雷鳥໒꒱·̩͙. ゚

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6/16/2023, 7:23:29 AM

―好きな本―

小学生の頃。
今思い返すに、あれは私の
初恋だったのかもしれない。

私が気になった相手は、幼なじみの男の子。
運動神経が良くて、せっかちだけど、頭は切れて…
かっこよくて面白くて、いつも全力で情熱的で。
ちょっとツンデレなところもあるけれど、
根は優しいのが所々に滲み出ている。
とにかく、なんでも出来るような男の子だった。

その子と、席替えで同じ班になった。
顔には出さなかったものの、喜びのあまり
軽く飛び跳ねてしまいそうになって困った。

席替えして間もなく、“好きな本を紹介する”授業
があった。国語の授業だった。
私は本が大好きだった。いつも肌身離さず本を
持っているとか、一日に何冊もの本を読むとか、
そういうわけではないけれど、その本にしかない
ような不思議なことを、文字伝いに体験する。
その感覚が堪らなく好きだった。

勿論、紹介できる本は1冊だけ。
私はどの本を紹介しようか悩んだ。
散々迷った挙句、最近読んだ中で1番温かかった、
«十年屋»という児童書を紹介することにした。
忘れたくても忘れられない大切なものを思い出と
一緒に魔法で預かるという商売をする魔法使いの
話だ。ほっこり温かくなるような、
少し感動するような、そんな本が趣味の私には、
ぴったりな本だった。それに、魔法使いや、
異世界といったファンタジーの世界は、私の好みだ。
加えて、«十年屋»は少し人気のある本なので、興味を
唆られる人も多いだろうという計算もあった。

いよいよスピーチの時間になった。
私は、語彙を一生懸命繋いで、
«十年屋»の魅力が伝わるように、語った。
なんとか、大きな失敗もなくスピーチを終え、
質問タイムが終わると、早速、彼のスピーチが
始まった。彼が“好きな本”と称して紹介したのは
«人狼サバイバル»という児童書だった。
彼曰く、伯爵と名乗る正体不明の男の仕掛ける
命懸けの人狼ゲームに、お互いを疑い、
騙し合いながら挑んでいく中学生の男女の話。
一言で言えば、デスゲームだそうだ。
“デスゲーム”そのジャンルを知ったのは、その
彼のスピーチ。そもそも存在を知らなかったので、
勿論読んだこともなかった。

デスゲームという響きや、サバイバル、命懸けと
いうワードから、感動系の話とは全く違う本だと
いうことはわかった。ただ、«人狼サバイバル»の
良さを溢れんばかりの熱意だけで伝えようとする
彼の姿に惹かれた。彼を知りたい。その思いで、
«人狼サバイバル»を電子書籍で読んだ。
ピンと人差し指を立てた手がスイスイと動いていく。
タブレットの画面を撫でる指が止まらなかった。
気づけばもう本を読み終わっていて。どんなに
すごい本を読んでも、こんなに集中することは
なかった。ドキドキ感に囚われていた時間は、
とても充実していたと感じ、私は一瞬にして、
デスゲームの虜になっていた。
でも、驚いたことがひとつあった。
その«人狼サバイバル»の主人公、赤村ハヤトの
“ハヤト”は、彼の名前と同じなのだ。そして、
赤村ハヤトの相棒として出てくるのは、
黒宮ウサギという女の子は、
ハヤトの幼馴染だった。

彼には、«人狼サバイバル»を読んだこと、また、
その感想を伝えた。すると彼は少し驚いたような
顔をした。読んでくれるとは思っていなかったと。
嬉しそうに喋ってくれた。本を通して得た感情を
また言葉にして分かち合う。その面白さを改めて
感じた。話が落ち着いてきたとき、彼の口から
驚きの言葉が出てきた。
「俺も読んでみたよ、その«十年屋»って本
他のはあまり刺さらなかったんだけど、
«十年屋»だけ、異様に惹かれちゃってさ。
面白かった!なんか雰囲気とかも好きだし、
何より執事猫のカラシが可愛い」
自分の奨めた本を、こんな風に言ってくれるのは
すごく気分が良かった。まるで自分自身が
褒められたような気分だった。その後は、彼と
本の話で盛り上がった。
私がデスゲームに夢中になったように、彼との
時間に夢中になった。彼はこう言った。
「夏休みの読書感想文、
«十年屋»で書くって決めた」
私は思わず笑ってしまった。«十年屋»は
連作短編だから、読感には不向きなはずなのに。
でもそれも、今となってはいい思い出だった。

