さくら ゆい

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11/28/2024, 10:38:46 AM

【愛情】

2月14日はバレンタイン、好きな人に愛情を込めてチョコレートという菓子をプレゼントする日である。
私も興味の無い同級生に3枚の板チョコレートを貰ったは良いものの、どう処理しようかと頭を悩ませながら家に帰ると妹が駆け寄って来た。

「お姉ちゃん、その板チョコ持ってきて欲しい!手伝って欲しいことある!」
「良いけど、手伝って欲しいことって……あれ?牡丹さん、どうしたんですか?」
「実はね……?」
「牡丹さんが陽稀くんっていつも日向ぼっこしてる男の子にチョコ渡して告白したいんだって。でもさ私達チョコに興味無いけど毎年チョコを渡されるから、今年はそれに消費する事にしたから!」
「ありがとうございます……」
「まあ良いけど、そういう事は連絡してよ!言ってくれたらもっと買ってきたのに」

牡丹さんという女の人は私の一番上の姉の大学の同級生で、陽稀くんという男の人に恋をしている。話を聞きながらチョコレートを溶かしていると一番上の姉が大学の講義から帰ってきた。

「ただいま〜!って牡丹がなんでいるのよ?」
「陽稀くんにチョコ渡して告白したいんだって。だからいらない板チョコ溶かして作ってんの!」
「あんた達、それ早く言いなさいよ!」

姉は文句を言いながらも牡丹さんに協力してくれた。しばらくしてチョコが出来上がって、牡丹さんの身だしなみも彼好みにして牡丹さんは「陽稀くんを私の彼氏にします」と言って告白をしに行った。

その後牡丹さんと陽稀さんはお付き合いを正式に始めたようで二人はいつも幸せそうに近所を歩いている。
そんなバレンタインにひとつの愛情が功を奏した話。

11/25/2024, 12:35:26 PM

【セーター】

6月中旬、京都芸術センターに行った時の事だった。

初めての京都でワクワクしていた私はどこに行けばいいか分からず、芸術センターの中を歩いていた。
廃校になった小学校を再利用したという歴史がある芸術センターで学校みたいだと思ったけれど、私の知っているコンクリートが続く学校では無かったので嫌な記憶の数々を思い出すこともなかった。
引き続き歩いていると可愛い水色のセーターが落ちていた。小学生くらいのだろうか。無視して歩き続けようと思ったのだが、そういう訳にも行かないので拾って立ち上がると目の前に小学生くらいの女の子がいた。

「で、出たー!」
「お化けじゃないよ!」
「だよね、私霊感ないもん。あ、これあなたの?」
「そうだよ、お姉さんありがとう! ねえ、お姉さんはここに何をしに来たの?」
「どういたしまして、お芝居を観に来たの。って言っても夜に見るんだけど、それまでは行く所が無くて」
「じゃあ私と一緒に遊んでくれる?」
「いいよ」

用も無かったので小学生くらいの女の子と遊ぶことにした。かくれんぼにおにごっこにおままごと……。
誰でも1回は通るような遊びをした後、時計を見ると時刻は18時半。劇場の開場の時間が迫っているので彼女と出入り口で解散しようと思い、彼女を1階の出入口へ連れて行った。

「じゃあ、ここで……」
「葵、何してたの〜!」
「お母さーん!お姉ちゃんと遊んでたの〜!」
「すみません、ありがとうございます」
「あ、いえいえ。葵ちゃんじゃあね!」
「うん、じゃあね!」

葵ちゃんという小学生くらいの女の子はお母さんに手を引かれて帰って行った。私が東京に帰った後も彼女は元気に京都で暮らし続けてくれていると良いなと思っていると誰かに声を掛けられた。

「鈴木さんはさっきから独り言が多いぞ?」
「いるならいると言ってくださいよ!独り言なんて言ってないですよ、だってさっき親子が……!」
「そのシーンから僕は見ていたけど、そんな人はいなかったよ。ほら入らないと」

6月中旬、梅雨が来る気配もない京都で私は水色の一枚のセーターから不思議な出会い方をした。
一緒に遊んでいたはずなのに、他者から見たら彼女はいない人になってしまった。私にしか見えない親子だったのだろうか?
その後も彼女たちは何者だったのか、私が見たあの風景は何だったのかは東京に帰ったあとも分からなかった。




