hot eyes

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1/25/2024, 3:09:41 PM

「お兄ちゃん!今日は何の曲作ってるの?」
机の上にあるパソコンに向かって作業をしている僕のお兄ちゃんに話しかける。
「今日はね、奏(かなで)の為の曲を作ってるんだ」
「僕?」
「そう。奏の声を最大限に引き出せるような曲だよ」
「聞きたい!お兄ちゃん歌って!」
「まだ出来てないけど、しょうがないな。特別だぞ?」
「わーい!」
お兄ちゃんがギターを手に取り、弾き語りを始める。

「___♪___♪」

やっぱりお兄ちゃんの曲はいいな。お兄ちゃんの声も綺麗で格好いい。

いつか、お兄ちゃんの曲が有名になって、世界中の人に聴いてもらえたら、ってあの日までそう思ってた。

8月22日。

お兄ちゃんは白い部屋で、静かに目を閉じた。

まだ18歳だった。お酒も煙草も経験しないまま。音楽も世に出さないまま。

だから僕が叶えなきゃ、そう思った。

それから僕は何度もお兄ちゃんの曲を歌って、投稿して、練習して、歌って、投稿して、練習して。それを毎日繰り返した。

お兄ちゃんの歌を、声を忘れないように。


「凄い...1日でこんなに変わるの?」
僕は毎日、ルームシェアしている黒(くろ)に歌を聴いてもらっている。
「黒がお兄ちゃんの映像見せてくれたからだよ。助かってる」
「そんな......私はただ、奏ちゃんにお兄さんを忘れてほしくないだけだよ」
「...そっか」

僕は時々ふと考える。

歌を歌ったところで、1番聴いてほしかったお兄ちゃんはもうこの世にはいない。
もう意味なんてないんじゃないかなって。

それでも僕は歌い続けなくちゃいけない。

お兄ちゃんを忘れないために。



はやくお兄ちゃんに会いたい。

お題 「安心と不安」
出演 奏 黒

1/24/2024, 1:58:48 PM

「うわぁ!!海だ!!」

白い砂浜、青い海と空。映えるカモメ達。

私と幼馴染みの優雨(ゆう)は海に来ていた。
「希里(きり)、はしゃぎすぎだよ」
「だってだって、優雨と久しぶりに遊べるんだもん!!」
そう、幼稚園、小学校、中学校までは同じだったのだが、高校は別々の所に通っている。
まぁ、優雨の頭が良すぎて私がその学校の学力に追い付かなかったからなんだけど。

でも離れた優雨と今日は沢山遊べる日。

「思いっきり遊ぶぞー!!!」

私は天に向かって叫んだ。



「あ~楽しかった~!」
時刻はすっかり夕方。太陽が西側に傾いている頃だった。
「希里凄い濡れたね」
「優雨が水かけてきたからじゃーん!」
他愛もない話をする。
そろそろ帰らないと。暗くなる前に。

「希里、夕日見てから帰らない?」

不意に優雨がそう言った。
「?うん、いいよ」
私達はそこら辺にあった流木の上に座って夕日を眺めていた。
「......最近、どう?学校」
「ん?めーっちゃ楽しいよ!友達もいっぱい出来たし!でもテストはすっごい嫌...」
「ふふっ、希里人見知りだったのにそんなに友達出来たんだ。昔は私の後ろによく隠れてたよね」
「いつの話してるの!もう私は一人でも友達出来ます~!...優雨は?」
「私は生徒会長してるよ」
「生徒会長!?凄!!流石優雨だな~頭も良くて、生徒会長って......私と大違い!羨ましいな~」

そんなことないよ、って言ったような気がする。下向いててあんまり聞こえないな。
「優雨?」
「.........私を心配してくれる人っているのかな」
「私は心配するよ?優雨の家族だって、高校の友達だって心配するんじゃない?」

