【ジャングルジム】
幼女の相手は疲れる
この初対面の幼女は強引に私をジャングルジムに誘う
幼女は、とうかと名乗った
「お姉ちゃん早く!あはははは!」
とうかは子供らしく大笑いしていて微笑ましくなった
ジャングルジム、懐かしいな
昔はよく妹と遊んだ
あ、とうか早いなぁ 追い付いてやるぞ
私はいつの間にか、とうかと夢中で遊んでいた
子供の頃のように…
「お姉ちゃん、ありがとう!また遊んでくれて」
とうかはそう言うとスキップしながら帰って行った
また?前にとうかと会ったこと、あったかな?
私は記憶を思い返した。
思い当たるとしたら…彼女は透花なのか?
あの無邪気な笑い声、私のお下がりのワンピース
有り得ないが、思い返せば返す程、彼女は透花だ
12年前、ジャングルジムから落ちて亡くなった妹だ
透花は、ただ私と遊びたくて戻ってきたのだ
でも、透花は知ってたのかな
「私が透花を落としたって知ったら殺されてたかな」
知らなかったんだろうな
キーーーッ
「そこのあんた!危ない!!」
___あ、
【秋恋】
彼女は困っていた。
その原因は彼女の親友の舞香が教師に
裏門でキスをされているのを見たことである。
舞香は何も相談をして来なかった為、
次第に心配になり彼女は教師に直接聞くことにした。
秋に入り、教室は受験モード一色でピリついている中
彼女は違う意味でピリ付き、教師を睨み付けていた。
「先生、舞香とどういう関係なんですか?私、見たんですから。皆にバラしてやります。」
彼女は精一杯睨みながらそう聞いた。
教師はというと、黙り込んでひとつ大きな溜息をつき
「頼むから、それだけは辞めてくれ。お願いだ。これはあいつの為でもある。詳しくは後でちゃんと話すから。この通りだ。」
と、頭を下げて頼み込んで来たのだ。
彼女は怒りながらも「分かった」と返事した。
だが、彼女はクラスの人にそのことを漏らしたのだ。
結果、噂は直ぐに広まったがそれは事実でなかった。
事実は、舞香が教師にキスをしたのだった。
舞香は自白し、学校中から白い目で見られ始めた。
そして、舞香は彼女を避けるようになってしまった。
舞香は本気で教師が好きだったのだ。
そして教師は舞香を教師として守ろうとしたのだ。
舞香の恋はこんな形で終わった。そして、
彼女はこんな筈じゃ無かったと涙を流した。
彼女はただ、舞香を教師から守りたかった。
もし堕ちるなら、2人で堕ちたかった。
卒業まで半年を切る中、
もう1つの恋はこんな形で終わった。
【時間よ止まれ】
亡くなった弟は、人知れず恋をしていた
弟の日記にはあるひとへの溢れ出す愛しく苦しい
気持ちが弟のミミズのような字で表されていた
そんな恋心ばかりの日記の中に気になる文があった
おそらく、暗号文である
「もう長くないようだ 日に日に悪化する症状、
ちを吐くこともあった 辛くて仕方ない
らいげつまで生きられるかどうかも分からない」
実に、同情を誘う暗号文だが、僕は笑った
弟はなんて馬鹿なのだろう 僕が解けない訳が無い
不自然な平仮名の各行の1文字目をひらがな表で考え、
その対になる文字、例えば「あ」なら「わ」
この文章では「とみか」
僕が2年前、騙すように弟から奪った僕の婚約者だ
弟よ、恨むなよ
両親から愛され、才能に溢れたお前がずっとずっと
どうしようもなく妬ましかった お前の出番はもうない
僕はニヤリと笑い、 ページを捲った
その瞬間、僕は全身の血の気が引くのを感じた
「もう遅いかな?ごめんなさい
とわに貴方に着いて行く
ひとりにしないで」
つまり、「共に」
とみかの字だ
…!「共に」という事はまさか!
僕は日記を投げ捨て走り出した
時間よ止まってくれ!とみかだけは、どうか!
弟は僕と彼女が暗号を解けることも分かって
僕への今までの報いとして最後に復讐をしかけたのだ
神よ!弟よ!どうか僕を許してくれ!
僕は弟と違って、とみか以外何も無いんだ!
【夜景】
有田は生前、とんでもない性癖を持っていた
普段は真面目で心優しく仕事熱心な人柄だったが、
性癖を満たした後、自宅の高級マンションから
夜景を見下ろす彼はとても同じ人間とは思えなかった
さて、彼の死後では彼を天国に導くか、地獄に導くか
激しい議論が行われていた
議論の末、性癖のみを地獄に導くことが決まったが
そこである大きな問題にぶつかった
それは、性癖は脳なのか陰茎なのかという問題だった
脳側の意見としては、
「性癖はその人の心理や本質を表すものであるから
性的嗜好は脳が行う普段の思考が決めたに違いない」
陰茎側の意見としては、
「彼奴の性癖は陰茎が本能的に独自に考え、
それを脳が受け取っただけである為脳は無実である」
この対立は天界を揺るがす程激しかった為、
神々も関わったがそれでも尚、何の発展も無かった
だが、脳と陰茎の証言からある事実が判明した
脳と陰茎は共犯関係だったということだ
脳と陰茎は最初は抵抗したが、直ぐに地獄に送られた
そして、有田本人は天国に導かれて神々からは
彼の住んでいた大好きな高級マンションも送られた
しかし、有田は大好きなあの夜景を見下ろした途端、
苦しそうな呼吸と共に涙を流したのだ
性癖を失った有田にとっては天国も地獄だった
【花畑】
「妾はシェプスト様 今は蝶の姿だ
だが、元はファラオという高貴な存在だったのだ
今は花の蜜を吸い、人気のない花畑に住んでおる
虫類には妾の特別さに気付かない馬鹿しかおらんが
人間であれば妾に直ぐに気付き、崇拝するであろう?
妾はそなたのような者が来るのを待っておった
そなた、名はなんと言う? 褒美をくれてやろう」
青年は言語能力のある蝶に驚いておるようだった
全く、蝶は人間と話したくないだけだ
誰が話せないと決めたのじゃろうか
「すみません。蝶が話したことに驚いてて…
良ければ家に来ませんか?きっと助けになれますよ」
青年は人の良さそうな笑顔で提案をすると
妾の速度に合わせてゆっくりと歩き出した
青年の家は狭いが、涼しく居心地も悪くなかった
「シェプスト様にご紹介したい者がおります」
「良かろう 連れて来るが良い」
そう言うと、青年は楽しそうに部屋を後にした。
数分後、「入りますよ」という声と共に扉が開いた
その瞬間、何かが妾の体を捕まえた まずい 猫だ
「辞めろ!妾は蝶なのだぞ!辞めろ!辞めてくれ!」
青年は慌てて猫を抱えて猫を落ち着かせた
「駄目だよササミ この子に傷がついたら困る
この子は僕の大事な標本になるんだから、ね?」
妾にはその標本というものが何か分からなかった
だが、その時の青年の顔のその恐ろしいこと、
蝶は多くを望んではならなかったと思い知らされた
あぁ、妾の居場所はここではなかったのだ
蝶は蝶らしく何も知らず
花畑を世界の全てと思えば良かったのだ