11/13/2024, 5:58:41 PM

【また会いましょう】

先日、私は用事があったので郷土資料館を訪れた。
知人とここで落ち合う約束をしたのに知人はまだ来る気配や連絡も無かったので私は郷土資料館を観察する事にした。

歩いて行けば行くほど、周りにはその土地の歴史が見えて来て、この土地には昔の事だが馬が沢山いたからか、その馬を捕る様子なんかが描かれていて、あの土地は女性の人骨がいるなんて事が書いてあった。

「あら、久しぶりね」

誰かとすれ違い、気にせずに歩こうとしたところで声をかけられた。誰だか分からず私は振り返る。
ポニーテールの美人か微人な女で、自分がまるで美人だと言いたそうな顔をしているが、この女が美人ではなく微人である事には違いない。
そしてこんな女にも会いたくなかったのにも関わらず会ってしまったことに運の尽きを感じてはいるが、幸いにも知人には会わせなくて済んだ。

「何年ぶりでしょうね」
「そんな事より可愛くないのは変わらないのね」
「そうですか。私は可愛くなくても生きているので」
「そんなのじゃモテないわよ、一生」
「これからありのままを愛してくれる人が来るので」
「そんな人いないわよ。まあ頑張りなさい」
「ああ、そうですか」
「可愛くない。まあまた会いましょう?」
「あなたには会いません」

微人な女は足早に郷土資料館を出て行く。やはり知人には会わせなくて正解だと思った。あの微人な女は大人という立場を利用して、当時小学生の私に色々言っていったのだから。



10/8/2024, 3:52:47 AM

【過ぎた日を想う】

私は三兄妹の中で唯一の女子。三兄弟になるはずが、三兄妹になってしまった原因のひとつで、女の子らしくしなさいと言われて育った。
でも案外良い人間になんてなれなかった。障害というハンデがついてまわり、私は同級生に『障害者』と貶されながら呼ばれ、地域では5年も何かを叫ばれながら貶されていた。大人も子供も全部私の敵で、中学卒業後2年が経過した夏の日に部活の後輩が私に声を掛けてきたが、知らない人間のフリをした。別に良いだろう、仲良くもなかった部活の後輩など知らないフリをしても罪なんて無いはずだ。
そういえば昔、教師が私に『あいつらが楽してるって思ってるでしょ』と言ってきたが、なんで人のことを虐めて楽しんでるゴミと言える人種が大変な思いをしながら生きているなんてどう転んでも間違いに過ぎないだろう、そんなことも分からないのか。まあそうだよな、虐めを遊びやノリと言う意味のわからない無法地帯の住人だもんな。信じた私が馬鹿だったよ。

なんて過ぎた日を想った私は今からスーツケースを持ってどこかに行く事にするよ。こんな人間どこに行っても何も無いはずだから。子犬を引き取って育てようと思ったが障害者の私には無理だろうから諦めるよ。
障害者の私をどうか許しておくれ。

9/8/2024, 9:55:39 AM

【踊るように】

放課後にコンビニでアイスを食べていたら、目の前を小学生が『南初富に馬が出たー!』とか『馬に乗りたい!』と騒ぎながら通り過ぎて行った。今日も平和な一日を過ごしていると実感しながらアイスを食べていると同級生が踊るように走って、こちらに来た。

「鈴木さーん!ねえねえ暇ー?」
「佐藤さん、暇だけど」
「南初富に馬が出たんだって、見に行かない!?」
「良いけど」
「じゃあ、出発〜!」

佐藤さんはそう言うと、さっきと同じように踊るように走っていた。彼女のことはいつも不思議だと思っていたのだが、関わっても関わらなくても不思議だ。

「なんで馬にそんな夢中になれるの?」
「それはね、イケメンに会えるから!」
「は?イケメン?馬じゃなくて?」
「うん、南初富に塩顔イケメンがいるのよ」
「塩顔イケメン……?どんなの?」
「これ。この人がね家のベランダで日向ぼっこしてたのを見た時、刺さっちゃって」
「確かにイケメン……」

写真を見せられ、確かにイケメンだと思った。でも今日いきなり行ってもそのイケメンがいるんだろうか……。とか思っていたら南初富に着いてしまった。
そこには馬がいて、草を食べ続けている小さい馬だった。その横を見るとその男の人は日向ぼっこをしていた。確かに塩顔のイケメンだった。でもタイプでも無いし、別に同級生に着いていっただけなので、面倒くさくなりずっとイケメンを眺めている同級生を置いて帰った。

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