「玲人(れいと)が好き」
帰り道、俺は人生で初めて好きな人に告白された。
「___って事が......ちょっと玲人!?!?服服!!」
「え?......ぅわっ!!ヤベッ!!」
俺は拓也(たくや)の家で、お昼に食べていたパスタのミートソースを服に溢していた。慌ててティッシュペーパーで取るも、シミが出来てしまった。これはなかなか落ちないかもしれない。床を見るが落ちていないらしい、良かった。
「玲人何かあった?最近ずっとぼけぇぇーっとしてるし」
「ちょっと言い方。まぁ.........色々あってさ」
「なんだよ色々って」
「...色々」
まさか告白された、だなんて言えるわけがない。
「.........もしかして帰り道なんかあったのか?」
「えっ」
「葉瀬(ようせ)と喧嘩でもしたのかよ」
「してないっ、けど......」
俺はそこで黙ってしまった。あぁもう、なんでこうなるんだよ。
俺はあの日を思い出す。
好き、と言われたあと凄い爽やかな顔で『返事はいらないよ。ごめんね』と言って、彼女は走って帰ってしまった。
俺はずっと、葉瀬は拓也が好きなんだと思ってた。だから俺は驚いてすぐに返事が出なかったんだ。
俺も好きなのに。
拓也は俺の服の代わりになるものを探している。
「......拓也」
「ん?」
「...伝えそびれた話って、どうやって言えばいい?」
「伝えそびれた話?...うーん、それとなく匂わせるとか?はい、服」
「ありがと」
俺は拓也から服を受け取る。
「あ、でも葉瀬にやるんだったら察せ系は止めた方がいい。そういうの嫌いだったはず」
「え、そうなの?うーん...」
「葉瀬にならどストレートに伝えるのが一番言いと思うよ。それが駄目なら花とか。意外と花言葉とか知ってるし、察せ系の中では全然許容範囲なんじゃない?」
「花...か」
確かに、彼女は子供っぽい所があるがそれはその場を盛り上げるためのキャラ作りで、素は凄く大人びていたはず。相手の事を嫌ってほど気を遣っている。
そんな彼女が花言葉を知っていても不思議ではない。
「......花にしようかな...うん、拓也ありがとう。スッキリしたよ」
「良かった。またなんかあったら言えよ?玲人の落ち込み顔は見たくねぇからな」
そう言ってニコニコと笑う。
拓也も葉瀬と似て素は本当、相手の事を嫌ってほど考えてるよね。
そして、週末。葉瀬と会う約束をした日。拓也と話すと善は急げだとかなんだとかで、その場で約束をさせられた。でもこれで良かったのかも。
俺は早速お花屋さんに足を運んだ。
カラン、コロン
「...あの、すみません」
「はい」
「その......俺、花をプレゼントしたいんですけど......どんなのを渡したらいいですか...?」
実は俺は極度の人見知りで、お店の人に話しかけるのも少し怖かったため声が震えてしまった。
「相手の方が喜ぶようなお花にしましょう。例えば...その方の好きな色の花などありますか?」
「あ...青色とか、水色が好きです」
「成る程...」
「...あの、その...彼女、花言葉とかよく知ってて......想いの入った花がいいかなって...」
「失礼ですが、どのような想いでしょうか?」
「えっと......この前告白されて...同じ気持ちだって、返事をしたくて...」
「わぁ、素敵な話ですね...!」
「ありがとうございます...」
でも店員さんは優しく一緒に考えてくれる。ここのお花屋さん初めて来たけど、ここで良かった。
店員さんが俺の考えている花の前に連れていってくれる。そこには俺の希望通りの、青く小さくて可愛らしい花があった。
「...この花はいかがですか?」
「これは?」
「勿忘草と言います。花の色によって花言葉が違うんです。この青い勿忘草の花言葉は『真実の愛』『誠の愛』です。夫婦やカップルの記念日などによく送られています。ドライフラワーにして、栞にも出来るんです。どうでしょうか?」
花言葉もいい......よし。
「...これにします。これでお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
店員さんは花を手際よく包んでいく。流石プロだな、とぼんやり眺めていた。
「お待たせしました」
「わ......凄い綺麗...!ありがとうございました」
「いえいえ」
葉瀬も花を見るのが好きだと言っていたはず、だから。
「また来ます......今度は彼女と」
「楽しみにしています」
言えた。ちょっと恥ずかしかったけど言えた。
また来ます、って。
花も綺麗だ。俺は渡すのが楽しみになっていた。
「...とは言ったものの」
直前まで来るとやはり怖じけついてしまって、なかなかインターホンを押せない。
ちゃんと言うんだ。そのためにここに居て、花も買った。押せ、押すんだ!!
