《夢を描け》
『それじゃあ今日の授業では将来の夢について自由に書いてみましょう!』
そう言われたのは、いつだったか。もう10年は前のことだったと思う。
そんなことを年末の大掃除の途中で出てきた古い画用紙の束を見ながら俺、齋藤蒼戒はふと思う。
「蒼戒ー、そっち片付いたー? ……ってうわー、懐かしー! いつのだっけ、それ」
そう言ってひょっこり顔を出したのは双子の兄、春輝。
「いつだったかな……。小1とかその辺だったと思うが」
「とりあえず小学生だったよな。つーかこれまだ取ってあったんだ……」
「確かにな。とっくにどんど焼き送りになってると思ってたんだが」
「だよなー。母さんの仕業だぜ、間違いなく」
「だろうな。ちょうど出てきたことだし来年のどんど焼きにでも出すか」
「いや取っといた方がいーんじゃねーの? もう10年は置いてあったわけだし」
「そうか? 俺はこの絵、あまり好きじゃないから……」
「ああそっか。
続きはあとでちまちま書いてきます!
2025.5.9《夢を描け》
《届かない……》
「うーん、ギリッギリ届かない……」
とある放課後、俺、齋藤春輝が放送室に行くと、同じクラスで放送副委員長の明里が高い棚の上にある段ボールを取ろうと、手を伸ばしていた。
「ちょ、明里!? おまっ、それ俺取るからそこどけ! コケるぞ!」
「え、サイトウ!? ってわっ!」
「あーもーいわんこっちゃない!」
俺に驚いて明里がバランスを崩したので俺は慌てて彼女に駆け寄る。
「痛ったた……。大丈夫か? 明里」
「なんとか……。ありがとサイトウ。おかげで助かったわ」
明里は立ち上がってパンパンとスカートのホコリをはたく。
結局俺が明里を受け止めて彼女の下敷きになったことで明里は無傷で済んだようだ。俺もどっか怪我してるような感じはないし、一安心だな。
「それで? 何取ろうとしてたんだ?」
「あー、あれあれ。あの段ボール。何入ってるのか気になって」
「あーあれか。よっ」
俺は明里が示した段ボールを取り、ほれ、と明里に渡す。
「え、すごっ、なんで取れるの!?」
「ばーか。俺の方が身長高いんだよ」
「ううー、なんかめちゃくちゃ悔しい……。あんた身長いくつよ?」
「えーっと確か178くらいだったと思う」
「うわ、私より10センチも高い……」
「160後半あれば十分だろ。つーかお前女子にしてはかなり高い方だろうが」
現に紅野と同じくらいの身長あるし。
「そうだけどー。もう5センチはあってもいいと思うのー」
「夏実は150後半なんだからそれを思えばまだマシだろ」
「正論っちゃ正論だけどサイトウに言われるとなんかめちゃくちゃ腹立つ〜。そーいや蒼戒はいくつあるの?」
「蒼戒? あいつ確か俺と同じくらいかあいつのほうがちょっと小さいくらいだったと思うけど……」
「え、サイトウのほうがデカいの!? 意外〜」
「一応言っとくが俺が兄だからな?」
「兄感ゼロだけど?」
「ほっとけ。それよりその段ボール、結局何入ってるんだ?」
「あ、これ? うーんと……」
明里はそう言って段ボールの中を漁る。
「古い放送マニュアル、かな」
明里が取り出したのはかなり古ぼけたファイル。明里の言う通り、古い放送マニュアルのようだ。
「んだよ掘り出し物のマイクとかじゃねーのかよ!」
段ボールにマイクって書いてあるから期待しちまったじゃねーか!