こうして夏が過ぎた。彼は本気だったらしく、
本当に«十年屋»の読書感想文を書き上げ、
提出したらしい。
そのまま、秋も終わり、冬も終盤になった。
そんなある日、私は知った。
はやとが県外に引っ越すらしい、と。
彼から直接聞いたわけではなかった。友達の
噂話を通じて聞いた。私はそのまま、
何も言えぬまま、何かを渡すことも出来ぬまま、
中学生になった。彼は兵庫県にいた。

私たちに連絡手段はなかった。新しい住所も
知らない。電話番号も知らない。だから、
今も連絡を取れないままだ。
毎日毎日本当に忙しい。
本を手に取る暇すら無くなった。それなのに、
私は彼のことを忘れられなかった。しかも
まだ諦めきれずにいて、目の前の恋に1歩を
踏み出せずにいる。それならいっそ、いきなり
現れた正体不明の男が開く命懸けのゲームにでも
参加してみたい。そこで彼との再会を果たせたら。
そんなことが出来なくても、彼との思い出を
全部、魔法で預かって貰いたい。潔く、思い出全て
忘れてしまえたら。

本を手に取る暇すら無くなった。というのは、
嘘だったかもしれない。だって私は、今も
«人狼サバイバル»の愛読者。新刊が出ると、
発売日に、書店まで本を買いに走っている。

この話は、魔法使いのいる世界線でも、
命懸けのゲームのある世界線でもない、
私のノンフィクションだ。

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~紹介させて頂いた本~

«十年屋»シリーズ(静山社) 廣嶋玲子 作
             佐竹美保 絵
«人狼サバイバル»シリーズ(講談社 青い鳥文庫)
             甘雪こおり 作
             himesuzu 絵

6/12/2023, 10:46:12 PM

―街―

ファンタジーですが、街のニュアンス系小説です

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

『こんにちは!タウヴァンさん』
「おやおやこんにちは、ミネル
今日も本を買いに来たのかい?」
『えぇ、新しい薬草の本が欲しいの』
「あぁ!それなら最近入ったばかりのがあるよ」
『まぁ!本当に?それを頂いてもいいかしら?』
「もちろん、いいとも」
『ありがとう!お代はどうするのがいいかしら…
あぁ、そうだ。丁度タウヴァンさんに似合いそうな
深緑色の帽子があるの。それでどうかしら?』
「帽子かい?そりゃあいい!丁度今のが古く
なってきたもんで、新しいのが欲しいと
思ってたところなんだよ」
『それは良かった。じゃあ決まりね。今から
持って来るわ』
「いや、今度、借りていたバスケットを返しに
行くから、そのときにもらおうじゃないか」
『それがいいわね。じゃあ待ってるわ!またね!』
「あぁ!また今度!」

「いらっしゃい、ミネルちゃん」
『こんにちは、アルビーさん!』
「今日は何を買いに来たのかな?」
『ろうそくよ。そうね…2ダースほど
頂けるかしら?』
「売ってあげるよ。でも、2ダースなんて何に
使うんだい?」
『さっき、タウヴァンさんの本屋さんで
新しい本を買ったのよ。その本に使うわ。』
「ろうそくがなくても本はお喋りさんだから、
読み上げてくれるだろう?」
『そうなんだけど、私はゆっくり自分で
読みたいのよ。だから、本にろうそくを
食べさせて、静かにしておいてもらうの』
「なるほど。本にろうそくをあげると
黙ってくれるなんて、よく知ってるね」
『タウヴァンさんに教えてもらったのよ』
「そうかい。…はいよ!2ダースだ。
お代は1000イェールだよ」
『1000も?お値が張るのね…』
「最近はライアス様の体調が優れないと
聞くからねぇ」
『知らなかったわ。今度ご挨拶に行くときに
様子を診てこようかしら』
「それがいいね」
『はい、1000イェールね。また来るわ!』
「まいどあり!」

『まぁ!ユリーヌじゃない!
具合は良くなったの?』
「…はい……ミネルさんの、魔法薬……
すごく…よく、効きました…
おかげさまで…今は……元気…です」
『それは良かったわ!体調には気をつけてね。
また何かあったらいらっしゃい』
「ありがとう…ござい…ます」

