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『春爛漫』

 『ねえ! 速く学校行こ! 桜綺麗だよ!』

 満開の桜並木を2人で歩いた、高校3年生の春の思い出。

 桜を見るたびに、俺の1番好きな人、小夜の事を思い出す。

 小夜は春が好きで、よく俺の手を引っ張って外に出て桜を見るような、桜が大好きな子だった。

 当時の俺は「ゲームしたいから行きたく無い」みたいな事を言う生意気な小僧だった。だが、正直満更でも無かった事を覚えている。

 2人で、桜を見に行った。時にはお花見をしたり、桜並木を歩いたりした。

 全て俺と小夜との大切な思い出だ。

 「小夜、春が来たぞ。お前の大好きな春、そして桜だ」

 目の前の墓に手を合わせた後、俺は言う。

 「同期の悠凛は花粉症が酷いってさ。俺は花粉症じゃないからわからないんだけどさ」

 少しだけ、世間話をする。世間話、と言っても俺が一方的に話すだけのただの独り言だ。

 「お前も一緒に桜を見れたら良かったんだけどな。そうすれば……お前との思い出をまた語れたかもしれん」

 少しだけ、目尻が熱くなる。目の前に眠っているであろう人の顔を思い浮かべてしまったから。

 「じゃあ、そろそろ行くよ。仕事に行かなきゃ。またこれくらいの時間に来るよ。じゃあな」

 小夜の墓に背中を向けて、歩き出す。少しだけ歩くと、桜の花びらがひらひらと降って地面に落ちた。

 

 

4/12/2024, 8:09:14 AM