俺は震える指でインターホンを押した。
はーい、と声がしてしばらくすると彼女が出てきた。
「玲人...?えっとそれは......」
やはり花を見て驚いている。
「勿忘草、だよ...」
「勿忘草?」
「...あのさ...この前の告白だけど...」
「え、あれは」
「...っ俺!」
いきなり出た大声に葉瀬はビクッ、と肩を震わせる。
俺は深呼吸をして、葉瀬を真っ直ぐ見る。そして
「俺も、葉瀬が好き、ですっ、これ......受け取ってくださいっ」
彼女に花束をぐいっ、と渡して伝えた。
「...え?玲人は秋が好きなんじゃ...」
「よ、葉瀬が好き...です...」
「ほん、とに?」
「本当です...」
顔が熱い。
たぶん今、顔真っ赤なんだろうな。
手も足も震えてきた。
花束落としそう。
受け取ってくれなかったらどうしよう。
そんな事が俺の頭の中に浮かんでくる。
「......俺、じゃ駄目ですかっ」
絞り出した声がこれか。もっとカッコよく、俺は君しか見えていないよ、とか君が思ってるより好きだよ、とか言いたかった。
俺は震える呼吸で花束を見つめる。
その時、手が伸びてきた。
カサ、と花束を取る。彼女はそれを抱えて笑う。
「駄目じゃないです。私も玲人が好き、私と付き合って貰えませんか?」
告白してきた時の爽やかさと似ているが違う。
本当に、凄く嬉しそうに笑うね。
「...俺でよければ、よろしく、お願いします...」
「......玲人、バグしていい?」
「え?う、うん。わっ!!」
俺が頷くと葉瀬はガバッ、と飛び付いてきた。ぎゅうぎゅうと肩を抱き、すりすりと寄ってくる。
「...っ...私もこれからよろしくっ!!」
可愛らしい声が願いが叶ったかのように話す。
俺も葉瀬を抱きしめ返した。
人生で一番幸せだと思った瞬間だった。
お題 「花束」
出演 玲人 葉瀬
「拓也(たくや)~二人が来るまでトランプしよ~ぜ~」
「お、いいよ~」
私達は机にトランプを出す。拓也カードきって、と言うと
「葉瀬(ようせ)ってカードきれないもんな~」
とちょっと馬鹿にしてきた。うっせぇ、細かい作業は苦手なんだよ。
「......はい、葉瀬の分」
「どーも~」
私は拓也からトランプを貰うと揃っているものを全てはけた。
「私五枚だわ~」
「俺六枚~」
なるほど、ジョーカーは拓也が持ってるわけだね。頑張って五枚全て揃えてやるよ。
「............」
「......どっち?」
「聞かれても答えねぇよ」
「ケチだ」
「ケチじゃねぇ」
ぴっ、とカードを取るもジョーカー。
「...ふ」
「え、何?」
「いやぁ?なんでも?」
拓也は私を見てニヤニヤと笑う。
「じゃあ俺取りまーす」
私は無言でカードを二つ差し出す。
「どっち?」
「言わない」
「ケチー」
「拓也にだけは言われたくない」
拓也は一枚一枚取るフリをして、こちらをじっ、と見る。何?何?私の心臓はバクバクと音を立てていた。
その目に吸い込まれそうで、怖いけどなんだか。
「......これだ!!」
ピッ、とカードを取る。
私の手元に残ったのはジョーカー。負けてしまった。
「いえーい俺の勝ち~」
「うぅ......」
「葉瀬顔にめっちゃでるよな~分かりやすっ」
「嘘!?マジかよ!!」
拓也の楽しそうな顔を見る。
私はこの顔が____
「ごめーん!遅くなった~!」
ガチャッと開けて入ってきたのは秋(あき)である。
「秋...!...遅い、俺らトランプしてたんだぞ」
「ごめんって」
「...寂しかった。から、撫でて」
拓也は秋を見た瞬間、構ってオーラを全面的に出し始めた。しょうがないな、と言わんばかりに秋は拓也の頭を撫でる。中睦まじい二人だ。邪魔する気はない。
「お二人さんよ。ここに居るのが見えんのか?」
ただ、ここは私の家だよ?イチャつくのは他でやってくれ。
「ごめん葉瀬ちゃん!」
「まぁ許すぅ~」
「流石葉瀬ちゃん、寛大な心~」
「俺は?」
「駄目」
