Largo giocoso

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12/12/2022, 2:34:47 PM

『心と心』


感情が無いニンゲンと感情がある人工知能


私には“心”がない。

私が目覚めた時には私の知らない誰かが組んだプログラムが存在した。行動パターンや、表情は変わらない。

私はニンゲンではないので、別にしんどくはない。
けれども、私には少し欠陥部分があり、“感情”があった。

その事がバレたら私は処分される。
だから、私は自分の意思では無い誰かの意思で組まれたプログラム通りに動き、笑う。

けれども、悲しくないのに悲しいフリをさせられ、楽しくないのに笑わさられる。

虚しくて、けれども何も出来ない自分に悔しくなる。

あぁ、なんで私はこんな姿で生まれてきたのだろう。
もっと違うければ、もっと、自分を表現できたのに。



僕には『心』がない。
嬉しい、楽しい、悲しい、寂しい。
虚しい、怒り、欲望もなければ僕の生きている意味が分からない。

けれども、ニンゲンとして生まれていてしまった以上、ハズレを引いてしまった以上、僕は嫌でも死ぬまでまで生きていかなくちゃいけない。

僕には自殺したい。という気持ちすらない。
なので、誰かに殺されるか、自然に身を委ねるかしかない。

そんな自分に普通なら嫌気がさすだろう。

けれども、僕には『心』がないのでそれすらも分からなかった。


あぁ、僕は本当に、なんのために生まれてきたのだろう。
いっその事、植物やロボット、感情を表に出さなくても生きていける物体に生まれたかった。

12/11/2022, 1:34:19 PM

『何でもないフリ』


私は嘘をつくのが苦手だ。

嘘をついたり、空気を読んだりしても、顔に全て出てしまう。

そのせいで色んな人から嫌味を言われたり、陰口を言われたりする。

けれども、自分が悪いから、私は何でもないフリをした。

最初の頃は自分を見てくれなくて寂しかった。

けれども、自分を見てくれる人は居ない。と割り切り、甘く考えるのをやめるとものすごく楽になった。


そして、そのうち、私は何も考えないようになった。

何をするにも、何がしたいのか、何が好きなのか、何が嫌いなのか分からなくなった。


そのうち、それが嫌だと感じなくなり嘘をつく事ができる。というか、その事が嘘だと感じなくなった。

本当に、これは“楽”なの?


「私、この人むっちゃ好きやねん!
歌声が通ってて綺麗で……いつか、こうなりたいなぁ。もうまじで聴いて欲しい!!」

「あはは〜覚えてたら〜」

「絶対聴かへんやつやん。
聴いてや??」

「わ、わかったって、今日帰りの電車で聴くわ。」

すきま風のように入ってきたその声、会話はとても澄んでて未来に溢れていた。

そして、その帰り道私はその人が言っていた人を調べ、聴いた。

本当に、すごかった。

小刻みに鳴るドラム。
それに乗っかるように揺れ動くメロディー。

そして、その中心には太陽のような、そんなあたたかく、でも力強いものがあった。


その日から、私は何かが変わった。

それが何かは分からないが、

私は「なんでもない。」と言うのを辞めた。

相手に伝わらなかったら、言い方を変えたりして何度も伝えた。

そしたら、相手も真剣に見つめてくれた。

嫌味や陰口を言う人もいる。

けれども、私のことをしっかりと見つめてくれる人もいる。
ただ、自分から動かないと。自分も相手のことを見つめないと応えてくれないだけで、ちゃんといる。



“何でもない“と、“見ない”ことが、

“何でもないフリ”だと、やっと気づいた。


12/10/2022, 11:07:01 AM

『仲間』

私は“仲間”という言葉が嫌いだ。

私と仲間になった者は何度も死に、何度も生き返る。
それを『終わり』まで。私が『ゲームオーバー』するまで永遠と続ける。


それでも、何も知らない彼ら、彼女たちは何度も私を庇う。助ける。けれども死ぬ。

私はこの抜け出せないループからどうやったら解放されるのだろう。

私はいつの間にかものすごく強くなっていた。
そのおかげで彼女、彼らは死ななくなった。

ようやく、私は安堵した。


けれども、それもつかの間だった。


“支配者”はこの世界をリセットをした。
私のデータを引き継いで。


私はものすごく弱くなった。


そして、また、私は無理やり“仲間”を作らせられるようになった。

仮面が張り付いたような笑顔で人を助け、たった1人の仲間も助けれずに私は棺桶を引きずりながら荒野を歩いていき、無表情でモンスターを狩り、顔の見た事のない“支配者”によって私は生かせられる。

