雷鳥໒꒱·̩͙. ゚

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9/26/2022, 12:59:10 PM

―秋🍁―

人肌恋しい秋?
じゃあ冬から夏の間はどうなんだい?
秋には人を求めたくなるのに、
普段は理不尽に人に当たったりしているんだろう?

食欲の秋?
その秋によって増した食欲を満たすために
摘み取られた命の数を、
君は想像したこともないんだろう?

今でこそ生物の中で1番の権力を誇り
頂点に立つ人間だが、
我らの考え、選択、行動…
全て間違いでないと言えるのかい?

9/25/2022, 2:01:43 PM

―窓から見える景色―

真四角な部屋に、
白くて皺のひとつもない無機質なベッド、
簡単な作りのアイアン製の机、
キャスターの付いた回転椅子、
本がぎっしりと詰め込まれた本棚。
それぞれの家具にあまり装飾がなく、
壁紙も床も在り来りなもの。
そんな至ってシンプルな部屋にあなた1人。
部屋を出ようとは思わないけど、
何もすることがなく、
その部屋で唯一輝いて見えた窓に近寄る。
カーテンはついていなかった。
窓枠に手をかけ、窓越しに外の景色を見る。
なんと美しい景色なんでしょう。
思わず零れた溜息。

このお話通りに想像してみてください。
さて、窓から見える景色はどんなものでしたか。
緑が心地いい朝の景色ですか。
青く輝く海の昼の景色ですか。
黒色の都会の夜の景色ですか。
人それぞれでいいと思います。
それではいくつか文章を付け足しましょう。

―本がぎっしりと詰め込まれた本棚。
そして壁にかかるのは
この部屋に最も不似合いな、監視カメラの数々。
それぞれの家具にあまり装飾がなく、
壁紙も床も在り来りなもの。
壁に同化するかのように白いドアには、
小さく真四角な窓があり、
内側から外せない鍵が外からかかっていた。
そんな至ってシンプルな部屋にあなた1人。―
―なんと美しい景色なんでしょう。
満足して、景色からピントを外すと、
ピントがあったのは窓につけられた鉄の棒。
所謂、鉄格子。
思わず零れた溜息。―

美しい景色なんて気にならなくなりましたね。
―これが夢を壊されてしまったということです。

9/24/2022, 1:18:55 PM

―形の無いもの―

道徳の時間だったか、国語の時間だったか、
小学校の時、
『自分の宝物を持ってきて、
それについてスピーチをしましょう』
という授業があった。
普段は学校に持ってきてはいけないものも、
その授業がある日だけは許されるのだという。
低学年だったため、特に何も考えず、
マンガだとか、ブレスレットだとか、
お菓子だとか、昔拾った花だとか、
そういう物を用意する子がほとんど…
いや、ある子を除けば全員そうだった。
3日間の準備期間、何を持ってくるかの話題で
持ち切りだった。
ほとんどの子の『宝物』情報は出回っていたが、
あの子だけは違った。そう、『あの子』だ。
その子は、学年1クールで、まだ小学生低学年だと言うのに
いつもすました顔をしていて、決して騒いだりしなかった。
彼女に声をかけたり、何かした時の彼女の反応は
5パターン。
1,こくりと頷く。
2,右、左と小さく首を振る。
3,かくんと右に首を傾ける。
4,軽く会釈する。
5,冷たい目で相手を見つめる。
彼女が声を発するとき、
それは喋らなくてはならない場合のみ。
ストレートの黒髪を結わずに肩まで流し、
顔つきは他の子より遥かにキリッと大人びていた。
誰かが言った。
息を潜める忍者のようで、とてもかっこいいと。
誰かが言った。
ずっと無表情で何も喋らなくて、お人形さんみたいだと。

とうとうその授業がやってきた。
スピーチは、席の順で、
出番になったら先生の教卓に出て、宝物を掲げながらする。
低学年らしい薄っぺらいスピーチ、
それも皆似たようなものばかりが続いた。
そしてラスト、ようやく例の彼女の番が回ってきた。
それまでガヤガヤとしていた教室も、
彼女が喋るところが珍しくて、シンと静まり、
皆して彼女に注目した。
自分の席を立ち、教卓に向かう彼女を見て、皆驚いた。
何せ彼女は何も手にしていなかった。
きっとスカートのポケットにでも入ってあるんだろう。
誰もが至ったその予想は、難なく裏切られた。
教室中が唖然としている中、彼女は構わず凛とした声で
こう切り出す。
「皆さん、宝物らしき物を手にしていない私に
とても驚いていることでしょう。
家にでも忘れてきてしまったのかと思っている方も
いるでしょう。
でも、私は決して忘れ物をしたわけでは無い。
なぜなら、私の宝物は、『形の無いもの』だからです。
そして『形の無いもの』は持って来ようがない。
だから私は何も持っていないのです。」
その後2分ほど続いた彼女のスピーチをまとめると、
「私に宝物はない。強いて言うならば、今の自分の境遇だ。
私の宝物は、
『私に優しい家族がいることによる幸せ』である。
だからこれからも大切にできるよう、丁寧に生きたい。」
当時低学年だった私には難しすぎた。
でも今ならわかる。彼女の言うことにはとても共感できる。
それにこうも思う。
形の無いものを意識することができ、またそれを
大切にしようと思えることは、簡単にはできない、
とてもすごいことだと。
彼女が忍者だとは思わないが、
こんな人がお人形さんであるはずはないので、
私は『彼女は忍者のようでかっこいい』に1票。