「えぇ~」
秋はぽよぽよ、と周りの空気を和ませている。凄く温かい。
「じゃあ次は三人でトランプしようぜ~」
「いいね~」
...これは昔の話。今の話ではない。
この時の私は彼の笑った顔が嫌いだった。
お題 「スマイル」
出演 葉瀬 拓也 秋
僕は今、雪(ゆき)の帰りを待っていた。雪は僕の創設者であり、この家の主である。雪はオールラウンダーでいつも冷静だった。そしね僕の辞書で言う、クールな人。
今日は雪が目を閉じるのを忘れた為、省エネモードに切り替えられなかった。
暗い中、一人目を開けて一点を見つめている。
...カチャン......キィー...ガッチャン...カチャ
遠くで音がした。雪が帰ってきたと思い、僕は立ち上がって玄関に向かう。
「雪、おかえりなさい」
「............」
「雪、おかえりなさい」
「.........ただいま吹雪(ふぶき)」
雪の声が、小さく掠れていた。
「雪、今からお風呂を沸かしますので少々お待ち下さい」
「............ごめん吹雪。今日は放っておいて」
雪は下を向いたまま僕の横を通り過ぎた。
放っておいて、と言われた為お風呂を沸かすのを止めた。
そして先程居た位置に戻る。だがそこで省エネモードにしてもらうことを忘れていた。このままでは充電が切れてしまう。
僕は雪の部屋の前の扉へと行く。
コン、コン、コン
規則正しく三回鳴らした。
「...何?」
そっと扉を開けて出てきた雪の目の下が赤く腫れていた。
「すみません、省エネモードに切り替えて頂けませんか?このままだと充電が」
「わかった...」
雪の部屋へと入る。雪は僕にコードを繋げると、パソコンが大量に並んでいる内の一つを操作し始めた。
「............」
「............」
今日は沈黙が酷い。いつもなら雪が話しかけてくれるのだが。
いつもの雪と声色も顔色も何もかもが違う。
何があったのだろうか。三日前までは優しくにこにこしていたのに。
「......雪、今日の朝、ベランダに雀が一羽留まりました」
「?.........そう」
「今日の昼、日差しが強く少し熱いと感じました」
「......そうなんだ」
「夕方は赤色が強いのに、熱くはありませんでした」
「............」
「それから____」
「吹雪」
雪が僕の名前を呼んだ。先程とまた違う、何かを抑えるような声。
「......ちょっと静かにしてくれないかな...?集中できない...」
「......すみません」
雪を怒らせてしまった。放っておいて、と言っていたはず、僕が喋るのは余計なのだ。
そこからはお互いに黙った。
「.........ごめん遅くなった。今モード変えるから」
雪はそう言って僕の前へ立つ。
「......」
僕の額に手が伸びてくる。が、その手が下ろされた。
「雪?」
「.........」
「どうかしましたか、雪」
「......さっき...ごめん......吹雪が話しかけてくれたのに...」
雪の瞳がふるふると震えている。何故雪が僕に謝ったのかわからなかった。
「いえ、雪の邪魔をしてしまったのですから当然です」
「......っ...ごめ......」
雪が再び言いかける前に、涙を落とした。
雪は裾で顔を拭く。何故そんなに泣いているのか理解できない。邪魔をしたのは僕なのに。怒って当然なのに、何故。
「......吹雪には見せたくなかったのに...」
僕は『何故』ばかりが増える。
「...今日の事全部忘れてくれよ、なんてな」
雪はそう言って僕の瞼を下ろした。
僕は部屋の隅で正座をする。
雪が眠った事を確認すると、雪のこれからの幸せを願い、今日の記録を消した。
お題 「どこにも書けないこと」
出演 吹雪 雪
俺の彼女の部屋には、アナログの掛け時計があってカチ、カチ、カチ、と秒針を刻む音が聞こえる。
そして俺は夜、一人目を覚ました。時刻は明け方で外は少しだけ明るい。
