【また会いましょう】
先日、私は用事があったので郷土資料館を訪れた。
知人とここで落ち合う約束をしたのに知人はまだ来る気配や連絡も無かったので私は郷土資料館を観察する事にした。
歩いて行けば行くほど、周りにはその土地の歴史が見えて来て、この土地には昔の事だが馬が沢山いたからか、その馬を捕る様子なんかが描かれていて、あの土地は女性の人骨がいるなんて事が書いてあった。
「あら、久しぶりね」
誰かとすれ違い、気にせずに歩こうとしたところで声をかけられた。誰だか分からず私は振り返る。
ポニーテールの美人か微人な女で、自分がまるで美人だと言いたそうな顔をしているが、この女が美人ではなく微人である事には違いない。
そしてこんな女にも会いたくなかったのにも関わらず会ってしまったことに運の尽きを感じてはいるが、幸いにも知人には会わせなくて済んだ。
「何年ぶりでしょうね」
「そんな事より可愛くないのは変わらないのね」
「そうですか。私は可愛くなくても生きているので」
「そんなのじゃモテないわよ、一生」
「これからありのままを愛してくれる人が来るので」
「そんな人いないわよ。まあ頑張りなさい」
「ああ、そうですか」
「可愛くない。まあまた会いましょう?」
「あなたには会いません」
微人な女は足早に郷土資料館を出て行く。やはり知人には会わせなくて正解だと思った。あの微人な女は大人という立場を利用して、当時小学生の私に色々言っていったのだから。
【過ぎた日を想う】
私は三兄妹の中で唯一の女子。三兄弟になるはずが、三兄妹になってしまった原因のひとつで、女の子らしくしなさいと言われて育った。
でも案外良い人間になんてなれなかった。障害というハンデがついてまわり、私は同級生に『障害者』と貶されながら呼ばれ、地域では5年も何かを叫ばれながら貶されていた。大人も子供も全部私の敵で、中学卒業後2年が経過した夏の日に部活の後輩が私に声を掛けてきたが、知らない人間のフリをした。別に良いだろう、仲良くもなかった部活の後輩など知らないフリをしても罪なんて無いはずだ。
そういえば昔、教師が私に『あいつらが楽してるって思ってるでしょ』と言ってきたが、なんで人のことを虐めて楽しんでるゴミと言える人種が大変な思いをしながら生きているなんてどう転んでも間違いに過ぎないだろう、そんなことも分からないのか。まあそうだよな、虐めを遊びやノリと言う意味のわからない無法地帯の住人だもんな。信じた私が馬鹿だったよ。
なんて過ぎた日を想った私は今からスーツケースを持ってどこかに行く事にするよ。こんな人間どこに行っても何も無いはずだから。子犬を引き取って育てようと思ったが障害者の私には無理だろうから諦めるよ。
障害者の私をどうか許しておくれ。
【踊るように】
放課後にコンビニでアイスを食べていたら、目の前を小学生が『南初富に馬が出たー!』とか『馬に乗りたい!』と騒ぎながら通り過ぎて行った。今日も平和な一日を過ごしていると実感しながらアイスを食べていると同級生が踊るように走って、こちらに来た。
「鈴木さーん!ねえねえ暇ー?」
「佐藤さん、暇だけど」
「南初富に馬が出たんだって、見に行かない!?」
「良いけど」
「じゃあ、出発〜!」
佐藤さんはそう言うと、さっきと同じように踊るように走っていた。彼女のことはいつも不思議だと思っていたのだが、関わっても関わらなくても不思議だ。
「なんで馬にそんな夢中になれるの?」
「それはね、イケメンに会えるから!」
「は?イケメン?馬じゃなくて?」
「うん、南初富に塩顔イケメンがいるのよ」
「塩顔イケメン……?どんなの?」
「これ。この人がね家のベランダで日向ぼっこしてたのを見た時、刺さっちゃって」
「確かにイケメン……」
写真を見せられ、確かにイケメンだと思った。でも今日いきなり行ってもそのイケメンがいるんだろうか……。とか思っていたら南初富に着いてしまった。
