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4/13/2024, 8:43:27 AM

『遠い空へ』

 僕は今、村の近くの山にある神社の鳥居の前にいる。

 理由を話そう。最近、僕の村で行方不明になる人が多発している。

 その中には僕のかなり仲の良かった幼馴染、小夜も含まれている。仲の良かった僕の親達がずっと小夜たち行方不明者を探しているらしい。

 行方不明の原因は不明。村長などは神の祟りだとか言っているが僕はあまり信じていない。

 何故なら、この村には言い伝えがある。

 逢魔が時と呼ばれる時間。夏ならまだ明るく、冬なら真っ暗になる18時ピッタリ。その時間にこの村の近くにある山の頂上にある神社に行く。そしてその神社の鳥居をくぐる。丁度18時に鳥居をくぐるとこの村とは違う、村から、いや、この世界から遠い所にある違う『世界』に行けるらしい。

 僕はそれだと思った。小夜達が行方不明になった原因はこの言い伝えだと。

 だから、僕は来た。その件の山の神社に。その言い伝えが真実か確かめる為に。

 あと18時まで5秒だ。

 5……4……3……2……1……

 18時になるのと同時に、僕は怖くて目をつぶり、鳥居をくぐった。

 恐る恐る目を開けると、何も変わらない、ただのいつもの神社だ。

 「な〜んだ、嘘だったんだ。怖かったぁ〜」

 安堵していた。もしも本当に行ったら、どうしようと思っていたから。

 そして、後ろを向き、帰ろうとした時。

 「貴方も、こっちに来たいの?」

 「え?」

 思わず振り返ってしまう。神社には僕しかいなかったはず。友達も両親も呼んでない。

 誰も居なかったはずなのに、神社には僕と同じくらいの身長の女の子がいた。

 その子はもう一度、僕に声をかける。

 「貴方もこことは違う世界。『空』に来たいの?」

 と。

 
 

 

4/12/2024, 8:09:14 AM

『春爛漫』

 『ねえ! 速く学校行こ! 桜綺麗だよ!』

 満開の桜並木を2人で歩いた、高校3年生の春の思い出。

 桜を見るたびに、俺の1番好きな人、小夜の事を思い出す。

 小夜は春が好きで、よく俺の手を引っ張って外に出て桜を見るような、桜が大好きな子だった。

 当時の俺は「ゲームしたいから行きたく無い」みたいな事を言う生意気な小僧だった。だが、正直満更でも無かった事を覚えている。

 2人で、桜を見に行った。時にはお花見をしたり、桜並木を歩いたりした。

 全て俺と小夜との大切な思い出だ。

 「小夜、春が来たぞ。お前の大好きな春、そして桜だ」

 目の前の墓に手を合わせた後、俺は言う。

 「同期の悠凛は花粉症が酷いってさ。俺は花粉症じゃないからわからないんだけどさ」

 少しだけ、世間話をする。世間話、と言っても俺が一方的に話すだけのただの独り言だ。

 「お前も一緒に桜を見れたら良かったんだけどな。そうすれば……お前との思い出をまた語れたかもしれん」

 少しだけ、目尻が熱くなる。目の前に眠っているであろう人の顔を思い浮かべてしまったから。

 「じゃあ、そろそろ行くよ。仕事に行かなきゃ。またこれくらいの時間に来るよ。じゃあな」

 小夜の墓に背中を向けて、歩き出す。少しだけ歩くと、桜の花びらがひらひらと降って地面に落ちた。

 

 

4/11/2024, 8:23:53 AM

『誰よりも、ずっと』

 7年前から、この時をずっと待ち望んでいた。

 この男、陸を殺す事だけの為に生きて来た。

 この男のせいで俺の両親は死んだ。父、赤吉も、母、青子も。

 その時から決めていたんだ。絶対に復讐するって。

 今まで入念に準備して来た。武器を取り寄せたり、そいつの居場所などを探ったり。

 そして、遂に今日、陸を追い詰めた。縄で悠凛の体を柱に縛り、武器を全て排除した。後は殺すだけだ。

 「最期に言い残すことはあるか?」

 ナイフを陸に突き出しながら言う。

 陸は顔を上げて、俺と目を合わせる。

 「お前、7年前のチビだな」

 「ああ、そうだよ。お前が殺した人達は俺の両親だ」

 「そうか……あの時の……あの人の子か……」

 陸がぶつぶつと何かを呟いているが小さくて聞こえない。

 「言いたい事はそれだけか?」

 「この時を誰よりも待っていた。ずっとな」

 「は? どう言う事だ?」

 意味がわからない。この時を待っていただと? 殺される時って事か?

 「殺すならさっさと殺せ。俺はお前の両親の仇だろう?」

 そうだ。俺は復讐をしなければならない。この男の言葉に耳を貸してはいけないんだ。

 「ああ、そうする事にするよ。じゃあな」

 陸の心臓をナイフで刺す。

 次の瞬間、グサっと言う音がし、陸の心臓にナイフが刺される。陸の胸から血が出てきて、陸の来ている服に滲んでいく。俺は復讐を果たしたんだ!

 「ああ、やっとだ! この時をどれほど待ち望んだか! 7年前からずっと!」

 「お……たよ……ご…んなさ……………さん……」

 悠凛がまた何かを呟いていた。確実に心臓を刺したと思ったが、狂ったか?

 「なんだ? 聞こえないぞ」

 悠莉の口に耳を近づける。

 「終わったよ……ごめんなさい……赤吉さん……青子さん……」

 「は?」

 何故この男が俺の両親の名前を? いや、何故今謝罪をしたんだ?