「本当かな」

優雨はすっ、と立ち上がって海に向かって歩き出す。
「優雨?」
私が呼んでも振り返りもしない。

ちゃぱ、ちゃぱと優雨の足首が浸かる所に歩く。

「優雨、危ないよ」

注意しても聞いてくれない。

そうしている内に優雨は、じゃば、じゃばと膝辺りに水が浸かるまで歩いていた。

「優雨」

ごぽ、ごぽ
優雨はどんどん進む。優雨のスカートが水につく。

気づいたら私も水の中に入って、優雨の腕を掴んでいた。
「希里」

どうしたの?何かあった?話聞こうか?って言いたいことは沢山あったのに、

「死なないで」

そう口走っていた。

「......わかった」

そこは、うん、じゃないんだね。

夕日の背にした優雨の顔は、逆光のせいであまり見えなかった。

お題 「逆光」
出演 希里 優雨

1/23/2024, 2:04:38 PM

※流血表現あり


「早く!!こっちだ!!」

私達は犯人から逃げている。

私の恋人、拓也(たくや)が必死に手を引く。強く引っ張られ過ぎて私の身体が浮いてしまいそうだ。なんとかそれを阻止して私も足を動かす。

景色がぐんぐん変わっていく。

突然、視界が開けた。

出られた。そう思った。

「ぁ......ああああぁぁぁぁあぁああぁッッ!!!」

私の前を走っていた拓也が、しましまの服を着た男に刺された。

「にげ」

ぶしゅっ

何かが吹き出すような音が聞こえた。

彼の口が何かを言うようにパクパクと動いているのが見える。

なんで、なんで拓也が?代わりに私が刺されてしまえば良かったのに!

彼の身体は崩れ、ぐしゃりと音を立てて泥の塊になった。

逃げないと。私は直感でそう思った。

足を動かしても、動かしても、空を蹴るようで届かない。

「あっ」

べしゃっ、と情けなく前に転ぶ。

地面に影が出来て、顔だけを上げた。

先程の泥の塊が私の顔に覆い被さり、



「っ...!!......はっ...はっ...」

目が覚めた。

夢だったんだ。
私は起き上がり周りを確認する。

真夜中、ベッドの中、見慣れた天井、温かい隣。私はそっと眠っている彼の頭を撫でる。拓也は確かにここにいる。ホッと胸を撫で下ろす。
「...ん......秋(あき)...?」
彼が目を開ける。
「ごめん、起こしちゃった?」
「んーん、だいじょうぶ......秋はどうしたの...?」
「......ちょっと寒くて」
貴方が死ぬ夢を見た、なんて言えなかった。言ってしまえば、現実になってしまいそうだったから。

「......秋、ん」

彼は身体を起こして、両手を広げる。
おいで、という意味なんだろう。私は拓也に抱きついた。そうすると拓也の両手が私の背中をとん、とん、と優しく叩く。まるで子供をあやすように。
「どう?温かい?」
「......うん、温かい」
「よかった」
「.........」
「今日、このまま寝ちゃおっか。寒いし、秋もその方がいいよね」
「...うん」
「寒いし布団入ろう。眠くなったら寝ていいよ」
「ん...」

私達は布団に入ってからも抱き合ったまま。彼の体温が高くて心地いい。

私はいつの間にか眠っていた。


彼と抱き合う寝方が虜になって、習慣と化してしまうことをこの時の私は知らない。


お題 「こんな夢を見た」
出演 秋 拓也

1/22/2024, 1:08:32 PM

戻ることが出来るなら、いつに戻りたい?

子供の頃なら一度は考えるだろう。

その時俺は真っ先に、きょうりゅうがみたいからむかし!と答えた。

子供らしい、可愛い答えだったろう。

今はどうなのかって?そうだなぁ...

どこから戻れば良かったかな。

この路地裏に入る前からかな。

今日の朝からかな。

それとも、護身用にってナイフを買ったときかな。

それとも、俺があの男に出会う前?

社会人になる前?

それとも___...