「よくよく考えてみれば掘り出し物のマイクがあったとして使えないわよね、古すぎて」
「言われてみれば……」
というわけで俺の働きは完全に無駄骨となったのだった。
(終わり)
2025.5.8 《届かない……》
《ラブソング》
「〜〜〜〜〜♪」
「あれ、珍しいな。お前が鼻歌歌ってるの」
ある日の放課後。俺、齋藤春輝が夕方の放送をしようと放送室に行くと、すでにアナウンス担当の明里がいて、珍しく鼻歌交じりに放送原稿を書いていた。
「あ、サイトウ。どしたの? 放送まではまだ時間あるでしょ?」
「いや別に。ただ入ったら鼻歌が聞こえてきたもんだから」
「そういう気分だっただけよ。深い意味はないわ」
「だろうな。ちなみになんて曲?」
「えーっと曲名は……そうそう、『whole new world』よ」
「ああ、アラジンの」
「そうそう。名曲よねー」
「だなー。そーいや文化祭の出し物で歌うんだっけ」
俺たちのクラスは確か『アラジン』の劇をやることに決まったはず。
「ええ。私がジャスミン役で、なんとびっくり蒼戒がアラジン役なのよね」
「今更ながらよく蒼戒が承諾したよなー。俺絶対断ると思ってたもん」
「相手が私だったからかしらねー。じゃなかったらあの子絶対断るわよ」
「確かにな」
そーいや蒼戒に「本当にやるの?」と聞いたら「相手が明里だからな……。たとえ劇でもあいつが他の誰かと結ばれるところは見たくないし……」と答えていたっけ。あいつアレで無自覚に独占欲があるんだなー……。
「ん、ちょっと待てよ、ということは蒼戒もwhole new world歌うのか?!!」
「え、驚くとこそこ? そりゃアラジンだから当然歌うでしょうよ」
「だよな! え、どーしよすごい楽しみ!!」
だって蒼戒、滅多に歌わないし。せいぜいコーラスコンクールと行事の時の国歌と校歌くらいなもんだし。
「よかったわねー。あの子アレでめちゃくちゃ上手いし」
「そうなんだよー!! もっと歌ってくれりゃいいのにさー」
「あの子それほど暇じゃないでしょ」
「まあそうだけどー」
珍しく歌ってくれるとしても童謡くらいだし、ラブソングであるwhole new worldをどんなふうに歌うのかめちゃくちゃ気になる。しかも英語版。
「一回2人だけで合わせたんだけどマジでヤバかったわよ……。あの子その気になれば歌手になれるんじゃないかしら」
「だよなー!! あー、楽しみ!!」
「文化祭まだ1ヶ月は先よ……っていけないサイトウ! あと30秒で放送始まる時間よ!!」
「あっ、しまった!! じゃあアナウンスは任せたぞ」
「あんたは機械、任せたわよー!」
明里に言われて俺は慌ただしくアナウンス室から機械室に移動する。余談だが、放送室は機械がある機械室とその防音ガラス越しのアナウンスをするアナウンス室の総称だ。
「ヤッベ、あと15秒……!」
俺は急いで機械の電源を入れ、曲をセット。防音ガラス越しの明里に、『やります』の札を掲げる。
明里が頷いたのを確認して、札を下ろしてカウントダウン。
放送開始時刻になったその瞬間、俺は音楽を流すスイッチを押した。
(終わり)
2025.5.6《ラブソング》
《手紙を開くと》
※一応かなり前の《旅の途中》の続きになってます
「あれ、手紙」
ある冬の日の夕方、俺、齋藤春輝が郵便物をチェックしていると、珍しく俺と双子の弟の蒼戒宛の手紙が紛れていた。
「手紙? 誰からだ?」
蒼戒が夕飯の味噌汁に味噌を入れながら尋ねる。
「んー……っと、あ、これセオからじゃん!」
瀬音立太。俺たちの幼馴染で、今は北海道に住んでいる。ちなみにものすごい方向音痴。
「セオ? この前絵葉書が送られてきただろう」
「うん。確か縄文杉と姫路城と万里の長城」(《旅の途中》参照)
「で、今回は絵葉書じゃなくて手紙なのか?」
「ああ。えーっとー」
手紙を開くと、「もうすぐ遊びに行く! 今週中には着くはず!!」と書かれていた。
「今週中……今日金曜だから明日あたり来るのか……?」
蒼戒がカレンダーを見て怪訝そうに言う。
「まあそういうことだよなー。セオがまっすぐここに来れれば」
「無理だろ」
「俺もそう思う。だって遊びに来るって最初に言ったの2週間前じゃん!」
「そして屋久島に兵庫に中国に……。今はどこにいるんだか……」
「この手紙は……オーストラリアからだな」
「国際便か。とすると届くのに時間がかかるから本来ならもう来ててもおかしくないな」
「確かに。てか何をどうしたら日本から中国に、中国からオーストラリアに行くんだよ。海渡ってるじゃねーか」
「それを言ったら北海道から本州間も海を超えるが?」
「言われてみれば。てかなんでこんなに迷うんだろ……」
「さあ……。まあいい。味噌汁出来たし夕飯にするぞ」
「はいよー」
この話はここで打ち切りになったが、その三日後、今度は自由の女神の絵葉書が届いて俺たちは仰天する羽目になる。
(終わり)
2025.5.5《手紙を開いて》
《青い青い》
あとで書くつもり!
2025.5.3《青い青い》