hot eyes

Open App

「ただいまー!」
軽快な声が玄関に響く。俺は料理していた手を止め、玄関へと向かう。
「おかえり」
「えへへ、ただいま」
声の主はこの家の同居人、葉瀬(ようせ)だった。彼女はいつもより嬉しそうに笑う。
「見て見て、じゃーん!」
彼女は手に持っていた白い箱を誇らしげに見せた。
「ケーキ買ってきた!」
「えぇ?太るよ」
「む、いいじゃん。玲人(れいと)の分もあるんだし」
ぷく、と頬を膨らませる。
「はいはい、わかったから早く着替えておいで」
「はーい」
太る、と言いながらそれを許してしまっている俺はつくづく葉瀬に甘いと思う。まぁ、しょうがないよね。

俺はケーキを冷蔵庫へとしまいに行った。


「ご馳走さま」
一足先に食べ終わった彼女は皿洗いを始めるのか、シンクにお皿を持っていった。
「ケーキ、冷蔵庫にあるから先に食べてていいよ」
「ん?んー...」
なんとも言えない微妙な返事をする。

数十分後には俺も食べ終わり、お皿を運んでいた。
「今日は私が洗うよ。だから玲人は先にお風呂入ってていいよ」
「珍しい」
「珍しい...って私だって率先してやる時はやります~、ってか週三は私が洗ってます~」
「あぁ、そうだったね」
「そうだったねって忘れてたの!?も~」
またぷく、と頬を膨らませる。
「ごめんって」
「まぁ許すとして、はよ!行ってこい!私次!」
「はいはい。葉瀬も早くね」
「はぁ~い」

皿洗いをして、お風呂に入って、着替えて。

そうして全てが片付いて、俺達はソファでケーキを食べる。
葉瀬が買ってきたのは、駅前に出来た新しいケーキ屋さんのショートケーキだった。

苺が大きい。赤くて艶々していて、まさに王様の様に真ん中に立っている。クリームが胃もたれしない程度に甘い、でもふわふわ。ついでにスポンジもふわふわ。

「美味しい...」
「ん~、甘...染みるぅ...」

俺がゆっくり食べている横で、凄い速さでケーキが無くなっていく。
「あ、無くなった...」
「早くない?味わって食べたれた?」
「食べれた。ケーキが一瞬過ぎたんだよ」
葉瀬は食べ終えると前にあったテーブルにお皿とフォークを置き、肘をつきながらこちらを見た。
「......あげないよ?」
「いらないよ。玲人が食べてるとこ見たいだけ」
そんなにじっと見られたら食べられないんだけど、なんて事を思いながらフォークを進める。
「...ふふん」
何がそんなに面白いのか、そう聞きたいけど勇気が無いから言わない。

そうやって食べ終えて片付ける。勿論、二人で。

そうして寝る前に歯を磨く。

「......うぅっ...」

いつの間にこんなに寒くなったのだろう。俺達は早めに布団に入った。

「疲れた......」

彼女の体温は平均より高く、温かい。まるで湯たんぽの様だ。
「じゃあ寝ようか。おやすみ」
ライトを消す。
「葉瀬」
俺は彼女が眠る前に、名前を呼ぶ。
「なに、玲人」
少し眠そうな声がする。
「今日、ありがとう。ケーキ美味しかったよ」
「うん...わたしも......ありがと...」
「おやすみ」
「おやす...み...」

しばらくすると、彼女の呼吸が聞こえてきた。

「...葉瀬、ありがとう。大好きだよ。おやすみ」

俺はそう言って目を瞑った。

お題 「特別な夜」
出演 玲人 葉瀬

1/21/2024, 2:58:42 PM