―月に願いを―
沈んでゆく太陽を惜しむ
もう少し2人で…と月に祈る
「次の満月の深夜に、姫をお迎えに参ります。」
それだけのメールだった
でもそれだけで全てがわかった
もう私がここに居られる時間は
一月ほどしかないと
初めてここに来た
忘れもしないあの夜のこと
あなたは私を見つけ笑ってくれた
全て受け入れてくれた
いつか終わりが来るんだと
悟った悲しい夜にも
触れた優しい言葉と温かさに
涙を零した日も
それすらも思い出となって終わってしまうんだね
ずっとこのまま2人で居たいと
感じ合った日々ももうお別れ
もうほかに何も要らないから
私に自由を与えて
初めて感じたこの幸せな日々を
手放してしまいたくはないから
帰らないわ永遠にあなたと2人
月に願いを
夜に駆ける/YOASOBI
原作:タナトスの誘惑
[替え歌]
月に願う/RAICHOU
原作:竹取物語(パロディ)
―いつまでも降り止まない、雨―
「今日も雨なの…」
私はもうかれこれ3日ほど
降り続いている雨を窓越しに
見ては、げんなりとした様子で
1人で呟いた
雨は好きだ
静かなる部屋に響く雨音
聞いていると心が安らぐし、
気分が落ち着く
ただ、3日、4日となってくると
話は別で
気圧のせいで酷い頭痛に
悩まされたりする
しかし、それにしても
この雨はどうする気なんだろう
こんなに地面を濡らして湿らせて
止んでくれるという保証もなく
―あの頃の不安だった私へ―
私へのエール
春が来て、幸せだった日々は一転して
急に日常の格が下がって
こんなのじゃ生きていけないなんて
思い込みをして焦って怯えてた
今思えば、ちょっと刺激が強すぎて
悲劇のヒロイン的な気分に
なってたのかもしれない
行動を起こすことさえ怖くて
誰も居ない陰で泣いてばかりで
それなのに、今の私はこんなにも不幸なのに、と
今まで触れ合っていた人達が幸せそうに笑うのが
理解できなかった
罰も報いも同じくらいのはずなのに
どうしてあの子たちは幸せで
私はそうでなくて、なんて
勝手に嫉妬してしまえば抜けなくなって、
思わず陽を避けた
もうたぶん、私ほど悲しい人は
いないんだろうな、なんて
周りの人達は、みんなみんな
幸せなんだろうな、なんて
思い込んで私は独りだって決めつけて
そうする間に周りには本当に誰も居なくて
あのときあの瞬間、勇気をだして
行動出来ていればたぶん、こんなに
厖大な絶望感を味わうことは
なかったんだろうな、なんて
後悔が耐えなくて
もう結局どうしたいのかなんて
わかんなくなって
未来に一切の希望も見出せなかった
そんな、あの頃の不安だった私へ
まず先に言う
未来への不安はまだ断てていない
今だって何もかもが不安だし、
これで大丈夫なのかなってずっと考えてる
でもね、幸せだったときには出来ていた、
基本的なことが出来ていなかったことに
気づいた
私はあの春、“人を信じること”を
忘れてしまったんだなって
人を信じていて、友と心から
親しくできたからこそ、
あのときは幸せだったんだよ
人を信じる信じない以前に、周りに人なんて
もういないかもしれない
でもそれでいい
それでも、馬鹿みたいなくらいに人を信じて
何事にも真摯に取り組んでいれば
きっとその姿勢は誰かに届く
誰かの心を打って、影響を受けた人が
寄ってきてくれる
それは途方もないことかもしれない
幸せはまだ遠い未来かもしれない
でも、未来なんて嫌でも訪れる
それは、きっと来るって保証があるってこと
ならそれを信じて前を向いて待つだけだ
そうすれば、いつかは必ず幸せも
巡ってくる
だから、
今が幸せじゃなくても、
幸せを諦めたらダメだ
―昨日へのさよなら、明日との出会い―
太陽が沈んで、空の主役を譲り受けた月が
昇り、星たちがそれを引き立てる
私たちの気なんて知らずに
下りていく太陽は身勝手だし、
遠慮もなしに上がってくる月だって無情だ
嫌気がさす
正義を名乗るかのように昇る朝日は
あまりにも無責任だ
こうやって明日は訪れるし、味気ない昨日は
遠のいていく
縋るほどのものでもないのに、
昨日が恋しくなる
朝日を見ると
―透明な水―
ふと目を覚ますと路地の突き当たりのような
場所に突っ立っていた
目の前にはガラス製の不思議なポットがあり、
その中の透明な水越しにポットの奥を
見ることができた
でも、そのポットから紫色の煙が
大気に触れてはゆっくり消えていくところを
見ると、ただの飲料水ではないのだろう
そのポットを差し出してきたおばあさんは
歌うようにこう言った、
「これは、飲めば自分のなりたい姿に
生まれ変われる水。
生まれ変わりたいのなら、なりたい容姿や
性格や、細かく頭に思い浮かべて、
ティーカップ1杯分飲むことだ。
お代は要らない。ただしひとつ注意点。
生まれ変わったとしても、
君の存在は遺体としてしっかりと残る。
そして君を知る者には、君が
生まれ変わったことが知らされる。
それと、生まれ変わった先で
今の知人たちと出会えるかどうかは君次第。
出会えても、自分の正体を明かすかどうかも
君次第。君が何を思うかによって、
なんでもできるようになる。
さぁ、君はどうするんだい」
おばあさんはポットから立つ煙と
同じ色の着物を着ていて、顔の上半分には
白い狐の面を被っていた
仮面の下から覗く口は怪しげに微笑んでいる
そうだな…と、私は記憶の中で1番古い傷…
頬のあざをマスク越しに撫でながら考えた
私が死んで新しい姿に生まれ変わったと
聞いたら、親は清々することだろう
それに、この間、人間の臓器を全て売り捌けば
低く見積もっても合計で約2000万円の儲けが
あると聞いた
あくまでも噂だが、もし本当なら
両親は目をランランと輝かせることだろう
あの人たちがいい思いをすることには
納得がいかないが、それも私のためだと思えば
悪くない話だ
ただ、私が今まで触れてきた人の中で、
まともな奴なんて居なかった
敬いたいような人もいないし
憧れるような人もいない
生まれ変わることでこの生き地獄から
抜け出せるにしろ、死んでまであんな風に
なりたいとは思わない
どうしたものか、と私は悩んだ
それから○○日経った
結局、私は――ことにした
あの日の決意と行動により、
今では随分と落ち着いた生活を
送ることができている
私は自分には選択する権利があることを知った
そして選択次第で未来はどうにでも変えられる
ということも知った
そのことに気づかせてくれた
あのおばあさんには感謝しかない
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「皆さんは、――の中に入る事柄が
“あの水を飲む”“あの水を飲まない”の2択では
ないことに気がつきましたでしょうか。
…あの子は“選択することが出来る”
あの子の未来は“どうにでも変えられる”
のです」