さくら ゆい

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【セーター】

6月中旬、京都芸術センターに行った時の事だった。

初めての京都でワクワクしていた私はどこに行けばいいか分からず、芸術センターの中を歩いていた。
廃校になった小学校を再利用したという歴史がある芸術センターで学校みたいだと思ったけれど、私の知っているコンクリートが続く学校では無かったので嫌な記憶の数々を思い出すこともなかった。
引き続き歩いていると可愛い水色のセーターが落ちていた。小学生くらいのだろうか。無視して歩き続けようと思ったのだが、そういう訳にも行かないので拾って立ち上がると目の前に小学生くらいの女の子がいた。

「で、出たー!」
「お化けじゃないよ!」
「だよね、私霊感ないもん。あ、これあなたの?」
「そうだよ、お姉さんありがとう! ねえ、お姉さんはここに何をしに来たの?」
「どういたしまして、お芝居を観に来たの。って言っても夜に見るんだけど、それまでは行く所が無くて」
「じゃあ私と一緒に遊んでくれる?」
「いいよ」

用も無かったので小学生くらいの女の子と遊ぶことにした。かくれんぼにおにごっこにおままごと……。
誰でも1回は通るような遊びをした後、時計を見ると時刻は18時半。劇場の開場の時間が迫っているので彼女と出入り口で解散しようと思い、彼女を1階の出入口へ連れて行った。

「じゃあ、ここで……」
「葵、何してたの〜!」
「お母さーん!お姉ちゃんと遊んでたの〜!」
「すみません、ありがとうございます」
「あ、いえいえ。葵ちゃんじゃあね!」
「うん、じゃあね!」

葵ちゃんという小学生くらいの女の子はお母さんに手を引かれて帰って行った。私が東京に帰った後も彼女は元気に京都で暮らし続けてくれていると良いなと思っていると誰かに声を掛けられた。

「鈴木さんはさっきから独り言が多いぞ?」
「いるならいると言ってくださいよ!独り言なんて言ってないですよ、だってさっき親子が……!」
「そのシーンから僕は見ていたけど、そんな人はいなかったよ。ほら入らないと」

6月中旬、梅雨が来る気配もない京都で私は水色の一枚のセーターから不思議な出会い方をした。
一緒に遊んでいたはずなのに、他者から見たら彼女はいない人になってしまった。私にしか見えない親子だったのだろうか?
その後も彼女たちは何者だったのか、私が見たあの風景は何だったのかは東京に帰ったあとも分からなかった。




11/25/2024, 12:35:26 PM