ね。

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「無」だった。


目が覚めると、何も聞こえなかった。
気がつくとベッドに横たわっていたボクは、部屋を見渡す。真っ白い空間にテーブルとイス。テーブルの上には、モニターが1台。何やら書いてある。ふらつきながらモニターに近づき、文字を読む。


『おもいだすまで』


理解できず、文字を繰り返し目で追う。声を出して読みたいが、喉から音が出ない。しばらく悩んだけれど、おそらく自分自身のことを思い出すまでこの状況で過ごせ、ということなのだろう。そう考えたのは、ボクは今、自分自身が誰か?何なのか?が、分からないからだ。



しかし、全く音がないのが不思議だ。声が出ないだけならまだ何となく理解できるが、身体を動かすときにも全く音がしない。床をドンドン足で踏み込んでも、響きもなにもない。かといって、身体が宙に浮く訳でもなく、ホントに意味が分からない。何なんだ。



気が狂いそうになるので、とりあえずまたベッドに戻り横たわる。目をつぶり深呼吸をする。深呼吸をしているが、実感はない。幸い少し落ちついてきて、気づくとボクは眠っていた。



…………



「いかがでしたかー?」
と、声がして、肩を叩かれた。
目を開けると、ニコニコ笑顔の女性がこちらを見ていた。そうだった、ボクは買い物がてら『無空間』の体験コーナーに立ち寄ったのだ。カプセルに横たわったまでは覚えていたのだが。そっか、そうだったよな。うん。




「まあまあ楽しかったですよー」
と、ボクはその女性に笑顔でお礼を言って、軽く手を振りながらその場を立ち去った。…のだけど、ああ良かった、あの空間から出られて…と内心ドキドキが止まらなかったのはナイショである。

11/30/2025, 7:58:00 AM