パーティーの中で1番強い私は、“仲間”達が肉壁となる。


あぁ、こんなことなら、こんなことなら、自分の記憶も、リセットの時に全て消して欲しい。


そんなある日、“支配者”が私を起動することがなくなった。

これ以上仲間が死ななくて、嬉しいのに。
これ以上モンスターを狩らなくなり、なんの得にもならない人々を助けなくていいのに。

なんで、こんな気持ちになるのだろう。

なんで、こんなにもここは冷たいのだろう。


そして“支配者”は私を完全に忘れ、私の記憶はどんどん砂嵐がかかったようになった。

前まではそれが望みだったと言うのに、彼女、彼らの記憶がなくなっていき、どんどん、私は生きたい。
と思うようになっていく。


あぁやっぱり、私は“仲間”が嫌いだ。

私の心をこんなに暖かくしてくれる、あの人たちは嫌いだ。


私の目頭は熱くなり、とうとう真っ暗な闇の中へ落ちて行った。

いずれ、“支配者”が私を起動するまで。



12/10/2022, 8:19:14 AM

『手を繋いで』

僕は兄の手が大好きだ。

僕の頭を優しく撫でてくれる手。
何かを書いている時に動いている綺麗な手。
スマホを触っている時のフリックの早い手。
少しした動作の手、全て好きだ。

そして、僕はとある日散歩をしていた。
その日はそこまで暑くはなく、寒くもなく、とてもちょうどいい気温だった。

僕の家の近くには小さな商店街がある。
そして、その奥を少し行くと小さな森がある。

僕は小さい時に兄と作った秘密基地でお昼寝するのが好きだった。

けれども、兄はその場所を嫌った。

僕は久しぶりにそこは行こうと家を出た。

兄はもうすぐ大学受験に控えている。
なので、今は一生懸命自分の部屋で勉強をしている。

いつもなら兄と一緒に出かけるが、今日は1人で出かけた。



僕が商店街に着くと、色んな人が話しかけてくれた。
「今日は1人なんだね。」
「お兄さんは?
ああ、もう、そんな歳なんだ。」
僕はその人たちと話をするのも大好きだ。
その人たちは僕のことをちゃんと見てくれる。
そして、兄のことを褒められると僕まで嬉しくなる。

僕はその人たちと話し終え、その数分後には目的地である秘密基地に着いた。

僕はボロボロになったダンボールの上に座り、眠った。

どのくらいの時間眠っていたのだろう。
僕は目を覚ますと辺りは少し暗くなっていた。

上着を着てこなかったので少し肌寒い。

どんどん暗くなっていく森に、僕は少し怖くなった。
何回も来たことある森だし、迷うことはなかった。

けれども、フクロウの鳴き声や森の囁き、全ての音を敏感にとらえ僕を恐怖させた。

森をぬけたあと、商店街が見えてきた。
僕はようやくホッとしたが、何やら商店街が騒がしかった。
僕は胸騒ぎがした。

遅い足で頑張って走ると、そこには赤色の光がグルグル回り、白い大きな車が止まっていた。

そして、少し先を見ると黒と白の車も止まっていた。

普段はあまりみない人たちを見かけ、僕は止まった。


「………君は、彼の弟かい?」

その担架に載せられていて、心肺蘇生をされていたのは紛れもなく僕の兄だった。

そして、その近くには少し凹んだ車があった。


兄は、交通事故にあった。

どうやら、僕を探しに来ていたみたいだ。

そして探すのに夢中になり、目の前から車が来ていたのに気が付かなかったみたいだ。

周りの大人は僕のせいじゃないと言うが、どう考えても僕のせいだ。

結局兄は打ちどころが悪かったようでその三日後に命を落とした。

お母さんは泣いた。
お父さんは兄の手をぎゅっと握っていた。

僕は、ただ、呆然とすることしかできなかった。


僕には腕がなかった。

先天的ではなく、後天的にだ。

小さい頃、秘密基地で遊んでいた帰り道、その商店街ではお祭りをしていた。
そして、僕の大好きなバナナチョコをみつけ、一目散に走った。

けれども、僕は横から来たながらスマホをしていた自転車にぶつかり、腕を切断することになった。

その日から兄は秘密基地が嫌いになった。


僕は1、2週間、何もかもする気力がなくなった。


そして、悪夢を見るようになった。

兄が僕を冷たく睨み、僕から離れていく夢だ。

僕はその夢を見た日から、寝るのも怖くなった。


僕は一日中部屋に篭もり、何も食べず、どこにも行かず、寝ることへの恐怖を感じ、毎日を過ごしていた。

4日くらいだろうか。
僕の生活が変わり4日くらい経つと、幻覚や幻聴が聞こえるようになった。

兄が僕を呼んでいたり、兄が僕のそばにいるものだ。


そして、 そのいるはずのない兄が手を広げ、僕の名前を優しく呼んだ。


僕はフラフラの足でそこへ向かった。



そして、そこへ行き着くと、兄の姿がなくなり、落下していく自分が居た。

僕の部屋は2階だ。

僕は2階から落下した。


けれども、不思議と何も感じなかった。
僕は重力に身を任せ、落ちて行った。


そして、次に目を覚ますと目の前には兄がいた。

そして、無くなったはずの腕が、手があった。


僕はその手で思いっきり兄の元へ走り、飛び込んだ。

今度こそは、居なくならなかった。


兄は少し泣きそうな目をしていたが、僕の大好きな兄の手は僕を優しく撫でた。


「行こう。」


兄が震えた声で、無理やり笑っている顔をつくり、
僕に手を差し出した。

僕はその手を掴み、約5年ぶりに手を繋いで歩いた。


その先に広がっているのは天国でも地獄でもなく、
ただのっぺりとした空間だった。


「お兄ちゃん、大好きだよ。」


兄はただ、微笑んだだけだった。