9/23/2022, 2:16:14 PM

―ジャングルジム―

言えない。

昔、君とジャングルジムで遊べたのは、
君に会いたいがために、
いつでも勉強を強制して、
遊びなんてものを許さなくて、
私と周りの人との付き合いまで制限してくる親に
秘密で家を抜け出していたからだと。

最初はジャングルジムが怖くて、
1段しか登れなかったけど、
上に登っている君と同じ場所にいたくて、
頂上まで登れるようになったこと。

いつしか、ジャングルジムの頂上で
君と夕日を眺めながら色んなことを喋るのが
難しくて嫌いな勉強を頑張るためのご褒美に
なっていたこと。

公園に君が来ても、
いつも素っ気ない顔で振舞っていたけれど、
その顔の裏でどれだけ君が来てくれたことを
喜んでいたか。

そして、もう君に会うことが出来なくなって、
どれだけ私が絶望しているか。
君にこれらの想いを伝えそびれてしまったことを、
どれだけ悔やんでいるか――
なんて、もう絶対に言えない。
こんな私に残されたのは、
私を自在に操る親の手によって念密に作られた、
『世間一般的な優等生』の仮面だけなのに。

9/23/2022, 4:40:11 AM

―声が聞こえる―

白以外に色のない部屋にいた。寂しい部屋だ。
もう1000日以上をこの部屋で過ごしている。
私の居慣れた部屋。
そんな部屋に、明るく大きな声が響いていた。
「で、またそいつが言うんだよ、
人は死んだら空に昇っていってあの世に着くんだ!って!
そういう本を読んだんだ!って!もーマジでウケる〜!!」
大きな声の主がケラケラと明るく笑う。
私は言った。
『ねぇ声が大きすぎるって。また怒られちゃうよ?』
「誰にだよ?」
『看護師さんにだよ』
「あ〜…あいつか。
ここはお喋りする場所じゃないんですゥ!!ってさ、
うるせぇんだよな〜」
彼は看護師さんの口調を真似た。
大分バカにしたような言い方だったけど、
一概に似ていないとは言いきれなくて、
思わず笑ってしまう。彼もつられて笑った。
この時間、いつまで続いてくれるかな…
そんなことをふと考えた時。
『っ!!』
ズキンっと胸の辺りが押し潰されるような痛みを感じた。
かと思えば、呼吸がまともに出来なくなり、
ハァハァと息が荒くなる。
「お、おい!?どうした!おい!!」
彼も私の異変に気づき、慌てる。
ナースコール、押さなきゃ…言おうとするけど、
喉が掠れて声が出なくて、
ヒューと声になれなかった風だけが口から出た。
こうなれば自分で…と思い、ゆっくりと手を動かす。
私の手がベッドから完全に離れたところで
彼も気づいたらしく、ちゃんと押してくれた。
もう終わり、なのかな…
いつ『その瞬間』が来てもおかしくない私は、
いつ『その瞬間』が来ても、絶対怖くない。
そういう自信を持っていた。
でも今考えれば、そんな自信、
どこから湧いて来たんだろうと思う。
少し怖い。いや、正直に言う。かなり怖い。とても怖い。
もうすぐ彼の声が聞こえなくなる。
もうすぐ彼と笑えなくなる。
もうすぐ彼を思い出すこともできなくなる。
そんなの怖すぎる。私は最後の力を振り絞って言った。
『さ、いご……ま、で…いっ…しょ、に…
…いてっくれ……る…っ……?』
目尻から水がツーっと零れた。
それが涙だと判断できるまで、
どれだけの時間を要したことか。
彼も彼で涙を流しながら、私に向かって何か叫んでいた。
何を言っているのかは、よく分からなかった。
――そこで意識がプツンと消えた。

漆黒に染まった闇の中にいた。
こんなところに来た覚えは無い。
そんなの、本来なら誰でもパニックになる状況だ。
でも、不思議と心は落ち着いていて、
冷静に考えることが出来た。
ただ、不思議なことはもうひとつ。
体の感覚が一切ないのだ。
上手く表現出来ないが、強いて言うならば、
金縛りにあったような、そんな感じだ。
そのとき、遠くで何か聞こえた。
音が聞こえる。
人が行き交う騒がしい音。
声が聞こえる。
明るくて、大きくて、どこか懐かしい声――
それと、慌てている人達の声。
でも、誰が喋っているのか、
何を喋っているのかは分からなかった。
聞こえていたものがどんどん小さく遠くなっていき、
気づけばまた意識が途絶えていた。

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