俺の彼女の部屋には、アナログの掛け時計があってカチ、カチ、カチ、と秒針を刻む音が聞こえる。
そして俺は夜、一人目を覚ました。時刻は明け方で外は少しだけ明るい。
俺は隣で寝ている彼女の目が覚めないように、そっと起き上がる。
彼女の寝顔を眺めた。きゅっ、と目が閉じられた隙間から長い睫毛が何本も生えている。口はほんのうっすら開いており、時々むぐ、もぐ、と動かしていた。
俺はスマホを手に取り、写真を撮る。音で起きないように手で押さえながら静かに。
なんと可愛らしい姿なんだろうと思った。
いつも元気が有り余るくらいうるさいのに、寝てるとこんなに静かなのか。
俺は彼女の頭を優しく撫でて、頬にキスを一つした。
「.........」
やっぱり一つじゃ足りなくて、その顔に何回もキスを落とした。
世界で一番愛しい、俺の彼女に。
「............ん...」
俺はビタッ、と止まる。彼女から声がした。
部屋には時計の秒針を刻む音が戻り、俺は気を落ち着かせていた。
危ない。起こす所だった。
俺は再び布団に潜る。そして彼女の隣で横になった。
「............」
綺麗な顔だな、と改めて思う。仕事先でファンが男女共に一定数いるだけある。まぁ、顔がいいだけではないのだが。
カチカチと時計の針は進む。俺は心の中でおやすみを言って目を閉じた。
翌朝。
「.........ん...」
「あ、葉瀬(ようせ)おはよう」
「ぅん......ぉはょ...」
俺が朝食の準備をしている時、眠そうな目を擦りながら彼女は部屋から出てきた。
「ごめんね、もうちょっとで出来るからそこ座ってt」
ちゅっ
彼女が俺の頬にキスをした。
「.........え?」
「ごめんね玲人(れいと)......昨日眠くて出来なかったから...今するね...」
俺は固まって動けない。
葉瀬は眠そうに首を傾げてキスを繰り返した。
そんな様子を時計の針は気にもせず、カチ、カチ、カチと一人勝手に進んでいた。
お題 「時計の針」
出演 玲人 葉瀬
2/6/2024, 2:14:14 PM