Largo giocoso

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『何でもないフリ』


私は嘘をつくのが苦手だ。

嘘をついたり、空気を読んだりしても、顔に全て出てしまう。

そのせいで色んな人から嫌味を言われたり、陰口を言われたりする。

けれども、自分が悪いから、私は何でもないフリをした。

最初の頃は自分を見てくれなくて寂しかった。

けれども、自分を見てくれる人は居ない。と割り切り、甘く考えるのをやめるとものすごく楽になった。


そして、そのうち、私は何も考えないようになった。

何をするにも、何がしたいのか、何が好きなのか、何が嫌いなのか分からなくなった。


そのうち、それが嫌だと感じなくなり嘘をつく事ができる。というか、その事が嘘だと感じなくなった。

本当に、これは“楽”なの?


「私、この人むっちゃ好きやねん!
歌声が通ってて綺麗で……いつか、こうなりたいなぁ。もうまじで聴いて欲しい!!」

「あはは〜覚えてたら〜」

「絶対聴かへんやつやん。
聴いてや??」

「わ、わかったって、今日帰りの電車で聴くわ。」

すきま風のように入ってきたその声、会話はとても澄んでて未来に溢れていた。

そして、その帰り道私はその人が言っていた人を調べ、聴いた。

本当に、すごかった。

小刻みに鳴るドラム。
それに乗っかるように揺れ動くメロディー。

そして、その中心には太陽のような、そんなあたたかく、でも力強いものがあった。


その日から、私は何かが変わった。

それが何かは分からないが、

私は「なんでもない。」と言うのを辞めた。

相手に伝わらなかったら、言い方を変えたりして何度も伝えた。

そしたら、相手も真剣に見つめてくれた。

嫌味や陰口を言う人もいる。

けれども、私のことをしっかりと見つめてくれる人もいる。
ただ、自分から動かないと。自分も相手のことを見つめないと応えてくれないだけで、ちゃんといる。



“何でもない“と、“見ない”ことが、

“何でもないフリ”だと、やっと気づいた。


12/11/2022, 1:34:19 PM