かつては楽園だった。
空はとても青く
優雅に花が咲き誇り
人々はふわりと踊りを踊った。
そんな、夢の様な場所だった。
ある日を境に、此処は廃墟と化した
変わりない日々が壊されてしまった。
まだあの日の地獄の様な光景が
脳裏に焼き付いていて、離れない。
劈く悲鳴と啜り泣く声
延々と、音を立て燃えさかる草原
非情にも殺されてしまった、無実の子供たち。
今まで、守り繋いできたもの
時間をかけて紡いだ、この景色ですら
この手から、いとも容易く奪われてしまったのだ。
私を含め、生き残ったのは十数人程度
勿論、子供たちは全滅。
当然、喜べるはずも無かった
跡形もなくなった故郷
未来を託すはずだった、子供たちの死。
あまりにも失ったものが大きすぎた。
深い悲しみに苛まれる者
魂が抜けたように、彷徨う者
絶望に飲み込まれて、死を望む者もいた。
もう二度と治ることは無い
深い傷を人々は負ってしまった。
私たちは無力だった。
楽園はもう無い
帰る場所も、安らぐ場所も無くなったのだ。
今は、生活も安定して
普段通りになってきてはいるが
決して、あの頃のようには生活できない。
そして、私も例外ではなく
いつか元に戻れば、と
未だに楽園の幻影を見続けている。
私たちの愛する故郷。
あそこは確かに、楽園だったのだ。
この思いは、きっともう届くことはない。
あの日、世界で一番綺麗に散った君へ。
うだるような暑い日
君は、海に溶けて消えてしまった。
柔らかな黒髪をなびかせながら
心底、幸せそうに
それでいて、どこか物惜しそうに
まるで花びらのように
落ちていく君の姿が、脳裏に焼き付いた。
その瞬間恋をした、一目惚れだった。
君は僕に恋をしていた。
そして、僕もまた君に恋をした。
たった四秒間の逢瀬。
本当に悲しかった、ただそれ以上に
美しい、と思ってしまった。
僕の中で、悲しみと感動とが交差して
なんとも形容しがたい気持ちでいっぱいだった。
今までの中で、これ程までに美しいものを
見たことがあっただろうか。
散りゆく命は美しい、だなんて
国語の授業でしか習わないが
僕の頭の中はそれで埋め尽くされていた。
今では、寝ても醒めても、学校であろうと
君の事しか考えられなくなってしまった。
つまり僕は
もう居ない君に恋焦がれている。
もう手遅れで
きっとこの思いが届くことも無いけど。
僕は一生、君の事を想い続ける。
僕は正直、あの日の事を後悔している
あの日言いそびれたあの言葉を。
友達だった君と付き合い始めて、約一年が経過した時で
これから先もこれが続くと思っていた。
でも違った
結論から言うと、恋愛関係は終了、別れた。
正直、なんか違うなって、わがまま言ってごめんって
友だちに戻ろうって、そう困ったように君は言ったね。
確かに、恋愛としては劣ってたと思うけど
愛情も信頼関係もそれなりにはあると感じていたから
少しだけ、悲しくなった。
実は、告白された時、少し期待していたんだ
もしかしたら、君の一番になれるかもって思ってたんだ
浮かれてた自分が馬鹿だったのかもしれない。
勝手に、自惚れて、浮き足立って、期待して
失望して、悲しくなって、ひねくれてさ
だけど、ずっと受け身だった自分も悪かったんだ。
むしろ君は、ずっと受け身でいた僕と
一年間も居てくれたなんて、なんて心が広いんだろう
しかも、ただ別れるんじゃなくて、友だちに戻ろうって
言ってくれたんだから、感謝するべきなんじゃないか。
だけど、やっぱりすんなり友だちになんて
戻れる訳が無かったんだ。
友だちに戻ってから、話す頻度も少なくなったし
遊ぶ機会だって無くなった
きっと前の関係には一生かけても戻れないんだと思う。
その事を考えると、友だちに戻ろうって言った
君に怒りが沸いてきてしまう
誰よりも優しい君の言葉に甘えているくせに
まったく本当に自分は最低な奴だとつくづく思うよ。
僕はいまだに、君の事を嫌いになれない
どうせ、元の関係に戻れないのならいっその事
言ってしまおうと思う
