「無」だった。
目が覚めると、何も聞こえなかった。
気がつくとベッドに横たわっていたボクは、部屋を見渡す。真っ白い空間にテーブルとイス。テーブルの上には、モニターが1台。何やら書いてある。ふらつきながらモニターに近づき、文字を読む。
『おもいだすまで』
理解できず、文字を繰り返し目で追う。声を出して読みたいが、喉から音が出ない。しばらく悩んだけれど、おそらく自分自身のことを思い出すまでこの状況で過ごせ、ということなのだろう。そう考えたのは、ボクは今、自分自身が誰か?何なのか?が、分からないからだ。
しかし、全く音がないのが不思議だ。声が出ないだけならまだ何となく理解できるが、身体を動かすときにも全く音がしない。床をドンドン足で踏み込んでも、響きもなにもない。かといって、身体が宙に浮く訳でもなく、ホントに意味が分からない。何なんだ。
気が狂いそうになるので、とりあえずまたベッドに戻り横たわる。目をつぶり深呼吸をする。深呼吸をしているが、実感はない。幸い少し落ちついてきて、気づくとボクは眠っていた。
…………
「いかがでしたかー?」
と、声がして、肩を叩かれた。
目を開けると、ニコニコ笑顔の女性がこちらを見ていた。そうだった、ボクは買い物がてら『無空間』の体験コーナーに立ち寄ったのだ。カプセルに横たわったまでは覚えていたのだが。そっか、そうだったよな。うん。
「まあまあ楽しかったですよー」
と、ボクはその女性に笑顔でお礼を言って、軽く手を振りながらその場を立ち去った。…のだけど、ああ良かった、あの空間から出られて…と内心ドキドキが止まらなかったのはナイショである。
霜降る朝、ちいさなちいさな光が消えた。
その光が消えていくようすを私はそばで見守った。少し、さみしかった。
ちょうちょが舞うように、どこからかヒラヒラと現れた光は、いつも私の側にいた。嬉しいときに輝き、悲しいときも輝き、私の心がふるふる、と震えるたび光を増した。
いつから光と一緒だったのだろう?思いをめぐらす。ああ、親しくしていた叔母がいなくなってからすぐ、光がやって来たのかもしれない。私のことを実の子のように可愛がってくれて、大好きだった叔母。
それに気づいたとき、
りんりん、と鈴が鳴る音がした。
「身体の中に宇宙があります。こころを輝かせるために、私たちは深い呼吸をします。
いらないものを出し、新しいものを取り入れます。そうすることで、私たちは健全に生きていけるのです。」
若い頃に友人に誘われて行った、健康セミナーで、言われたこと。良く分かんないし、なんだか胡散臭いなあ~と、その時は思ったけど、今の時代だったらなんだか分かるかもしれない。
とりあえず、深呼吸しとくか。
「ボクたちは 星 だって知ってるかい?」
と、あなたは突然言った。
「星 って、夜空でキラキラしてるやつ?」
なんて答えて良いか分からなかったので、当たり前だと思いつつ、こう聞き返した。
「そうだよ。夜空でキラキラしてる星。眠っている間、ボクたちは空に還ってるんだよ。でね、星たちはみえない糸で繋がっていて、そこにはいろんな時間が流れているんだ。だから、夢を見たり、次の日に必要な記憶を充電できたりする。」
と、あなたは教えてくれた。
その時は、ふーん、と聞き流してしまったけど、今思い出すとホントの話のような気がする不思議な話だ。
イロトリドリの 道を歩く
ザクザクと 音をたてて進む
君が 隣にいないことが
寂しくて 悲しくて
立ち止まり 下を向くと
ポタポタと 涙が
たくさんたくさん 落ちた
涙たちは 光を放って
落ち葉を ふうわり包み込み
くるくる くるくる と 舞い続けた
ふふふ と
君が 笑ったような 気配がした