俺は隣で寝ている彼女の目が覚めないように、そっと起き上がる。
彼女の寝顔を眺めた。きゅっ、と目が閉じられた隙間から長い睫毛が何本も生えている。口はほんのうっすら開いており、時々むぐ、もぐ、と動かしていた。
俺はスマホを手に取り、写真を撮る。音で起きないように手で押さえながら静かに。
なんと可愛らしい姿なんだろうと思った。
いつも元気が有り余るくらいうるさいのに、寝てるとこんなに静かなのか。
俺は彼女の頭を優しく撫でて、頬にキスを一つした。
「.........」
やっぱり一つじゃ足りなくて、その顔に何回もキスを落とした。
世界で一番愛しい、俺の彼女に。
「............ん...」
俺はビタッ、と止まる。彼女から声がした。
部屋には時計の秒針を刻む音が戻り、俺は気を落ち着かせていた。
危ない。起こす所だった。
俺は再び布団に潜る。そして彼女の隣で横になった。
「............」
綺麗な顔だな、と改めて思う。仕事先でファンが男女共に一定数いるだけある。まぁ、顔がいいだけではないのだが。
カチカチと時計の針は進む。俺は心の中でおやすみを言って目を閉じた。
翌朝。
「.........ん...」
「あ、葉瀬(ようせ)おはよう」
「ぅん......ぉはょ...」
俺が朝食の準備をしている時、眠そうな目を擦りながら彼女は部屋から出てきた。
「ごめんね、もうちょっとで出来るからそこ座ってt」
ちゅっ
彼女が俺の頬にキスをした。
「.........え?」
「ごめんね玲人(れいと)......昨日眠くて出来なかったから...今するね...」
俺は固まって動けない。
葉瀬は眠そうに首を傾げてキスを繰り返した。
そんな様子を時計の針は気にもせず、カチ、カチ、カチと一人勝手に進んでいた。
お題 「時計の針」
出演 玲人 葉瀬
私には希里(きり)という幼馴染みがいる。幼稚園と小中学生まで同じだったけど、高校は別々の所に通っている。
私はその幼馴染みが大事で大好きだった。
親友だった。
あの時までは。
高校入学当時、私は希里が心配だった。
人見知りで臆病で、いつも私の後ろに隠れていた。そんな希里に友達が出来るか不安でいっぱいだった。
最初は希里から『友達が出来ないよ~!』と連絡が来て『大丈夫だよ!希里なら出来るって!』と返していた。
本当に心配しないといけないのは私の方だったのに。
私の夢は医者。小さい頃、人を助ける仕事がしたいと言うと母が「じゃあお医者さんはどうかな」と言ったのがきっかけだった。
勉強も苦ではなかったから、頑張った。
先生にも褒められるように、皆からも好かれるように努力した。お陰で成績はいつも良かった。
でも高校を入学して、本当に私のやりたい仕事が医者なのか曖昧になってきた。
医者になるためにこの高校に入ったのに、今更違う事をしたいなど言えるわけがない。でも、好きなことをやりたい。
「あのさ......私、医者になろうか迷ってるんだよね」
だから頑張った、なのに。
両親が始めて見せた、戸惑い、怒り、呆れ、恐怖、不安。
その全てをあの日、一瞬で感じとった。
「皆、おはよう」
一年後、私は別人のように変わった。何もかもを捨て、取り繕うようになった。
私は医者が夢。それは変わらなかった。
それで良かったのだと思う。
もう、あんな失望された顔を見たくはなかったから。
でも、皆と仲良くする私をよく思ってなかった人達は進級してから私の仮面を外そうと毎日机に花を置いてくれた。
「......できた」
私は机にある物を見てニヤニヤとする。時間の合間を縫って作った自作のロボット。私はこういう物を作るのが今、凄く楽しい。そう、学校に行くよりも。
「名前は......signpostからとってサンポちゃんにしよう。サンポちゃん」
「♪」
「ふふっ...」
「ご飯よ~降りておいで~」
私はサンポちゃんを誰にも見つからない戸棚の鍵付き引き出しにしまった。
