俺には大切な友達がいる!
真人(まひと)って言うんだけど、めっちゃ良いやつなんだ!周りは冷たいだの、クールだの、大人しいだの、真人の事をよく知らずに好き勝手言ってんだよ。
マジでそれがムカつく!
なんだよ!ちょっと言い方キツイかもしれないけど、言ってることはまともじゃんか!
まぁ、ちょっと言い方は丸くするようにはした方がいいと思う。でもそれが真人の個性なんだよなー...どうしたら分かってもらえるんだろう。
授業を真剣に聞く顔とか、体育を真顔でやるとか、弁当を静かに食べる顔とか...良いところいっぱいあるんだよ!
問題に正解した時のちょっと嬉しそうな顔とか、俺のボケにちゃんと反応してくれる顔とか、テストでちょーーっと俺より点数高かっただけで『俺はテスト勉強したからな』って言う顔とか!!
ほら!良いところいっぱいあるじゃん!
なんで皆分かってくれないの?
お願いだから、気づいてあげてよ。
ほら。
今も俺が死んだ事を想って泣いてくれてるじゃん。
本当は良いやつなんだよ、ちょっと真面目過ぎるけど。
そんなに泣かなくたっていいじゃん。あれは事故だったんだよ。そもそも真人のせいじゃないし。自分を責めなくていいんだよ。
アイス買ってまで泣くことじゃないだろ、馬鹿真面目。
そんなに泣かれるくらいなら、俺の事なんて忘れていいのに。
真人の一番の理解者じゃなくなることは凄い残念だけど、一番側で見守らせろよ。
でも来世も隣がいいなんて真人が死んでも言ってやんない、恥ずかしいから。
お題 「あなたに届けたい」
出演 陽太 真人
「ねぇ見てこれ!これ拓也(たくや)が見てたドラマじゃない?」
「えっ、マジ?」
俺達は秋の部屋に遊びに集まっている。あと2人は買い出し中。今は秋(あき)に話しかけられてスマホ画面を見ていた。そこには俺が見ていたドラマが映画化するという知らせが載っていた。
「うわっ!マジじゃん!嬉し~」
「これさ、一緒に観に行かない?」
「え?」
俺は急な提案に驚いた。
「いやさ拓也に進められて私も観始めたんだけど、すっごい面白かったから観たいんだよね」
「そう...なんだ」
「あ、ごめん。嫌だった?それとも他の人と行く予定とか...」
「嫌じゃないし、特に一緒に行く人もいないからいいよ」
「本当?やった」
いつにする?と秋と映画を観る計画を立てる。
俺は内心、秋が俺に侵食されているって言ったら気持ち悪いけど染まっている気がして嬉しい。
「おーい聞いてる?」
「ん?ちゃんと聞いてるよ。土曜日の10時駅前でしょ?」
「...よく聞いてたね、拓也にしては珍しい......」
「いつもちゃんと聞いてるよ!いつも聞いてないみたいじゃんか!」
「え~だってー」
あー...こうやって、俺の事だけを考えていてほしい。俺だけを見てほしい。俺を...
「...秋」
「何?」
「俺さ、秋の事」
「ただいま~!雪見だいふく買ってきたよぉ~!」
ガチャッ、と扉を開けて2人は入ってきた。なんというタイミングだ。
「見て見て秋~雪見だいふくの買い占め~」
「4つで買い占めって言うのかな...(笑)」
「甘いなぁ秋。雪見だいふくを4つ買ったら、8つになるんだよ?だから買い占め」
「葉瀬(ようせ)ちゃんの理論はいまいちわかんないねぇ」
「なんでだよ~」
葉瀬は楽しそうに秋に話しかけている。
その様子を見ていると玲人(れいと)が隣に座った。
「俺さ...グリコで負けてお姫様扱いされて帰ってきたんだけど...」
「ちょっと状況がいまいちわからない」
「コンビニ行く時にグリコしたんだよ......そしたら負けちゃって!何でも言うこと聞く約束してたからお姫様扱いされちゃった...」
俺がお姫様扱いしたかったのに...という独り言は聞かなかったことにしておこう。あと具体的には聞かない。長くなるから。
「あ、そういえばさ葉瀬ちゃん、玲人さん。土曜日って空いてる?」
秋が2人にそう問いかける。俺は嫌な予感がした。
「えー?何で?」
「さっき拓也と映画行く話してたんだけど、どうせなら皆で行きたいなって!」
やっぱりか...!
もしかしたらそうなるかも、と考えてはいたがまさか本当にそうなるとは!お願いだから葉瀬、予定あってくれ...!
