朦朧としながら少しシミが入った天井を見る。
視界がぼやけ、ハッキリと見ることが出来なかったが、そこには亡き祖母の姿があるような気がした。
彼はその人を見た途端急な眠気に襲われた。
そして、次に目が覚めた時は病院の中だった。
どうやら、いつも届けてくれる配達員の人が彼のポストの中に少し前に入れてたのがそのままになっていて、何か嫌な予感がし、大家に電話をかけたそうだ。
大家は彼のことが心配になり様子を見に行くと、ものすごい高熱でうなされている彼の姿があり、救急搬送、即入院となったようだ。
彼はその人たちに感謝した。
そして、同時に自分が生きていることを実感した。
祖母の墓に手を合わせてる時、ふと思い出した出来事だった。
何となく、祖母は微笑んでいる気がした。
『雪を待つ』
白い羽毛によって隠されていた新芽は芽を吹き、
今か今かと眠っていた動物たちは目が覚める。
桃色の花びらが降り注ぎそれはやがて陽の光を浴び青々と風と共に囁く。
そうしてやがてそれらは紅葉に染まり、動物たちは次の眠る準備に入る。
再び白い羽毛が降ってき、私たちを白の世界へと閉じ込める。
私は待っている。
もう春になることがない、永遠に冷たいままのあの人のことを。
私は何度も春を迎え、来る年も幾度なく吐息を漏らす。
誰でもいい。
あの人の氷った体を溶かしておくれ。
もう二度と眠らないように、凍らぬように。
そして、あの人にも春を。
持つ(まつ):
1. 人・事・順番が来るのを望み、頼みとして、時を過ごす。
2. 用意して備える。
(Wikipediaより)
『イルミネーション』
「綺麗だね〜」
「そうだね。」
「あ、あれ学生さんたちかな?
……ふふ、初々しくて可愛いね〜」
「ほんとだ。
…………ほんとに、綺麗。」
私たちは仕事帰り、駅前のイルミネーションを見ていた。
今年はいつもより少し早くライトアップされたと言うのに、イルミネーションを見に来ている人は意外と多かった。
にしても、この辺りで1番のイルミネーションと言われるだけあり、迫力がある。
徹夜続きで私たちは目の下には隈があり、髪の毛もボサボサ、肌も少し荒れてしまい、私たちはくすんでいた。
目の前に広がる人工の光とは正反対だった。
けれども、その人工の光に圧倒され、私はボーっと眺めていた。
「ふふ、レイちゃん、ほんと綺麗なもの好きだよね。」
「そう?」
まぁ、嫌いではない。
というか、好きだ。
私は図星を突かれ、そんなにわかりやすかったか。
と、少し焦った。
「うん。
…………そういえば、去年、私ここでフられたんだァ。」
「……前の彼氏さん?」
「うん。
頑張ってたのに。」
彼女は下を向いてしまった。
せっかく目の前には壮大なイルミネーション。
上を見たらポツポツと光っている綺麗な小さな星たち。
私は勿体ないと思い、彼女の手を握り、言った。
「今はひとりじゃないよ?
私がいる。」
「……!うん!そうだよね!」
彼女はパッと花が咲くように笑顔になった。
「よーし、明日も頑張るぞ!」
「そうだね。
ねぇ、よかったら今日泊まってく?」
「え、いいの?
なら帰りに焼肉買おー!あと、お酒!」
「ふふ、飲みすぎないでよ?
ミナ、直ぐにつぶれるんだから。」
「1杯だけだって〜」
私たちはお互いの顔を見合い、笑った。
その日のイルミネーションは今まで見た中で1番輝いて見えた。
けれども、私達も負けていない。
私たちは私たちなりに光っている。
私たちはお互いの冷たい手を温め合いながら近所のスーパーへ向かった。
※同性愛などの表現を含みます。
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『愛を注いで』
僕は人を弄ぶのが大好きだ。
その人に気があるように接し、相手も僕に気になり始めたらその途端関わるのを辞める。
その時のその人たちの表情が実に面白い。
そして僕は顔だけは良く、僕の周りにはたくさんの人がいた。
本気で僕が中心で地球が回ってると思っていた。
あの日までは。
僕は嵌められた。
とある人に、全く同じことをされた。
どうやらその人の妹が僕にゾッコンだったらしいが、僕に裏切られ、家に籠るようになり、男性不信になってしまったそうだ。
それを許さなかった兄は、僕に復讐をした。
「お前がしていたことと全く同じことをされてどんな気持ちだ?なぁ、お前、本当に楽しかったのか?」
その男が僕のことに好意を持っていないことは1目見て分かる。
けれども、僕は彼なしでは生きていけない。
他の人から好意を持たれてもこの人から貰わないと意味が無い。
どれだけ他人から愛を注がれてもそれは零れてゆく。
この人が嫌がっている姿、僕を睨むその顔、何もかもが愛おしい。
僕は、ちょっとした変化が欲しかっただけなのに。
こんなことになるなんて思っていなかった。