『ジーク!走ると危ないわよ!!』
「あ!ミネルさん!ごめんなさぁーい!」
『そんなに急いで、何をしに行くところなの?』
「ハクアさんのパンを買うんだよ!
お母さんに頼まれてるんだけど、もう
売り切れちゃいそうなの!!」
『なら、急がなきゃね。でも、気をつけて歩くのよ』
「はーい!」

『あら、こんなところに…ヘビ?』
「クッククク!ヘビじゃなーいよ!!」
『わぁ!?メリューズだったのね!てっきり本当の
ヘビかと…』
「やっった!!やっとミネさんを騙せたや!」
『こればかりは気づけなかったわね…
驚いたわ、ほんと!すっかり擬態も
上手くなったのね!!すごいわぁ』
「へへへ、メリュ、上手くなったっしょ?」
『これでみんな騙せるわね』
「っあーでも、ヘビは1番得意だけど、他は
ちょっと…自信ないや」
『 なら、アルビーさんのお兄さんのところに
行ってらっしゃい。確か擬態が大得意だった
はずよ。色々教えてもらえるかもしれないわ』
「じゃあ決まりだな!今日の午後はお昼食べたら
アルさんの兄さんのとこ行ってくる!!」
『うふふ。元気いっぱいね!行ってらっしゃい』

「あら、そちらはミネル様ではなくて?」
『あぁ!リネスエルご夫人ではありませんか!
お久しぶりですね』
「えぇ、お元気でした?」
『はい、もちろんです』
「それはそうと、近いうちにそちらの病院を
伺わせてもらおうと思っているんですの。
診てくださると嬉しいのだけれど」
『まぁ、そうなんですか。ちなみに、どう言った
ご用件ですか?』
「主人の喉の調子が良くないんですの。」
『それはそれは。では喉のお薬を用意して
いつでもお待ちしておりますね』
「ありがとう存じます。では、ご機嫌よろしゅう」
『はい、ごきげんよう!』

『さてと。やらなきゃいけないことがたくさん
あるわね。喉の薬を作って、念の為ユリーヌの
薬もあった方がいいわね。それから薬草の本を
読んで、新しい薬が出来たら保存をかけて、
ライアス様のところにも行かなきゃならないわ。
あぁ、忙しい忙しい』

6/6/2023, 10:14:15 PM

―最悪―

私は今日の出来事を書いた日記を見て
溜息をついた。我ながら、今日は最悪な日だった

«朝、目覚まし時計の音を止めようとして、
寝ぼけたまま手探りで手に当たったものを
パシっと叩いた。すると目覚まし時計だと
思っていたのはお眠中の飼い猫の 、ミルだった。
ミルはせっかく気持ちよく寝ていたところを
文字通り叩き起され、不機嫌になり、変な鳴き声を
出しながら私を引っ掻きまくってきた。
お弁当に入れる薄焼き卵を作ろうとしたら、
割った卵の中身をゴミ箱に入れ、
ボウルに卵の殻を投げ入れた。ボウルに菜箸を
突っ込んでからやっと異変に気づいた。
これはまぁ、良くある話だと思う。
仕事に行くときも、家を出て、スマホを家に
置き忘れて取りに帰り、鍵をかけ忘れて、
それに気づいてから戻り、鍵をかけて、車に
乗ろうかとしたときに車の鍵を忘れたのに
気づき、また家に戻った。
お昼は、お弁当を食べようとしたとき、
オムライスを作ってきたのにお箸しか
入れてなかったことに気づき、コンビニで
ゼリーを買って紙スプーンをもらい、
紙スプーンでオムライスを食べた。
仕事の帰りは、間違えて、自分の車と同じ車種で
同じ色の違う人の車のドアを開けようとしたし、
リップクリーム買わなきゃと考えながら目薬を
注そうとしたら、リップクリームを塗る勢いで
唇に目薬を塗ってしまった。急いでティッシュで
拭き取ったが、唇を舌でなぞってみると、少し
しょっぱかった。極めつけには、夕飯のとき、
カレーを装おうために、カレー皿を出した
つもりがお茶碗を出していて、しかも何を
思ったのか、その出したお茶碗に麦茶を
注いでいた。
まぁそんなこんなでようやく横になれた。
今日は本当におかしい。呪いか何かの類かと
思えるくらいにはおかしい。まぁ、こんなに
散漫な注意力で事故を起こしたり、仕事で
ミスを犯したりしなかったことが素晴らしい。
私の脳にはほとほと呆れるけれど、これだけは
褒めてあげてもいいか。»