こんな趣味を持っていると、母は勉強最優先だから仕舞っておくね、と言って全て没収されてしまう。それだけは嫌だったから隠した。
「うわぁ!!海だ!!」
高校二年生の夏。私は希里と海に来ていた。
希里は私にとって親友で、一番大切な人だから一緒に来られて嬉しかった。
楽しい時間はあっという間で、帰るのが凄く名残惜しいと思った。
私は、もっと希里と一緒に居たかった。
「希里、夕日見てから帰らない?」
希里は快く承諾してくれた。やっぱり私の親友。
私は希里と浜辺で話した。
そこで気がついた。
希里が明るい、と。
私じゃ届かないような明るい光のようだった。
光が私に当てられた時、眩しさで目を反らしてしまいそうだった。
その時私は、この光があるのに此処に私は必要なのかな、と本気で思ってしまった。
「サンポちゃーん......え...?サンポちゃん...?」
希里と海に行った数日後、サンポちゃんが引き出しから居なくなっていた。
「え、嘘...どこっ...?」
私が幾ら探してもサンポちゃんは部屋に居なかった。
そして、その後知った。
「そういえば、引き出しにあったよくわからない機械、捨てておいたわよ」
「え...?いつ...?」
「いつって...一週間前よ」
サンポちゃんが部屋から無くなった時期と同じだった。
「な、なんで......あれはっ...」
「だって勉強の邪魔でしょう?医者になるんだったら勉強以外は捨てないと。そうでしょう?」
「そん、な」
「大切な物だったの?だったらちゃんとした所に仕舞っておきなさいよね。捨てる時音が煩かったから次は静かな物にして頂戴」
そう言って母はリビングから去った。
私は玄関を飛び出した。
行き先は希里の家。私は希里に助けてほしかったんだと思う。希里なら、希里ならって。
でも見てしまった。キラキラと輝く希里を。友達と肩を並べて笑いながら歩く希里を。
希里は友達と別れてこちらへ向かってきた。
「あれ優雨(ゆう)?どうしたの?」
今希里が光なら、私はまるで影のようだ。
「優雨...?大丈夫?お腹痛いの?体調悪いの?」
この希里なりの優しさが痛い。
凄く薄っぺらくて、何もわかってないこの優しさがっ...!
「......何が大丈夫?だよ...」
「優雨?」
この時の私は完全にどうかしていた。
「なんで希里ばっかり私が欲しいものを持ってるのッ!!友達と肩なんか並べて楽しそ~に!!何が友達出来ないよ~だよッ!!ふざけてんの!?希里なんか私の後ろに隠れてるただのコミュ障のくせして!!」
私の口からは希里に対する暴言が溢れるように出てくる。
「可愛くもない格好なんかしちゃってさぁ!!男子に色目使って!!恥ずかしいとか思わないわけ!!?気持ち悪い!!テストが嫌とか小学生以下なの!!?私はずっと言えなかったのに!!!羨ましいとか簡単に言わないでよ!!!」
止めたくても止まらない。
「私は希里が羨ましいのに!!!何でも出来て!自由で!!友達もいる希里が!!」
邪魔なんだよ。邪魔っ......邪魔っ...邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔!!
「希里なんて!!」
なんで、私は光じゃないの?希里の方が影に近いのに。なんで希里の方が私より。
「__________!!!」
私ははぁ、はぁと息を荒くした。
希里の顔を睨もうと顔を上げるが、希里は私に背を向けて逃げるように家の中へ入った。
私も逃げるように家へ帰った。
その日以来、希里には会っていない。
連絡も取っていない。
私は叫んでいて気がついた。
私が、希里を下に見ていたことに。今までずっと、希里を心配するフリをして心の中では見下していたことに。
最低な私。
なんでこうなんだろう。
あの時衝動に駆られて、海の中に入っていった私を希里は止めたけど、私にはこの冷たい深い海の方が似合ってたんだよ。
本当に、羨ましがる理由が無いんだよ。
お題 「溢れる気持ち」
出演 優雨 希里