俺はゆっくりと歩き、誰にも見つからないようにアイツの家に行く。

正義感が人一倍強くて、そのせいで喧嘩ばっかで、いつも口煩いけど、俺の一番の友達。

戻るとしても、アイツに出会う前には戻りたくないな。

そうやって俺は、アイツの家のインターホンを押す。

なんの疑いもなく出てきたコイツにこう言う。


「やっちゃった」


コイツの正義が、瞳の奥で微かに揺らいだ気がした。

やっぱり、俺達が出会う前かな。

お題 「タイムマシーン」

1/21/2024, 2:58:42 PM

「ただいまー!」
軽快な声が玄関に響く。俺は料理していた手を止め、玄関へと向かう。
「おかえり」
「えへへ、ただいま」
声の主はこの家の同居人、葉瀬(ようせ)だった。彼女はいつもより嬉しそうに笑う。
「見て見て、じゃーん!」
彼女は手に持っていた白い箱を誇らしげに見せた。
「ケーキ買ってきた!」
「えぇ?太るよ」
「む、いいじゃん。玲人(れいと)の分もあるんだし」
ぷく、と頬を膨らませる。
「はいはい、わかったから早く着替えておいで」
「はーい」
太る、と言いながらそれを許してしまっている俺はつくづく葉瀬に甘いと思う。まぁ、しょうがないよね。

俺はケーキを冷蔵庫へとしまいに行った。


「ご馳走さま」
一足先に食べ終わった彼女は皿洗いを始めるのか、シンクにお皿を持っていった。
「ケーキ、冷蔵庫にあるから先に食べてていいよ」
「ん?んー...」
なんとも言えない微妙な返事をする。

数十分後には俺も食べ終わり、お皿を運んでいた。
「今日は私が洗うよ。だから玲人は先にお風呂入ってていいよ」
「珍しい」
「珍しい...って私だって率先してやる時はやります~、ってか週三は私が洗ってます~」
「あぁ、そうだったね」
「そうだったねって忘れてたの!?も~」
またぷく、と頬を膨らませる。
「ごめんって」
「まぁ許すとして、はよ!行ってこい!私次!」
「はいはい。葉瀬も早くね」
「はぁ~い」

皿洗いをして、お風呂に入って、着替えて。

そうして全てが片付いて、俺達はソファでケーキを食べる。
葉瀬が買ってきたのは、駅前に出来た新しいケーキ屋さんのショートケーキだった。

苺が大きい。赤くて艶々していて、まさに王様の様に真ん中に立っている。クリームが胃もたれしない程度に甘い、でもふわふわ。ついでにスポンジもふわふわ。

「美味しい...」
「ん~、甘...染みるぅ...」

俺がゆっくり食べている横で、凄い速さでケーキが無くなっていく。
「あ、無くなった...」
「早くない?味わって食べたれた?」
「食べれた。ケーキが一瞬過ぎたんだよ」
葉瀬は食べ終えると前にあったテーブルにお皿とフォークを置き、肘をつきながらこちらを見た。
「......あげないよ?」
「いらないよ。玲人が食べてるとこ見たいだけ」
そんなにじっと見られたら食べられないんだけど、なんて事を思いながらフォークを進める。
「...ふふん」
何がそんなに面白いのか、そう聞きたいけど勇気が無いから言わない。

そうやって食べ終えて片付ける。勿論、二人で。

そうして寝る前に歯を磨く。

「......うぅっ...」

いつの間にこんなに寒くなったのだろう。俺達は早めに布団に入った。

「疲れた......」

彼女の体温は平均より高く、温かい。まるで湯たんぽの様だ。
「じゃあ寝ようか。おやすみ」
ライトを消す。
「葉瀬」
俺は彼女が眠る前に、名前を呼ぶ。
「なに、玲人」
少し眠そうな声がする。
「今日、ありがとう。ケーキ美味しかったよ」
「うん...わたしも......ありがと...」
「おやすみ」
「おやす...み...」

しばらくすると、彼女の呼吸が聞こえてきた。

「...葉瀬、ありがとう。大好きだよ。おやすみ」

俺はそう言って目を瞑った。

お題 「特別な夜」
出演 玲人 葉瀬

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