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

半分は筆者の経験談に基づくノンフィクション、
あと半分は筆者が妄想したフィクションです。

5/31/2023, 9:51:03 AM

―ただ、必死に走る私。何かから逃げるように。―

もういつからか分からなくなるくらい、
ずっと走っている。
何かに追われているかのように。
或いはそれから逃げるかのように。
喉は酷く乾ききっていて、
呼吸の仕方も分からなくなるほど、
息も荒々しく乱れている。
只管に苦しい。苦しさも感じないほどに
麻痺すれば、きっと、もっと楽なんだろう。
それなのに、何故か止まることは出来なくて。
止まれない理由は特に無い。
ただ、止まろうと思わないだけ。
特に変わることの無い、薄暗闇の中、
ただただ、必死に走る。
ふと、止まってしまえばどうなるんだろう。
なんて考えがさっきから頭に浮かんでは
一向に消えようとしない。
止まらないとは言えど、苦しいことに
変わりは無い。でも止まれない理由もない。
じゃあ止まればいいんじゃないか。
でも、取り返しのつかないことになったらと
思うと怖くて、なかなか行動に移せない。
昔は、一緒に走っていた人がいたような
気がする。その人たちが行先を照らしてくれて、
そのとき初めて明るみになったのは、
気の遠くなる程長い道が何度にも渡り
枝分かれしており、複雑に入り組んでいる光景。
あれ以来、私の見える範囲に人はいない。
だから光もない。
足を止めることもなくぼーっとしていると、
一つ閃いたことがあった。
なら、歩けばいい、と。止まりたくないなら
歩けばいい。苦しいのは同じかもしれない。
急にペースを落とすのは余計にしんどい
かもしれない。でも、それで気が楽になるのなら。
「でも結局、人生ってそんなもんでしょ」
と、どこかからか声が聞こえた。
「走れなくなったのなら歩けばいい。
走りたいときに走ればいい。それなら
止まらずに進み続けることが出来る。
そうやってペースを調節すれば、
1人になることもない。きっと、誰かが
道を照らして、様々な選択肢を与えてくれる」

5/28/2023, 3:10:02 AM

―天国と地獄―

私の昔の友達に、双子の男の子がいた。

その双子のうち、1人は、
すごく賢くて、優しくて、
皆に好かれるような人で、
天使の象徴だなんて言われていた。

でも反対に、もう1人は、
成績も性格も悪く、
問題ばかり起こして皆を困らせる人で、
悪魔の象徴だなんて噂されていた。

そう、2人は双子とは思えないほど、
まるで真反対なのだ。

昔の友達、と表現するのは、
5年ほど前、その2人が家族旅行の車で
交通事故に合い、
2人仲良く○んでしまったからだ。

そして、今驚いているのは、
朝起きて家のポストを覗いてみると、
その2人からの手紙が届いていたからだ。

封筒を見てみると、天界からの手紙だと
書いてある。なにかの悪戯だろうかと
思いながらも、恐る恐る
2人の手紙を読んでみて、また驚いた。

天使の象徴と呼ばれていた子は、
今天国で荒ぶれているらしい。
どうやら、生前良いことを重ねた人たちが
集まる天国では、あまりにも平和すぎて、
その環境に感化され、悪人と化していく人が
絶えず、しかも天国には法なんてものもなく、
閻魔様の元で再度裁かれるということも
ないので、読んで字のごとく“無法地帯”
なのだという。そしてその子は
悪人と化した人たちの内の1人になったそうだ。
ずっと、悪魔の象徴の近くで過ごしていたことで
溜まっていたストレスが天使をそうさせたようだ。

反対に、悪魔の象徴と噂されていた子は、
今地獄で罪を償い、浄化されたらしい。
地獄では、愛らしいいたずらっ子から世界中から
追い回されるくらいの極悪人まで様々な
悪人がいるらしいが、悪魔の象徴は地獄では
罪の軽い方らしく、極悪人たちが荒れ狂う姿を
目の当たりにしたその子の内に秘めた良心が
目を覚まし、閻魔様に感心されるほどには
生まれ変わったらしい。

私は関心した。
これを表現するなら、化学変化という言葉が
ピッタリだろうと思った。
善人はいつまでも善人ではないし、
悪人の悪行にも終わりはあるのだなと感じた。

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