「おー!...うん!いいよ!特にないと思うし...」
「ちょっと」
言いかけた所で玲人が口を開く。
「...土曜は葉瀬と先に違う約束してるから、一緒に行けない。ごめんね、2人で行ってきなよ」
「え?約束............あ、あー!本当だごめん秋!予定有ったんだったー!!」
「そっかー...残念だけど、映画は2人で観てくるね!」
「うん!感想教えてね!」
俺は2人のぎこちなさを見て、ガッツポーズと感謝を心の中でした。
「じゃあ私達お茶取ってくる~玲人手伝ってー」
「...人使い荒いなぁ」
そう言いながら2人はキッチンへ消えていく。
「残念だったなー......あ」
「え、何?」
「そういえばさっき何言いかけてたの?私が何って?」
「えっ...と...」
俺は秋の事が。
「...秋の“言葉遣い”が綺麗だなーって!!」
「え、何それ」
「ほら!小説とかよく読んでるから言葉遣いが綺麗なんだよ!そう言いたかっただけ!」
「ふーん...そっか、ありがとう」
秋は少し考えるような動きをしたが、悟られてはいないらしい。良かった。
いつか、この言葉の続きが言えたらな。
これは、俺達が付き合うちょっと前の話。
お題 「I LOVE...」
出演 拓也 秋 葉瀬 玲人
ビルの縁に座り、足をぶらぶらとさせていた。
ここから全体がよく見える。絶景だ。
「何してるの、グラッツィ...」
声のする方を向くと、黒い片羽に綺麗なレースのドレスを身に纏った堕天使レリーレがいた。
「何って、アレを見ていただけよ?」
私はそう言って下の方を指差す。
ゾンビやら魔女、吸血鬼に狼男達がうじゃうじゃいた。
「今日ハロウィーンなんですって」
「......えっと...だから...?」
「パーティーよ、パーティー」
「...?」
「貴方察しが悪いわね。人一人消えても気づかれないって事よ」
レリーレは驚いた様に目を見開いた。
「そんな......駄目だよ...!勝手に人の命を奪っちゃ...」
「あら?貴方もその気で来たんじゃないの?ご丁寧に弓矢も新調しちゃって」
レリーレの右手がぴくり、と反応する。
「何か...問題でも...?」
先程の弱々しい表情は何処へ行ったのか、鋭い視線を向けていきなり弓を構えてきた。
「あらあら、そんな顔しなくても私は横取りなんてしないわよ。それに私は不死身よ?そんな平凡なものじゃ私は死なないわ」
「...かの有名なグリーンアイドモンスターは悪魔祓いの儀式で消滅すると聞いた......私は元天使、悪魔祓いに似た方法ならあるよ」
「だから私は貴方の邪魔なんてしないわよ。それに貴方、もう天使ではないのでしょう?私が止める理由もないわ」
「.........」
「早く行かなくていいの?日が暮れちゃうわよ。ハロウィーンは一日きりなんだから」
そこまで言うと、レリーレは弓を下ろした。
「...私は他の所で狩ることにする......さよなら...」
そう言って羽を伸ばして飛んで行ってしまった。
「......ふぅ、中々面倒だったわねあの坊や。まぁいいわ。さて」
私は再び下に視線を戻す。そして
「楽しみだわ」
立ち上がり、空を見上げる。
さぁ、街へ行こう。
お題 「街へ」
出演 グラッツィ レリーレ
優しい人は怒ると怖いとよく聞く。ストッパーが一気に外れるからだと。よくわからない所でバチン、てくるんだ。
優しいから大丈夫、許してくれるって思っちゃうんだよ。
コイツだって、そうだと思ってた。
右手に破れたクッションを握って、こっちを睨み付けている。さっき取っ組み合った時に破れた。
足元には羽が散らばっている。
「...俺、出てくから」
「おいおい待てよ...馬鹿も休み休みしろよな」
「こっちは本気だ......冗談じゃねぇよ!!」
目尻の上がった鋭い硝子から、光がぽろぽろ落ちている。
「い...いやいやいや、そんなこと言ったってお前行くとこねぇだろ?」
「...半同棲」
「は?」
「実(みのる)が言ったんだろ...半同棲がいいって......」
そうだ。俺は家にコイツがいると女の子を連れてこられないから、半同棲にしようって持ちかけたんだ。だからコイツには...帰る家がある。
「......俺は自分の家に帰るだけだから。もう二度と連絡してくんな」
「おい...お前俺がいなきゃ何も出来ねぇだろ?なぁ?!ちょっと待てよ!おい!」
「じゃあな、実」
何か言いたそうにこちらを向く。そして、
「......俺のこと...一回でも良いから、名前で呼んでほしかった」
そう言ってそのまま出ていった。
...そうだ、アイツの名前...
俺は最初からアイツを「お前」呼びしていた、そのせいでどんな名前だったか忘れてしまった。
メールの名前も「セフレ男」だった。
だから思い出せない。
俺は追いかける気にもなれなくて、腹を満たすために冷蔵庫を開ける。
そこには、ケーキやらチキンやら豪華な食事が入っていた。
昨日は俺とアイツの付き合って一年記念日だったらしい。お祝いしたいだとか早めに帰ってきてほしいだとか言っていた。
それを俺は適応に流した。いつも通り遊んで、そこら辺の女の子の家に泊まった。
帰ったのは今日の夜。アイツはテレビも電気も点けずにソファに座っていた。
そして
「別れよう」
そう言った。
アイツは俺がどれだけ我が儘を言っても、女の子と遊んでも、朝帰りならぬ夜帰りをしても怒らない。その上、料理、洗濯、掃除、全部してくれた。勿論、夜の方も。
いい家政夫だと思ったのに。
あんなちっぽけな事でキレるなんて馬鹿みたいだ。
でもあれだけ俺の事を好きだったんだ。きっとすぐに戻ってくる、そう思ってた。
アイツは一日、一週間、一ヶ月経っても戻ってこなかった。
俺はアイツの住所を知らない。だから連れ戻せない。
「チッ...」
俺は何が駄目だったんだ?何で怒らせた?早く帰ってこなかった事か?女の子と遊んでたからか?名前を忘れてたからか?