あの時、言葉にできなかった言葉を。
まだあの日は、分からなかったから言えなかったけど
僕は、君が好きだったよ。
私の日課は日記を付けることだ。
日記を付けていると言っても
今日あった、何気ない事や、くだらない話の事を
ただ綴っただけの物だ。
実は、こまめに書く日記は苦手だ
だけど、私が毎日付けるのには理由があるからだ。
昔から私は、人の事や日々あった事を
覚えるのが苦手だった。
その時は正直、とくに気にしていなかった。
だが、私が決定的な危機感を感じる様になった
出来事があった。
それは、中一の夏仲良くなったあの子の事を
忘れてしまいそうになった事である。
その子とは同じクラスで、偶然にも共通の趣味があって
いつの間にか、一緒に居ることが多くなった。
笑いあって、走り回って、とても楽しい日々を過ごした
そんな変わらない毎日が続くと思っていた。
ある日突然、あの子は学校に来なくなった。
しばらくの間、クラスメイトも先生もその子の話で持ちきりだった
もちろん、私もそうだった
もしかしたら旅行に行っているのかもしれない、とか
サボりたくなったのかも、とか
あるいは、違う所に引っ越しをするのかもしれない、と
色んな話がたえなかった。
それから少しして、臨時の学年集会が開かれた
最初は、他クラスの子がやらかした事の説教かと思ってうんざり
していたが、妙に暗い雰囲気に違和感を感じた事を覚えている。
話が進むにつれて、意外にもあの子の話がでた
やっぱり、他の学校に行ってしまうのかと考えていると
先生の口から発された言葉は、想像もしていなかった事だった。
あの子は帰宅途中に事故で死んでしまった、と
怖いぐらいにハッキリと、先生は言っていた。
信じられない、嫌、信じたくないと私は思った
誰もが皆、動揺していたり、突然の事で困惑していた。
その日は今までで1番最悪な日だった
その時、先生やクラスメイト、あの空でさえも泣いていた。
葬儀が終わり、未だにわだかまりはあるものの
だんだんと活気を取り戻してきた
しばらく経ち、普通の日常に完全に戻った時から
次第に、あの子の話もされる事は無くなった。
実は、少しの間は、あの子の私物や、机が残ったままだったが
休日にあの子の親族が荷物を持ち帰ったのか
関係する物は全て残らず、綺麗に片付けられていた
私は、悲しいと思ったと同時に寂しいと思った。
それから間もなくして、クラスメイトや先生は
あっという間にあの子の事など、忘れてしまった
それは私も例外では無かった。
私がそれに気づいたのは、中3の夏
ちょうど、アルバムを見ていた時だった
何故、忘れてしまっていたんだろう
一緒に居て、かけがえのない存在だったのに
あんなに私を愛していてくれたのに。
その時、私は恐ろしくなった
同時に大切な人の事でさえ、簡単に忘れてしまう自分に
とても腹が立った。
それから、私はあの子の事や、今までの事を忘れない様に
毎日、日記を付ける事にした
あの子があの時そこに生きていたという事実や
変わり映えしなくても、幸せな毎日の事を
覚えていてあげれるように。
前にも言ったが、私は日記を付けるのが苦手だ
だけど、これからもずっと綴り続けようと思う。
例え、今はもう居ない人だとしても、過去の思い出だったとしても
覚えてさえいれば、きっとそれは永遠に生き続けるのだから。
鳥に憧れている。
羽を広げ大空を舞う、そんな存在に心底夢を見ていた。
何にも囚われず空を飛び、海も、時に山すらも越える
その姿は自由そのものを表しているように感じていた。
鳥になりたい。と私は切実に思った。
人間関係や社会の理不尽なルールなど全て投げ出して
逃げてしまいたかった。
結局、そんな想いは実現する事は無かった。
残念ながら、そんな私は今日も変わらない日を
相変わらず過ごしている。
鳥が群れを率いて、空を飛んでいるのが目にみえた。
まるで見せつけられているみたいで、自分が惨めに
思えた。
鳥になりたかった、それが夢だった。
私は鳥に憧れている、否、憧れていた。