【時を告げる】
四月二十日、学校の始業式だった。始業式なんて言っても別にホームルームを受ければ終わるだけの短く簡単なもので、出てしまえば単位になるので出ない選択肢なんて無かった。
そんな私は学校の教室で永遠と授業が始まるまで同級生と後輩の存在を待ち続けるが、自分の友人は一人しか来ない。他の友人は皆、専門学校に進学したのか?でも進学したなら『専門学校に合格したから専門学校に進学するんだ』とかぐらいは言ってくれるかと思いながら始業式という名のホームルー厶が始まる。やっぱり友人は遅れて来ないし、連絡もよこさない。不安に駆られながら過ごしたホームルームはあっという間に終わった。
そこから数ヶ月後のこと。
授業内で夏季のスクーリングの手紙を貰った事を名簿に記入をしなければならなかったので名簿を見たのだが、不意に見えた友人の指名欄横には退学と転籍の文字があった。その瞬間、別れを告げる文字を見てしまったと酷く後悔した。
そういえば退学した友人は『僕はもう戻らない』と私に告げていた事を思い出したが、私は「来年度には戻ってくるだろう」とその言葉の意味を深く考えずにいた。けれども転籍した友人は何も告げはしなかったが、誰も悪くは無い事象のせいで距離が出来ていた。
私の友人は皆、元気にしているだろうか。退学、転学、転籍、休学。どの選択肢を取ろうが、私は何も口を出すことは出来ない。それは友人が選んだ道を他人の言葉ひとつで消したくは無いからだ。でも元気にやっているのなら別に大丈夫、大丈夫。
【私の日記帳】
私は今日も趣味である日記を書こうとしたが、何も思いつかなくて日記帳を机に置いて、クラゲの女の子に変身して外へ出た。
外は夕暮れ時。不思議だ、私は夜中にいたのに。
夕暮れ時の外ではキジバトが鳴いていると同時に女の子が近くの公園のベンチに座って泣いている。
女の子の顔を見たが、私の顔と変わらず。携帯を見ると2017年9月。つまりこの子は11歳の私で、2017年9月は私がなんで周りと同じ生き方や考え方が出来ないのかについてずっと考えていた時期。相談しても『気にしすぎ』『ネガティブなのが悪い』な世界。『繊細』を持った人が存在するという事が都会を自称した田舎にあるわけない。
「都会を自称した馬鹿な田舎で暮らすの楽しい?」
「楽しくないよ、狭すぎてほんと嫌」
「そうだよね『都会ですからこの土地』みたいな勝ち誇った顔してるけど。実際は自由すら手に出来ないしいじめ紛いなことばっか起こるクソな土地だもんね」
「そう!体型で暴言吐かれたり陰口言われたりさ、ボブやショートはダメでロングは良い、服はしまむらじゃなくてブランド物とか言われるの疲れた」
「私も一緒!ロングにしろってずっと言われるの。今になって確信したよ、7年前の私にやっと会えた」
「7年後の私?お化粧してるし髪染めてる!?」
「好きな人のおかげで変身したよ〜。好きな人が可愛すぎてさ、私も可愛くなれたらなんて思ってさ」
「好きな人の写真ないの?」
「これなんだけど、本当に可愛いでしょ?」
「可愛いね。この子が好きなの?」
「うん、気付いたら好きになってたの。でもね7年後はねそれが許されつつある時代になって来たけど、私は私以外には言わないよ」
「それで良いと思うよ。ねえ7年後の私はどうなってるか教えて?」
「楽しく生きてるよ。旅行行ったり演劇したり、色々楽しいことをしているよ。だからこんな変」
「少し希望持てた、ありがとう。もう帰ろっかな」
「家まで送ってあげようか?」
「ううん、1人で帰れるから帰るよ」
彼女は笑いながら走って帰り、それを見送る私。
都会を自称する馬鹿な田舎ではキジバトが今日も相手を探して永遠に鳴いている。
気付いたら夜になっていて、私は家に帰っていた。7年前の記憶は書き変えたも同然ではあるが、希望を持って彼女が生きているのならそれで良いだろう。
【嵐がこようとも】
高校受験を控えた中学三年生のあの子はいつも見下されてばかりいて、教師にも助けて貰えず、クラスの片隅にぽつんと1人でいるような女の子だった。僕もずっとあのこと同じ状況にいる男子学生だから、親近感が勝手に湧いていた。