わからない。
もうアイツがいないから、俺は何も出来ない。
あの日、取っ組み合いになって千切れたクッションから飛び出してきた羽が、まるで雪のようだった。
...そうだ。
「アイツの名前......雪(ゆき)だ...」
本当に何も出来なかったのは、俺の方だった。
題名 「優しさ」
出演 実 雪
夜。ベランダでぽつぽつと見える明かりをぼんやりと眺めていた。
片手に、白く細長い大人しか吸えないようなものを時々口に咥える。
実は今日、仕事でミスをした。小さなミスだったが、滅多にしないものだったため、少し落ち込んだ。そして、その憂鬱な気分をぼかすためにこうして外にいる。
「......葉瀬(ようせ)...?」
私は振り返る。眠い目を擦りながら玲人(れいと)はそこに立っていた。
「ごめん、起こしちゃった?」
「ううん...」
玲人はゆっくり歩いて、隣に来た。
「...葉瀬ってさ、吸ってたんだね」
「え?あ、これの事?」
私は右手に持っていたこれを玲人に見せた。
「玲人も欲しいの?あげる。美味しいよ」
「え、いらなi」
「いーからいーから」
私は自分のを口に咥えながら、器用にもう1本取り出す。
「ほひ(ほい)」
私は玲人の手に直接渡した。
「......」
「ふぁお......それ吸うんじゃなくて、舐めるの。ほら貸してみ」
私は玲人に渡したはずのそれを手に取り、ぺりぺりと紙を捲る。
真っ白く小さなチョークよりも細い棒が出てきた。
「あれ?それ煙草じゃ...」
「ふぉふぉあふぃあれっふぉ」
「何て?」
「ココアシガレット」
私がそう言うと豆鉄砲を食らった鳩の様な顔をした。
「......は?ココアシガレット?煙草じゃないの?」
「私、煙草吸えないもん。それに吸ってるなんて言ってない」
「はぁ?」
玲人は明らかにイラッとした顔をした。なんとなくその顔が面白くて、からかってみて良かったなぁ~、なんて事を考えてにやけた。
「何にやけてんの?キモッ」
「えー!ひどーい!玲人可愛いなぁって思っただけだよぉ!」
「更にキモさが増した」
「ガーン!!ショックだわぁ!!」
私はオーバーリアクションで会話を返す。
ガリガリとココアシガレットを噛り始めた。
「ん......甘さ控えめだね...」
独り言のように呟く。彼は何か思ったのか、こちらを向いた。
「葉瀬、今日何かあった?」
あまりにも直球過ぎて、手が一瞬止まってしまった。これでは図星だと言っているようなものだ。
「...へへっ」
「図星かよ」
なんでそんなに分かるんだろう?凄いな、スペックか?
「葉瀬、俺の前では無理して笑わなくていいんだよ」
なんとなく、胸にじわっと来た気がした。そして、玲人はココアシガレットを咥えた。
「......玲人」
「ん?」
「......撫でて」
私は少し屈んでで玲人に頭を向けた。
少し、沈黙が流れる。
恥ずかしくなって頭を上げようとすると玲人がガシッ、と頭を掴んで撫でてきた。
最初はわしゃわしゃされていたが、次第に愛でるような手つきへと変化していった。
「いい子だよ葉瀬。いつも頑張ってて偉いね」
「......本当に?」
「うん。偉い。葉瀬凄いよ」
「...ふふ、へへっ...」
私は段々と温かい気持ちになっていった。胸がぽかぽかする。玲人の甘やかしって本当、砂糖山盛り並みだよね。そういうの好きだよ。嬉しいし、私は私でいいんだって思えるよ、ありがとう。
心の中で感謝した。
「フッ...フェックシュッ...!」
長い間ベランダにいたせいで身体はすっかり冷えてしまっていた。
「大丈夫?寒い?」
「...大丈夫...はやく布団入ろ......葉瀬が温めて...」
「うん、じゃあ私も玲人で暖取っちゃお~」
「俺そんなに温かくないけど...」
「私にとっては暖です~」
そろそろ寒くなってきたから流石に入る事にした。
「玲人」
「ん?」
部屋に入ろうとする玲人を呼び止める。そして、
「ありがとう。玲人大好きだよ」
そう感謝した。
玲人が、俺も...と赤くなっているのがとても愛おしい。
そして私は部屋に戻る前に、夜の空にありがとうを流した。
お題 「ミッドナイト」
出演 葉瀬 玲人