夜。ベランダでぽつぽつと見える明かりをぼんやりと眺めていた。
片手に、白く細長い大人しか吸えないようなものを時々口に咥える。
実は今日、仕事でミスをした。小さなミスだったが、滅多にしないものだったため、少し落ち込んだ。そして、その憂鬱な気分をぼかすためにこうして外にいる。
「......葉瀬(ようせ)...?」
私は振り返る。眠い目を擦りながら玲人(れいと)はそこに立っていた。
「ごめん、起こしちゃった?」
「ううん...」
玲人はゆっくり歩いて、隣に来た。
「...葉瀬ってさ、吸ってたんだね」
「え?あ、これの事?」
私は右手に持っていたこれを玲人に見せた。
「玲人も欲しいの?あげる。美味しいよ」
「え、いらなi」
「いーからいーから」
私は自分のを口に咥えながら、器用にもう1本取り出す。
「ほひ(ほい)」
私は玲人の手に直接渡した。
「......」
「ふぁお......それ吸うんじゃなくて、舐めるの。ほら貸してみ」
私は玲人に渡したはずのそれを手に取り、ぺりぺりと紙を捲る。
真っ白く小さなチョークよりも細い棒が出てきた。
「あれ?それ煙草じゃ...」
「ふぉふぉあふぃあれっふぉ」
「何て?」
「ココアシガレット」
私がそう言うと豆鉄砲を食らった鳩の様な顔をした。
「......は?ココアシガレット?煙草じゃないの?」
「私、煙草吸えないもん。それに吸ってるなんて言ってない」
「はぁ?」
玲人は明らかにイラッとした顔をした。なんとなくその顔が面白くて、からかってみて良かったなぁ~、なんて事を考えてにやけた。
「何にやけてんの?キモッ」
「えー!ひどーい!玲人可愛いなぁって思っただけだよぉ!」
「更にキモさが増した」
「ガーン!!ショックだわぁ!!」
私はオーバーリアクションで会話を返す。
ガリガリとココアシガレットを噛り始めた。
「ん......甘さ控えめだね...」
独り言のように呟く。彼は何か思ったのか、こちらを向いた。
「葉瀬、今日何かあった?」
あまりにも直球過ぎて、手が一瞬止まってしまった。これでは図星だと言っているようなものだ。
「...へへっ」
「図星かよ」
なんでそんなに分かるんだろう?凄いな、スペックか?
「葉瀬、俺の前では無理して笑わなくていいんだよ」
なんとなく、胸にじわっと来た気がした。そして、玲人はココアシガレットを咥えた。
「......玲人」
「ん?」
「......撫でて」
私は少し屈んでで玲人に頭を向けた。
少し、沈黙が流れる。
恥ずかしくなって頭を上げようとすると玲人がガシッ、と頭を掴んで撫でてきた。
最初はわしゃわしゃされていたが、次第に愛でるような手つきへと変化していった。
「いい子だよ葉瀬。いつも頑張ってて偉いね」
「......本当に?」
「うん。偉い。葉瀬凄いよ」
「...ふふ、へへっ...」
私は段々と温かい気持ちになっていった。胸がぽかぽかする。玲人の甘やかしって本当、砂糖山盛り並みだよね。そういうの好きだよ。嬉しいし、私は私でいいんだって思えるよ、ありがとう。
心の中で感謝した。
「フッ...フェックシュッ...!」
長い間ベランダにいたせいで身体はすっかり冷えてしまっていた。
「大丈夫?寒い?」
「...大丈夫...はやく布団入ろ......葉瀬が温めて...」
「うん、じゃあ私も玲人で暖取っちゃお~」
「俺そんなに温かくないけど...」
「私にとっては暖です~」
そろそろ寒くなってきたから流石に入る事にした。
「玲人」
「ん?」
部屋に入ろうとする玲人を呼び止める。そして、
「ありがとう。玲人大好きだよ」
そう感謝した。
玲人が、俺も...と赤くなっているのがとても愛おしい。
そして私は部屋に戻る前に、夜の空にありがとうを流した。
お題 「ミッドナイト」
出演 葉瀬 玲人
1/26/2024, 3:57:19 PM