そこには馬がいて、草を食べ続けている小さい馬だった。その横を見るとその男の人は日向ぼっこをしていた。確かに塩顔のイケメンだった。でもタイプでも無いし、別に同級生に着いていっただけなので、面倒くさくなりずっとイケメンを眺めている同級生を置いて帰った。
【時を告げる】
四月二十日、学校の始業式だった。始業式なんて言っても別にホームルームを受ければ終わるだけの短く簡単なもので、出てしまえば単位になるので出ない選択肢なんて無かった。
そんな私は学校の教室で永遠と授業が始まるまで同級生と後輩の存在を待ち続けるが、自分の友人は一人しか来ない。他の友人は皆、専門学校に進学したのか?でも進学したなら『専門学校に合格したから専門学校に進学するんだ』とかぐらいは言ってくれるかと思いながら始業式という名のホームルー厶が始まる。やっぱり友人は遅れて来ないし、連絡もよこさない。不安に駆られながら過ごしたホームルームはあっという間に終わった。
そこから数ヶ月後のこと。
授業内で夏季のスクーリングの手紙を貰った事を名簿に記入をしなければならなかったので名簿を見たのだが、不意に見えた友人の指名欄横には退学と転籍の文字があった。その瞬間、別れを告げる文字を見てしまったと酷く後悔した。
そういえば退学した友人は『僕はもう戻らない』と私に告げていた事を思い出したが、私は「来年度には戻ってくるだろう」とその言葉の意味を深く考えずにいた。けれども転籍した友人は何も告げはしなかったが、誰も悪くは無い事象のせいで距離が出来ていた。
私の友人は皆、元気にしているだろうか。退学、転学、転籍、休学。どの選択肢を取ろうが、私は何も口を出すことは出来ない。それは友人が選んだ道を他人の言葉ひとつで消したくは無いからだ。でも元気にやっているのなら別に大丈夫、大丈夫。
【私の日記帳】
私は今日も趣味である日記を書こうとしたが、何も思いつかなくて日記帳を机に置いて、クラゲの女の子に変身して外へ出た。
外は夕暮れ時。不思議だ、私は夜中にいたのに。
夕暮れ時の外ではキジバトが鳴いていると同時に女の子が近くの公園のベンチに座って泣いている。
女の子の顔を見たが、私の顔と変わらず。携帯を見ると2017年9月。つまりこの子は11歳の私で、2017年9月は私がなんで周りと同じ生き方や考え方が出来ないのかについてずっと考えていた時期。相談しても『気にしすぎ』『ネガティブなのが悪い』な世界。『繊細』を持った人が存在するという事が都会を自称した田舎にあるわけない。
「都会を自称した馬鹿な田舎で暮らすの楽しい?」
「楽しくないよ、狭すぎてほんと嫌」
「そうだよね『都会ですからこの土地』みたいな勝ち誇った顔してるけど。実際は自由すら手に出来ないしいじめ紛いなことばっか起こるクソな土地だもんね」
「そう!体型で暴言吐かれたり陰口言われたりさ、ボブやショートはダメでロングは良い、服はしまむらじゃなくてブランド物とか言われるの疲れた」
「私も一緒!ロングにしろってずっと言われるの。今になって確信したよ、7年前の私にやっと会えた」
「7年後の私?お化粧してるし髪染めてる!?」
「好きな人のおかげで変身したよ〜。好きな人が可愛すぎてさ、私も可愛くなれたらなんて思ってさ」
「好きな人の写真ないの?」
「これなんだけど、本当に可愛いでしょ?」
「可愛いね。この子が好きなの?」
「うん、気付いたら好きになってたの。でもね7年後はねそれが許されつつある時代になって来たけど、私は私以外には言わないよ」
「それで良いと思うよ。ねえ7年後の私はどうなってるか教えて?」
「楽しく生きてるよ。旅行行ったり演劇したり、色々楽しいことをしているよ。だからこんな変」
「少し希望持てた、ありがとう。もう帰ろっかな」
「家まで送ってあげようか?」
「ううん、1人で帰れるから帰るよ」
彼女は笑いながら走って帰り、それを見送る私。
都会を自称する馬鹿な田舎ではキジバトが今日も相手を探して永遠に鳴いている。
気付いたら夜になっていて、私は家に帰っていた。7年前の記憶は書き変えたも同然ではあるが、希望を持って彼女が生きているのならそれで良いだろう。