hot eyes

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「お兄ちゃん!今日は何の曲作ってるの?」
机の上にあるパソコンに向かって作業をしている僕のお兄ちゃんに話しかける。
「今日はね、奏(かなで)の為の曲を作ってるんだ」
「僕?」
「そう。奏の声を最大限に引き出せるような曲だよ」
「聞きたい!お兄ちゃん歌って!」
「まだ出来てないけど、しょうがないな。特別だぞ?」
「わーい!」
お兄ちゃんがギターを手に取り、弾き語りを始める。

「___♪___♪」

やっぱりお兄ちゃんの曲はいいな。お兄ちゃんの声も綺麗で格好いい。

いつか、お兄ちゃんの曲が有名になって、世界中の人に聴いてもらえたら、ってあの日までそう思ってた。

8月22日。

お兄ちゃんは白い部屋で、静かに目を閉じた。

まだ18歳だった。お酒も煙草も経験しないまま。音楽も世に出さないまま。

だから僕が叶えなきゃ、そう思った。

それから僕は何度もお兄ちゃんの曲を歌って、投稿して、練習して、歌って、投稿して、練習して。それを毎日繰り返した。

お兄ちゃんの歌を、声を忘れないように。


「凄い...1日でこんなに変わるの?」
僕は毎日、ルームシェアしている黒(くろ)に歌を聴いてもらっている。
「黒がお兄ちゃんの映像見せてくれたからだよ。助かってる」
「そんな......私はただ、奏ちゃんにお兄さんを忘れてほしくないだけだよ」
「...そっか」

僕は時々ふと考える。

歌を歌ったところで、1番聴いてほしかったお兄ちゃんはもうこの世にはいない。
もう意味なんてないんじゃないかなって。

それでも僕は歌い続けなくちゃいけない。

お兄ちゃんを忘れないために。



はやくお兄ちゃんに会いたい。

お題 「安心と不安」
出演 奏 黒

1/25/2024, 3:09:41 PM