 「おい! 今の言葉はどう言う意味だ! 何故俺の両親に謝った! おい!」

 陸に話しかけて見るが、返答が来ない。陸の頭は力無く項垂れ、体は1ミリも動かない。死んでいた。

 
 

4/10/2024, 8:33:25 AM

『これからも、ずっと』

 「で、なんで深夜に女性が1人で外を彷徨いて、しかも俺のアパートの近くで体育座りを?」

 「いや〜……あはは」

 「流石に話して貰いますよ。飯も風呂も用意してあげたのにまだ何も聞いてないんです」

 「ひ、人の事情にグイグイ来るのはどうなのかな?! もっと私の事を考えてさ!」

 「小夜さん以外にはしません」

 ある日、帰る家が無くて困っていると言っている女性、小夜さんが俺の住んでいるアパートの近くにいたので拾った。

 俺、煌驥は24歳。小夜さんは25歳なので1個上だ。

 それにしても、なんでこんな所にいたんだろう。不思議だ。

 「え〜と、様子を見ようかと……」

 「なんの様子見かは置いといて、小夜さん」

 「あ、写真だ〜」

 「おいこら逃げるな」

 堂々と逃走させる訳無いでしょうよ。立って写真を見に行った小夜さんをまた椅子に座らせる。

 「え〜少しくらい良いじゃん。思い出でしょ?」

 「まあ見られてやばいものでも無いですが……」

 「……やっぱり、捨てられない?」

 「……はい」

 穏やかな目で問いかけて来た言葉に、肯定を返す。

 「申し訳無いですけど、何回も捨てようと思いました。事故があった日以降、ずっとあの事故の夢を見ます。だから、忘れようとしたんです。逃げようとしたんです。でも、捨てられなかった」

 小夜さんが、身を屈めて抱きしめてくる。懐かしい感覚がした。これからもずっと隣にあると思っていた人の感覚が。目から涙が溢れる。もう出ないと思っていた。あの時に泣き枯らしたと思っていた、涙が。

 「大切な思い出だったから。俺の世界で一番愛している人との、小夜さんとの思い出だったから」

 「……ごめんね、1人にして。煌驥くんの静止を聞かないで飛び出して、男の子は守れたけど、私は車を避けきれなかった。煌驥くんは1人が苦手でしょ? だから、様子を見たくて来ちゃった」

 「小夜さん……」

 あの時、俺の伸ばした手が、小夜さんの腕を掴めていたら。小夜さんの代わりに俺が行っていれば、小夜さんは今も……

 「あまり自分を責めちゃだめだよ。私は知ってる。煌驥くんは強くて、優しくて、1人でも立ち上がれる人だって。1人にした奴が何を言っているんだって思うかもだけど、私は煌驥くんに生きて欲しい。幸せになって欲しい」

 「うん……うん」

 小夜さんの言葉で、今まで押し潰されそうだった心が軽くなる。やっぱり、小夜さんは最高の女性だ。ずっと、守りたかった。

 「だから、生きて。幸せになって。貴方を1人にしてしまった馬鹿の、最期のお願い」

 小夜さんは俺を抱きしめる腕に少し力を込めて、腕を離し、立ち上がる。暖かい感触が消えて、少し寒くなる。

 小夜さんの体が、光る。白く、もういなくなるのを暗示するかの様に。

 「ごめん、実はあまり時間なくてさ。もう行かなきゃ。煌驥くんは、大丈夫?」

 「うん、大丈夫」

 立って、ちゃんと小夜さんの顔を見る。気づかなかったが、小夜さんも涙を流していた。

 「俺は、これからもちゃんと生きていく。小夜さんが心配しなくなるくらい幸せになって、また小夜さんに会えた時に笑える様に」

 「うん、頑張って。ずっと、応援してるから。見守ってるから」

 その瞬間、小夜さんが消えた。その光に手を伸ばすが、届かない。

 「ありがとう、小夜さん。俺は、もう逃げない。全て背負っていくから。小夜さんとの思い出も、あの時の後悔も」

 これからも、ずっと。
 

 


 

 

 
 

 

4/8/2024, 6:10:44 AM

『沈む夕日』

 恋愛と言うのは甘く、苦い物だ。

 矛盾しているのはわかっている。だけど私はそうだと思う。

好きな人と付き合ったりしてイチャイチャすると言うのも恋愛だし、好きな人から振られて泣いたりするのも恋愛だ。

 私は、放課後に近くの河川敷に来ていた。幼少期の頃から来ている思い出の場所だ。お母さんに怒られたり、学校で嫌な事があったりした時は、この河川敷の夕日を見ると気持ちが軽くなったりする。

 すでに太陽は落ち始め、周りが橙色に染まっている。

 この河川敷は岸から川に行く道の途中に傾斜があり、階段があってそれを最後まで降りる事で平地にいけて、少し歩くと川の近くまで行ける、と言う様なありふれた河川敷だ。

 下まで降りれる階段を途中まで降り、手すりの下にある支柱の間をくぐり、傾斜がある芝生に座る。

 私は今日、クラスメートの煌驥に振られた。彼にも好きな人がいるらしい。勿論、その人は私じゃ無い。

 だから、振られた。とても苦しい。泣きたい。だから、この気持ちを軽くしてくれるかなって。忘れさせてくれるかなって思って、ここに来た。

 でも、人生はそう上手くは行かない。簡単にこの想いは消えないし、長い時間が経ったり、この後もずっと、何か私が大きく変わったりする出来事でも無い限り煌驥を想い続けるんだろう。

 実らないって、わかってる。もっと話しておけば、仲良くなっておけば、みたいな後悔も沢山出てくる。
 
 今そんな事を考えても、遅い。後悔は『後』から『悔やむ』こと。後を前には出来ないし、私は過去戻り出来るなんて能力も無い。

 太陽が、更に沈んで行く。

 こんな気持ちも、夕日に溶けてしまえば良いのに。

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