※流血表現あり
「早く!!こっちだ!!」
私達は犯人から逃げている。
私の恋人、拓也(たくや)が必死に手を引く。強く引っ張られ過ぎて私の身体が浮いてしまいそうだ。なんとかそれを阻止して私も足を動かす。
景色がぐんぐん変わっていく。
突然、視界が開けた。
出られた。そう思った。
「ぁ......ああああぁぁぁぁあぁああぁッッ!!!」
私の前を走っていた拓也が、しましまの服を着た男に刺された。
「にげ」
ぶしゅっ
何かが吹き出すような音が聞こえた。
彼の口が何かを言うようにパクパクと動いているのが見える。
なんで、なんで拓也が?代わりに私が刺されてしまえば良かったのに!
彼の身体は崩れ、ぐしゃりと音を立てて泥の塊になった。
逃げないと。私は直感でそう思った。
足を動かしても、動かしても、空を蹴るようで届かない。
「あっ」
べしゃっ、と情けなく前に転ぶ。
地面に影が出来て、顔だけを上げた。
先程の泥の塊が私の顔に覆い被さり、
「っ...!!......はっ...はっ...」
目が覚めた。
夢だったんだ。
私は起き上がり周りを確認する。
真夜中、ベッドの中、見慣れた天井、温かい隣。私はそっと眠っている彼の頭を撫でる。拓也は確かにここにいる。ホッと胸を撫で下ろす。
「...ん......秋(あき)...?」
彼が目を開ける。
「ごめん、起こしちゃった?」
「んーん、だいじょうぶ......秋はどうしたの...?」
「......ちょっと寒くて」
貴方が死ぬ夢を見た、なんて言えなかった。言ってしまえば、現実になってしまいそうだったから。
「......秋、ん」
彼は身体を起こして、両手を広げる。
おいで、という意味なんだろう。私は拓也に抱きついた。そうすると拓也の両手が私の背中をとん、とん、と優しく叩く。まるで子供をあやすように。
「どう?温かい?」
「......うん、温かい」
「よかった」
「.........」
「今日、このまま寝ちゃおっか。寒いし、秋もその方がいいよね」
「...うん」
「寒いし布団入ろう。眠くなったら寝ていいよ」
「ん...」
私達は布団に入ってからも抱き合ったまま。彼の体温が高くて心地いい。
私はいつの間にか眠っていた。
彼と抱き合う寝方が虜になって、習慣と化してしまうことをこの時の私は知らない。
お題 「こんな夢を見た」
出演 秋 拓也
1/23/2024, 2:04:38 PM