だから僕は話しかけにいつも同じ放課後にあのこに話しかけに行って、他愛のない話をするのだが、その話を聞いている彼女の顔は僕だけのものにしたいくらい可愛い顔をしている。その顔ばかり見ていると、自分は守りたくなって来てしまったんだ。別に見下されたままの彼女を観察し続けるだけでも良かったのだが、あんな彼女の可愛い顔なんて見てしまったら最後、好きになって行くばかりで見下されていくのを観察し続けるだなんて到底出来ないだろう。
そんなある日、放課後に僕は彼女のところにいつものように近づき彼女に他愛のない話をしてやるが、彼女は可愛い顔をして聞いている。
それが僕には耐えきれずについに『僕は君が好きなんだ、高校生になったら君と僕に危害を加えないところに逃げないか』と言ってしまった。
そして彼女は僕に『幸せになれるようにまずは君の彼女にならなきゃ』と返してくれたんだ。
その時に僕はこの子を嵐がこようとも幸せにさせるために守らなければならないと決心したんだ。
【お祭り】
7月、世間は完全な夏休みだが通信制に通い、単位取得のためにスクーリングをしなければならない私にとっては夏休みというより長期にも感じない夏休みに中学の友達数人が地元の大きい有名な祭りにいると言うので会いに行った。地元と地元の祭りは好きでもない中学の同級生に会うので好きではないが大事な友人がいるなら話は全くの別だろう。
着いたはいいものの、皆がどこにいるのか分からず通話を友人にかけるが人が大勢いるせいで通話の声があっちに伝わらず、私には伝わるのでそれを頼りに彼らのところに向かい『桜木、久しぶり』と言う挨拶から何気ない会話が始まるまでは良かったのだが、そんなところに運悪く苦手な教師が来てしまった。
『あら桜木さん、可愛くなったね。でもナンパされないようにね』と言われた。その言葉を言われた瞬間、私はなんだか嫌だった。
ナンパしてくる男や女も少し気持ち悪いと感じることはあるが、どうせ一時的なものなのでまだ忘れることは出来るが、昔の教師は違う。
小中で見た目を誹謗されてきた私に対して助けを差し伸べる手なんてひとつしかなくて、それ以外は無視と同調をして共犯は誹謗の主犯格と手を取りあったのにも関わらず、今更『可愛くなった』なんて何様だ?
私は主犯格と共犯に『可愛い』とか『ナンパされないようにね』と声をかけられたいがために化粧や可愛いお洋服を選んでいるのではなく、自分の好きな人に『可愛い』と言って欲しいから化粧や服を選んで着ていたり、自分の今後のためにしているのだ。主犯格と共犯なんて気持ち悪い何かにしか見えないのだから発言せずに消えて頂きたい。
その後もなんだか同級生に会ったは良いものの、平然とこちらに笑顔を向けてくるのが気味悪かったのと仕方ないのだが行列ばかりでご飯が食べれず花火だけ見たのが相まってしまい、嫌な夏祭りになった。
【遠い日の記憶】
この間は演劇の稽古の日で、いつもの場所で集まって仲良く稽古をして休憩していた時のこと。
「今の子って小さい頃何してたんだろうね?そういや千葉さんは小さい頃何してたの?」
話題は今の子、つまり私は17歳なのでそれくらいの年の子達。そんな話になっても仕方ないとは思う、今の大人と子供じゃ全然何もかもが違うのだから。
「そうですね〜」
続きを話そうとしたその時、遠い日の記憶が頭の中で再生されてしまった。
私が幼少期から住んでいるのは片田舎で、よく夕方になれば公園ではキジバトというフクロウのような声がする鳥が鳴いており、近所にはお寺とお墓とお地蔵さんと坂しか無くて、移動するには少し歩いてバスや電車に乗らなければ駅にも行けず、商業施設も駅に行かなければ無いくらいな土地であった。
そして小学生くらいの時からどこもかしこもグループができていて他所の住民は邪魔な存在。
そして私の事を好いている同級生なんていないのだからいつも1人で遊んでいたような気がした。
だから誰かと遊んだ記憶なんて私には残っていないが、聞かれてしまえば答えるしかない。
「そうですね友達と商業施設に出かけたり、ゲームとかしてたと思いますよ」
私はそんなことなどした事は無いのに嘘をついた。
嘘でも、大人たちが満たされればそれで構わない。